一年生夏編 恋人と過ごす夏

 魔法大会当日。
 組数が予想より多かったということで、大会プログラムは午前午後二部制になっています。

 学院の校庭には特設の観覧席が設けられていて、保護者や見学組の生徒が思い思いの場所に座っていました。

 観客席にお父様がいるのを見て、イワンが顔をしかめました。お父様はたぶんイワンが嫌がるのをわかっていますね。満面の笑みでこちらに手を降っています。

 うちはお母さんが来てくれたんです。レネは学校があるので来れず、残念がっていました。


 今回参戦ペアは十八組なので、棄権がなければ十七回戦まであります。
 第一回戦勝敗が決し、二回戦は私とイワン。
 そこで予想外の相手と当たりました。

「人数が足りないから出てほしいって、母さんが言うから……」
「親父が出ろって言うから」

 クララさんとローレンツくんのペアでした。

 これまで先生のお子さんが入学したときは、強制参加が通例となっているようです。
 ローレンツくんもお父さんが魔法士団長である手前、参加しないわけにはいかないらしいです。
 審判役の先生が勝負の内容を読み上げます。

「二回戦は、使い魔使役。あの大木のどこかに問題が書かれたボードが下げてあります。それを読み取り、先に正答を出せた方が勝ちです」

 木の上にあるのなら、イワンとクララさんの使い魔ですね。
 イワンとクララさんがそれぞれ使い魔を喚び、先生の「開始!」の号令とともに飛び立ちます。

 小鳥と鷹では飛ぶ速さが段違い。クララさんの鷹はあっという間に木のところにたどり着きました。
 しーちゃんも遅れを取りながも木につきます。

 機動力が違えど、問題の書かれたボードがどこにあるかまではわかりません。
 先に探し当てることができたなら勝機はあります。
 イワンはしーちゃんの視界を間借りし、私に小声で聞いてきます。

「食堂舎の日替わりᏟ、一昨日のメニューはなんだった?」
「あ、私食べたから覚えてます。燻製コケトリスのパンリゾット!」

 手を挙げて答えると、先生が旗を上げます。

「勝者、イワン・アラセリスペア!」

 まさかの、魔法となんの関係もない問題でした。魔法士団の歴史を答えろとか、呪文の文言を答えろとかそういう難しいのが来ると思ってましたよ。

「わーー! やりました!」
「さすが、毎日通っているだけはあるな」
「もちろんです!」

 クララさんはそんなに悔しくもないようで、

「う〜ん。さすがに食べていないメニューまでは覚えていなかったわ」

 と笑っています。お母さんに言われたから参加しただけなので、むしろ初戦敗退で肩の荷が下りたと言います。

 一方ローレンツくんは頭を抱えて叫びます。

「ぐわーー! セリスをデートに誘うチャンスだったのに」
「誘われても断りますよ?」

 優勝賞品、私にお願いごとをするつもりだったんですね。
 イワンが短く舌打ちして、ローレンツくんに軽蔑した眼差しを送ります。

「バカなのか」
「うるせー! お前なんか嫌いだ!」
「お互い様だな」

 ニッコリ微笑み返すイワン、あおってますね。
 何はともあれ初戦は勝ち抜きました!

 この先ベルナデッタ様と当たらないよう祈るのみです。


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