一年生夏編 恋人と過ごす夏

 大会受け付けの締め切りとなり、イワンが参加者名簿の最終確認をしてから手渡してきます。
 今回会計の出番はないので、私は先生と生徒会の間で書類を運ぶ雑務として動いています。

「一組ろくでもないペアがいたが、オレたちと当たらないことを祈るしかないな」
「ろくでもないペア……?」
「気にするな。トーナメントだから、あちらが初戦敗退してくれれば当たることなく終わる。……それじゃあ、これを教員室に届けてくれ」

 何がろくでもないのか気になりますが、いらぬ心配というなら忘れましょう。
 教員室に行き、大会トーナメントを作る担当のニコラス先生に渡しました。

「ご苦労様。君も参加するんだったね。先輩たちに負けないようがんばりなさい」
「はい。ありがとうございます」

 教員室を出たところで、ベルナデッタ様に会いました。
 謹慎が解けて早々絡みに来たんですか。

「あからさまに嫌そうな顔をするの、失礼じゃありませんこと!?」
「貴女のせいで退学させられかけたので、関わりたくないです」

 退学に追い込もうとするしイワンと別れろと脅してくるし、公爵令嬢だから敬意を払えと言われたって、敬いたくありません。
 きっぱり拒絶の意思を表すとベルナデッタ様は扇をばさばさいわせて高笑いします。

「そうやって強気でいられるのも今のうちよ! 大会で優勝して、婚約解消させますから!」

 あ、察しました。
 この方がイワンが言っていた『ろくでもないペア』の片割れですね。どなたを相棒に選んだかはわかりませんが、たしかに面倒です。

「疑問なのですが、なぜイワンに拘るんですか。貴女の家柄なら、王太子であるセシリオ様とも釣り合いますのに」
「あ、貴女に関係ないでしょう! とにかく、イワンと結婚するのはワタクシですわ!」
「私はイワンがいいので、退く理由がありません」
「ふん。どうせイワンは貴女の治癒魔法が欲しいだけでしょう」
「イワンは私の治癒魔法に興味ないです」

 こうもしつこくイワンに拘るのは、求婚を断られてプライドが傷ついたからというだけで説明がつかない気がします。

「貴女の言い分は、魔族の血を引いているから求婚を受ける人がいるわけない、だから結婚してあげる……宰相の息子だから価値がある、でしたね。イワンのお父様が宰相でなかったら、どうするんですか」

 もっともらしい理由を並べ立てて、イワンを選ぶ人がいるわけないと決めつけて。
 自分の本心を取り繕うための言い訳にしか聞こえません。

「イワンのお祖母様は先王様の妹御ですもの。王家と縁続きになれるから、ワタクシの家にとって利益となります」
「セシリオ様と結婚すれば遠縁どころか王妃ですよ。王家と近づきたいのなら、遠縁のイワンにこだわるのは変ですよね」

 私の問いかけに、ベルナデッタ様は言葉をつまらせます。

「……いい気にならないで。必ず婚約解消させますから!」

 私を鋭く睨んで立ち去りました。

 好きなら好きだと、そう素直に言えばいいのに。
 ベルナデッタ様の参戦目的が私とイワンを別れさせるためなら、私は絶対に勝たなければなりません。

 大切な居場所を渡すわけにはいきません。
 


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