一年生夏編 恋人と過ごす夏
お泊り会が終わりました。
今は自宅の私室で勉強しています。
やはりミーナ様に教えてもらいながら勉強するのはすごく分かりやすかったですね。一人だと教本を読んでもわからないところの正解を聞くことができないです。
イワンなら、一年のとき首席だったというから教えてくれるでしょうか。
でも、いくら婚約したとはいえ、勉強を教えてほしいって理由で貴族のお屋敷を訪ねるのはどうなんでしょう。
悩んでいると、玄関のベルを鳴らす音が聞こえました。レネは友だちと遊びに行くと言っていたから、今日は家に私一人なんです。
「はい、どちら様で……」
玄関を開けたらイワンがいました。
「相手を確認せず開けるな。危ないだろう。物取りか何かだったらと考えないのか」
「あ、はい、そうですね。次からそうします」
なんで私イワンに叱られてるんですか。というか、会う約束などはしていないのですが。
「どうしたんです?」
「勉強を見てやろうかと思ってな」
「ホントですか!?」
なんという絶妙なタイミングでしょう。頼りたいと思っていたところで来てくれるなんて。
イワンはクックッと笑います。
「お前は考えていることがすぐ顔に出るよな」
「バカにしてます?」
「褒めてる」
頭を撫でられて、それだけですごく安心します。
「学院の図書室なら夏休みの間も開いている。そこで本を借りて、中庭か東屋か、風通しのいいところでやればはかどるだろ」
「名案です!」
景色を楽しみながらだと、気分転換にもなっていいですね。
『学院で勉強します』と、書き置きを残して家を出ました。
学院内をイワンと歩くのは久しぶりです。
図書室で課題に関連する本を借りて、中庭に向かいます。
イワンの歩調にあわせて結ばれた後ろ髪が揺れる。小鳥のしっぽみたいで可愛いです。
ひっぱったら、軽く睨まれました。
「オレの髪で遊ぶな」
イワンがするりとリボンを解いて、長い髪が背中に流れる。
「イワンの髪って私よりもずっと長いですよね。男の人で伸ばしているのって珍しい気がします」
「髪を短くしていると、親父に似ているって言われるから嫌なんだよ」
年頃の息子の、複雑な心境ってやつですね。
「それより、あそこにするか」
イワンが指す先には中庭に設置されたテーブルセットがあります。
私たちと同じ考えの生徒も少なくないのか、いくつかのテーブルには座って本を読んでいる子がいます。
空いたテーブルについて教本とノートを広げます。
「ここがわからなかったんです」
「そこは……」
さすが首席、何を聞いてもぽんぽん答えが返ってきます。おかげで宿題が終わりました。
中庭に設置された柱時計を見ると、時刻は昼どきを少し過ぎたところ。
「お腹が空いてきました」
「食堂舎で何か食べたらいいんじゃないか」
「そうします」
休みでも開いているのはありがたいですね。
今日の日替わりはなんでしょう。
教本をカバンにしまって準備万端。
「アラセリス」
イワンに呼ばれて顔を上げると、イワンの唇が触れます。
イワンもお腹が空いていたみたいで、いつもより長い口づけです。触れた部分が熱くて、心地よくて、溶けてしまいそうになります。
「やっぱりアラセリスの生気は美味い」
「お口にあってるなら良かったです」
褒められてもよくわかりません。魔力と生気の味、私にはそちらの味覚がないから。
「一番効率がいい方法で渡してくれてもいいんだけどな。あのときはお前が起きて、中断されてしまったから」
「な……、だ、だめです。学院ではだめです!」
夢を再現するように、後ろから抱きしめられます。
奇しくも場所は夢と同じ中庭。
ここで|続き《・・》をされたら、恥ずかしすぎて生きていけません。
だって、いま近くに何人か生徒がいるんですよ!
