一年生夏編 恋人と過ごす夏
「用がないなら通していただけませんか。道を塞がれては進めません」
私はあくまでも正当な主張をします。
ベルナデッタ様はそれでも退こうとしません。
「ワタクシは公爵家の人間ですのよ。お爺様に言えば貴女なんて今日にも退学にできるのです。口を慎みなさい」
同じ公爵令嬢でも、ミーナ様とはだいぶ人間性が違いますね。とは思っても口にしません。
「イワンとの婚約を解消するなら、見逃してあげてもよくってよ」
「それが望みですか」
ベルナデッタ様はまだ諦めてなかったようです。
退学も婚約解消も、どちらを選んでも私に利はありません。
選ぶ価値すらない脅し文句です。
首に下げたお守りの指輪を握ります。
「私、イワンに言われました。ノブレス・オブリージュ。地位や力のある者は、持たぬ者のために力を使い、地位を持つことの責任を果たすのだと」
「だったらなんだって言うんですの」
怪訝そうにするベルナデッタ様とお友だち。
「生徒一人を権力でねじ伏せて、退学するよう仕向ける。それは公爵家の人間として誇れる行いなのですか」
お友だち二人が青ざめ、つばを飲みました。
「庶民が公爵家の人間に意見するつもり?」
「公爵であろうと子爵であろうと、その地に住み、税を納める民がいて成り立っています」
ラウレール領の住民さんとお話して、皆さんとても町と領を愛しているのが伝わってきました。
お父様がみんなのことを思って、きちんと運営しているからです。
そんな姿を知っているから、上に立つ者が領民を馬鹿にするのはいただけません。
まわりにいた生徒たちは危ないと思ったのか、何名か先生を呼びに走っていきました。
貴族相手に問題を起こしたと言われて退学に追い込まれるでしょうか。
自分の発言を撤回する気はありませんが、退学は困ります。
ピピィ、と目の前をしーちゃんが横切りました。くるくる私のまわりを飛んで肩に止まります。
「これはこれは、グラーナトムさん。ぼくの婚約者に何か用ですか?」
後ろに立つ人が私の肩に触れる。
振り返らずともわかります。
イワンが来てくれた。それだけで心強いです。
「立ち話をしていただけですわ」
「『イワンとの婚約を解消するなら見逃してあげてもいい』『お爺様に言えば貴女を退学にできる』ぼくの知らない間に立ち話の定義が変わっていたんでしょうか。勉強不足でした」
しーちゃんを介してすべて聞いていたんですね。
丁寧な言葉なのにひしひし伝わる怒り。自分に言われたわけではないのに背筋が寒くなります。
「言いがかりですわ。本当に立ち話をしていただけです」
「そうですか。本当に立ち話をしていただけなら、アラセリスはぼくとの約束があるので、ここで失礼させてもらいます。構いませんよね」
イワンに手を引かれて、お三方に背を向けます。ベルナデッタ様が歯ぎしりしていましたが、知ったこっちゃないです。
食堂舎で遅めの昼食を注文して、ようやく落ち着きました。
「ありがとうございます、イワン」
「気にするな。それにしても、セシリオやローレンツみたいに家柄が良くて親が要職の人間はいくらでも学院にいるのに、なんでオレに目をつけたのか」
心底嫌そうに舌打ちしています。
「自分が選ぶ立場だと思っておいでなので、断られるのは癪に障るのでは」
ほんの一欠片でも、本当にイワンに好意を持っている可能性も無きにしもあらずですが。
「あいつの心は不味そうだから要らない」
断る理由、悪魔的観点なところが面白いです。
「よく立ち向かった」
「思ったことを言っただけです」
ベルナデッタ様とはやはりお友だちになれそうもありません。
そして放課後、先生からお呼び出しがかかってしまいました。私がベルナデッタ様を罵ってビンタしたとかしないとか……。話がネジ曲がっていませんか。
私はあくまでも正当な主張をします。
ベルナデッタ様はそれでも退こうとしません。
「ワタクシは公爵家の人間ですのよ。お爺様に言えば貴女なんて今日にも退学にできるのです。口を慎みなさい」
同じ公爵令嬢でも、ミーナ様とはだいぶ人間性が違いますね。とは思っても口にしません。
「イワンとの婚約を解消するなら、見逃してあげてもよくってよ」
「それが望みですか」
ベルナデッタ様はまだ諦めてなかったようです。
退学も婚約解消も、どちらを選んでも私に利はありません。
選ぶ価値すらない脅し文句です。
首に下げたお守りの指輪を握ります。
「私、イワンに言われました。ノブレス・オブリージュ。地位や力のある者は、持たぬ者のために力を使い、地位を持つことの責任を果たすのだと」
「だったらなんだって言うんですの」
怪訝そうにするベルナデッタ様とお友だち。
「生徒一人を権力でねじ伏せて、退学するよう仕向ける。それは公爵家の人間として誇れる行いなのですか」
お友だち二人が青ざめ、つばを飲みました。
「庶民が公爵家の人間に意見するつもり?」
「公爵であろうと子爵であろうと、その地に住み、税を納める民がいて成り立っています」
ラウレール領の住民さんとお話して、皆さんとても町と領を愛しているのが伝わってきました。
お父様がみんなのことを思って、きちんと運営しているからです。
そんな姿を知っているから、上に立つ者が領民を馬鹿にするのはいただけません。
まわりにいた生徒たちは危ないと思ったのか、何名か先生を呼びに走っていきました。
貴族相手に問題を起こしたと言われて退学に追い込まれるでしょうか。
自分の発言を撤回する気はありませんが、退学は困ります。
ピピィ、と目の前をしーちゃんが横切りました。くるくる私のまわりを飛んで肩に止まります。
「これはこれは、グラーナトムさん。ぼくの婚約者に何か用ですか?」
後ろに立つ人が私の肩に触れる。
振り返らずともわかります。
イワンが来てくれた。それだけで心強いです。
「立ち話をしていただけですわ」
「『イワンとの婚約を解消するなら見逃してあげてもいい』『お爺様に言えば貴女を退学にできる』ぼくの知らない間に立ち話の定義が変わっていたんでしょうか。勉強不足でした」
しーちゃんを介してすべて聞いていたんですね。
丁寧な言葉なのにひしひし伝わる怒り。自分に言われたわけではないのに背筋が寒くなります。
「言いがかりですわ。本当に立ち話をしていただけです」
「そうですか。本当に立ち話をしていただけなら、アラセリスはぼくとの約束があるので、ここで失礼させてもらいます。構いませんよね」
イワンに手を引かれて、お三方に背を向けます。ベルナデッタ様が歯ぎしりしていましたが、知ったこっちゃないです。
食堂舎で遅めの昼食を注文して、ようやく落ち着きました。
「ありがとうございます、イワン」
「気にするな。それにしても、セシリオやローレンツみたいに家柄が良くて親が要職の人間はいくらでも学院にいるのに、なんでオレに目をつけたのか」
心底嫌そうに舌打ちしています。
「自分が選ぶ立場だと思っておいでなので、断られるのは癪に障るのでは」
ほんの一欠片でも、本当にイワンに好意を持っている可能性も無きにしもあらずですが。
「あいつの心は不味そうだから要らない」
断る理由、悪魔的観点なところが面白いです。
「よく立ち向かった」
「思ったことを言っただけです」
ベルナデッタ様とはやはりお友だちになれそうもありません。
そして放課後、先生からお呼び出しがかかってしまいました。私がベルナデッタ様を罵ってビンタしたとかしないとか……。話がネジ曲がっていませんか。