一年生夏編 恋人と過ごす夏

 ベルナデッタ様に絡まれてから一週間。
 二学期最初の生徒会役員集会がはじまりました。
 ミーナ様が背伸びして、黒板に大きく 八の月第三火の日 魔法大会 と記します。

「魔法大会ですか」
「そうよ。生徒手帳にも年間行事として書かれているでしょう?」

 確かに書かれていました。

「魔法大会は、生徒が二人一組になって魔法技能を競うトーナメント戦よ。戦いと言っても対人戦ではなく、威力や技巧の優劣を競うの」 
「そうなんですね〜」
「強制参加ではないから、参加せず観客にまわる生徒も多いわ」

 私も観る方になりたいです。
 一年生が習わない魔法もたくさん見られるでしょう。

「観たいって顔をしてるが、オレとお前は強制参加だ」 
「ええっ!」

 イワンから衝撃の発言が飛び出しました。
 希望者のみ参戦のはずなのに、なぜ強制参加。

「今年は参加ペアが少ないらしくて、学長先生から『生徒会から一組出てくれ』と頭を下げられてしまってね。かといって、わたしが参加するとみんなが気を遣ってしまうだろう? 会長とイワンという案もあるが、魔法属性の相性を考えて君とイワンに頼みたいんだ」

 セシリオ様が申し訳なさそうに説明してくれました。

「わかりました。私とイワンが適任だというのならがんばります!」
「トーナメント編成と審判は先生方が担当してくださるので、生徒会は参加ペア名簿をまとめて先生に託すまでが仕事よ」

 ミーナ様は書類をトントンと机で整えて微笑みます。
 今のところ私とイワンのペアを含めて七組。
 校長先生が嘆くとおり、だいぶ少ないようです。

「去年は九組だったよ。その前は八組。みんなあまり野心がないのかな」
「すぐ終わっちゃいますね」

 参加申し込み締切は来週末まで。
 一組でも多く参加者を募るのが、今のところのお役目です。

「優勝すると何か特典があるんですか?」
「去年と同じなら、学長からありがたーいお褒めの言葉と、直筆のサイン色紙をもらえるだけだ」

 イワンが大げさに肩をすくめます。
 参加者が少ないのはこれが理由じゃ……。

 と、それは学長先生に失礼でしたね。

 もしかしたら私が世情に疎いだけで、学長先生のサインはみんなが奪い合って欲しがるほどすごいものなのかもしれません。

「先生のお許しがいただけるなら、生徒会からも何か優勝の特典を用意しませんか。そうしたら参加者が増えるかもしれません!」
「あら、何かいい案でもあるの?」
「食堂のチケットはどうでしょう」
「新入生歓迎会と同じでは芸がないと思うな」

 ミーナ様に聞かれて答えたものの、セシリオ様に却下されました。

「『生徒会役員の誰か一人指名して願い事を叶えてもらえる権利』なんてどうかな。もちろん、あまりにひどい願い事は却下することができる」
「それ、私とイワンが優勝した場合どうなるんですか」

 特典を与える側の人間が優勝したら無効でしょうか?

「その時は、イワンがセリスさんの願い事を、セリスさんがイワンの願い事を聞けばいいのではなくて? イワンでなくアタシに願い事をしたいならそれでもかまわないですし」
「いいんですか、そんな大雑把な感じで」

 先生の許可もおりまして、セシリオ様提案の『生徒会役員の一人にお願い事を叶えてもらえる権利』という優勝特典が付加されました。
 
 開示したとたん参加希望が飛躍的に増え、最終的に十八組。

 みなさん、そんなにセシリオ様やミーナ様に頼みたいことがあるんでしょうか。

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