「ここでないならいいんだな。じゃあうちの屋敷にするか」
「場所の問題でもないです!」
「ならなんの問題なんだ」
「乙女の口から言わせないでください」
わかってて、私の反応を楽しんでいるんですね。
まったく、困った婚約者様です。
今は自宅の私室で勉強しています。
やはりミーナ様に教えてもらいながら勉強するのはすごく分かりやすかったですね。一人だと教本を読んでもわからないところの正解を聞くことができないです。
イワンなら、一年のとき首席だったというから教えてくれるでしょうか。
でも、いくら婚約したとはいえ、勉強を教えてほしいって理由で貴族のお屋敷を訪ねるのはどうなんでしょう。
悩んでいると、玄関のベルを鳴らす音が聞こえました。レネは友だちと遊びに行くと言っていたから、今日は家に私一人なんです。
「はい、どちら様で……」
玄関を開けたらイワンがいました。
「相手を確認せず開けるな。危ないだろう。物取りか何かだったらと考えないのか」
「あ、はい、そうですね。次からそうします」
なんで私イワンに叱られてるんですか。というか、会う約束などはしていないのですが。
「どうしたんです?」
「勉強を見てやろうかと思ってな」
「ホントですか!?」
なんという絶妙なタイミングでしょう。頼りたいと思っていたところで来てくれるなんて。
イワンはクックッと笑います。
「お前は考えていることがすぐ顔に出るよな」
「バカにしてます?」
「褒めてる」
頭を撫でられて、それだけですごく安心します。
「学院の図書室なら夏休みの間も開いている。そこで本を借りて、中庭か東屋か、風通しのいいところでやればはかどるだろ」
「名案です!」
景色を楽しみながらだと、気分転換にもなっていいですね。
『学院で勉強します』と、書き置きを残して家を出ました。
学院内をイワンと歩くのは久しぶりです。
図書室で課題に関連する本を借りて、中庭に向かいます。
イワンの歩調にあわせて結ばれた後ろ髪が揺れる。小鳥のしっぽみたいで可愛いです。
ひっぱったら、軽く睨まれました。
「オレの髪で遊ぶな」
イワンがするりとリボンを解いて、長い髪が背中に流れる。
「イワンの髪って私よりもずっと長いですよね。男の人で伸ばしているのって珍しい気がします」
「髪を短くしていると、親父に似ているって言われるから嫌なんだよ」
年頃の息子の、複雑な心境ってやつですね。
「それより、あそこにするか」
イワンが指す先には中庭に設置されたテーブルセットがあります。
私たちと同じ考えの生徒も少なくないのか、いくつかのテーブルには座って本を読んでいる子がいます。
空いたテーブルについて教本とノートを広げます。
「ここがわからなかったんです」
「そこは……」
さすが首席、何を聞いてもぽんぽん答えが返ってきます。おかげで宿題が終わりました。
中庭に設置された柱時計を見ると、時刻は昼どきを少し過ぎたところ。
「お腹が空いてきました」
「食堂舎で何か食べたらいいんじゃないか」
「そうします」
休みでも開いているのはありがたいですね。
今日の日替わりはなんでしょう。
教本をカバンにしまって準備万端。
「アラセリス」
イワンに呼ばれて顔を上げると、イワンの唇が触れます。
イワンもお腹が空いていたみたいで、いつもより長い口づけです。触れた部分が熱くて、心地よくて、溶けてしまいそうになります。
「やっぱりアラセリスの生気は美味い」
「お口にあってるなら良かったです」
褒められてもよくわかりません。魔力と生気の味、私にはそちらの味覚がないから。
「一番効率がいい方法で渡してくれてもいいんだけどな。あのときはお前が起きて、中断されてしまったから」
「な……、だ、だめです。学院ではだめです!」
夢を再現するように、後ろから抱きしめられます。
奇しくも場所は夢と同じ中庭。
ここで|続き《・・》をされたら、恥ずかしすぎて生きていけません。
だって、いま近くに何人か生徒がいるんですよ!
「ここでないならいいんだな。じゃあうちの屋敷にするか」
「場所の問題でもないです!」
「ならなんの問題なんだ」
「乙女の口から言わせないでください」
わかってて、私の反応を楽しんでいるんですね。
まったく、困った婚約者様です。