一年生春編 運命に翻弄される春
廊下を走ってはいけません!
先生の叱責が飛んできますがそれどころじゃないのでごめんなさい。
走って走って走って、玄関にミーナ様の姿が見えました。
「ミーナ様、助けて、ください!!」
「どうしたの、セリスさん」
その場に座り込んでしまった私に、ミーナ様が手を伸ばす。
まわりにいた先輩がたが不思議そうに私を見ています。そうですよね、泣きながら走ってるなんて変な人ですよね。
でも涙が止まりません。
「い、イワン、様が……」
「まさか勧誘イベント? 断ったら結界に閉じ込められた」
他の生徒に聞こえないよう小声で聞かれて、私は何度もうなずきます。
ミーナ様の手を借りて立ち上がり、ハンカチで涙を拭われて。
「そう。よくアタシのところに来てくれたわ。必ず助けるから、もう大丈夫よ」
そんな頼もしい言葉をかけられて安心していたところ、イワン様に追いつかれてしまいました。
「泣いて逃げるなんて失礼な方ですね。ぼくはただ生徒会会計に、と勧誘しただけなのですが。会長に誤解を招くようなことを言ってはいませんよね」
猫かぶりの方のイワン様です。何もしていませんが? と素知らぬ顔で言います。先程まで金色だった瞳は、もとの紺色に戻っていました。
「イワン。わたくし、断っている人間を無理やり加入させろなどと命じた覚えはなくてよ。会計係ならわたくしが探しておきますから、貴方は自分の仕事を全うなさい」
「会長はぼくでなく新入生を信じるおつもりですか。この一年、貴女と生徒会役員の仕事をこなしてきたというのに」
イワン様、微笑んでいますが、その視線は私を刺さんばかりに鋭いです。
「そうですね。この一年で貴方が腹黒くて狡猾だということはしっかりと学んでおります。なのでセリスさんを信じます」
ミーナ様にトドメの発言をされて、イワン様は引き下がりました。
他の生徒の目もあるので、これ以上何かできないはずです。
イワン様が立ち去って、ようやく普通に息ができるようになりました。
「……ありがとうございます、ミーナ様。この御恩どうやって返せばよいのでしょう」
「恩返しなんて考えなくてもいいから、きちんと家に帰りなさい。遅くなるとご家族が心配するわよ」
「は、はい。そうですよね」
「本当はアタシの家の馬車で送るのが一番安全なんだけど」
「そこまでしていただくのは申し訳なさすぎます」
帰り道、ミーナ様がまた一緒に歩いてくださいました。
「恋愛イベントを回避すると、別の人のイベント発生順位が上がる……。昨日セシリオの送迎とローレンツのイベントを回避したから、未遭遇だったイワンのイベントが優先されたと考えるのが妥当ね」
「そんな……」
今後イワン様に会うたび、今日みたいなことをされるのでしょうか。
「イワンは人を自分の思い通りに動かしたいタイプなの。反発する人間を服従させたい人。言い方を変えると、何でもハイハイ従う人間には腹黒い部分を見せない」
お腹どころか頭からつま先まで真っ黒なのではと思います。
「でも、あの、私を助けたことでミーナ様がイワン様にひどいことをされたりしませんか」
「アタシの家のほうがイワンの家より格上なの。貴族は階級社会だから、いくらイワンでも公爵家のアタシに悪さはできないわ」
「ミーナ様の不都合にならないなら良かったです」
「頼れと言ったのはアタシの方なのだから、今後も気にせず頼りなさい」
女神様ミーナ様が優しすぎて泣けてきます。
私を助けたせいでミーナ様が不幸になるなんて嫌ですから。ミーナ様に頼ってばかりでなく、自分の力で対処できるように頑張ろう。
先生の叱責が飛んできますがそれどころじゃないのでごめんなさい。
走って走って走って、玄関にミーナ様の姿が見えました。
「ミーナ様、助けて、ください!!」
「どうしたの、セリスさん」
その場に座り込んでしまった私に、ミーナ様が手を伸ばす。
まわりにいた先輩がたが不思議そうに私を見ています。そうですよね、泣きながら走ってるなんて変な人ですよね。
でも涙が止まりません。
「い、イワン、様が……」
「まさか勧誘イベント? 断ったら結界に閉じ込められた」
他の生徒に聞こえないよう小声で聞かれて、私は何度もうなずきます。
ミーナ様の手を借りて立ち上がり、ハンカチで涙を拭われて。
「そう。よくアタシのところに来てくれたわ。必ず助けるから、もう大丈夫よ」
そんな頼もしい言葉をかけられて安心していたところ、イワン様に追いつかれてしまいました。
「泣いて逃げるなんて失礼な方ですね。ぼくはただ生徒会会計に、と勧誘しただけなのですが。会長に誤解を招くようなことを言ってはいませんよね」
猫かぶりの方のイワン様です。何もしていませんが? と素知らぬ顔で言います。先程まで金色だった瞳は、もとの紺色に戻っていました。
「イワン。わたくし、断っている人間を無理やり加入させろなどと命じた覚えはなくてよ。会計係ならわたくしが探しておきますから、貴方は自分の仕事を全うなさい」
「会長はぼくでなく新入生を信じるおつもりですか。この一年、貴女と生徒会役員の仕事をこなしてきたというのに」
イワン様、微笑んでいますが、その視線は私を刺さんばかりに鋭いです。
「そうですね。この一年で貴方が腹黒くて狡猾だということはしっかりと学んでおります。なのでセリスさんを信じます」
ミーナ様にトドメの発言をされて、イワン様は引き下がりました。
他の生徒の目もあるので、これ以上何かできないはずです。
イワン様が立ち去って、ようやく普通に息ができるようになりました。
「……ありがとうございます、ミーナ様。この御恩どうやって返せばよいのでしょう」
「恩返しなんて考えなくてもいいから、きちんと家に帰りなさい。遅くなるとご家族が心配するわよ」
「は、はい。そうですよね」
「本当はアタシの家の馬車で送るのが一番安全なんだけど」
「そこまでしていただくのは申し訳なさすぎます」
帰り道、ミーナ様がまた一緒に歩いてくださいました。
「恋愛イベントを回避すると、別の人のイベント発生順位が上がる……。昨日セシリオの送迎とローレンツのイベントを回避したから、未遭遇だったイワンのイベントが優先されたと考えるのが妥当ね」
「そんな……」
今後イワン様に会うたび、今日みたいなことをされるのでしょうか。
「イワンは人を自分の思い通りに動かしたいタイプなの。反発する人間を服従させたい人。言い方を変えると、何でもハイハイ従う人間には腹黒い部分を見せない」
お腹どころか頭からつま先まで真っ黒なのではと思います。
「でも、あの、私を助けたことでミーナ様がイワン様にひどいことをされたりしませんか」
「アタシの家のほうがイワンの家より格上なの。貴族は階級社会だから、いくらイワンでも公爵家のアタシに悪さはできないわ」
「ミーナ様の不都合にならないなら良かったです」
「頼れと言ったのはアタシの方なのだから、今後も気にせず頼りなさい」
女神様ミーナ様が優しすぎて泣けてきます。
私を助けたせいでミーナ様が不幸になるなんて嫌ですから。ミーナ様に頼ってばかりでなく、自分の力で対処できるように頑張ろう。