一年生夏編 恋人と過ごす夏

 ミーナ様の別邸に来て二日目。
 朝食のあと、テラスのテーブルで教科書を広げます。休み明けには春の復習小テストをやると先生が言っていたので、夏休みでも気が抜けません。ミーナ様が見てくれているのでとってもはかどります。

 テーブルの向かいではイワンも勉強中。
 ミーナ様が二年生だった時の答案をもらって解いています。前年のテストを使い回す先生の場合これだけで八割の点を取れるそうです。

「どう、セリスさん。わからないところはある?」
「大丈夫です」

 隣がミーナ様、向かいがイワンという席をやめた方が良かったですね。
 時々イワンがこちらを見ているのを感じて、落ち着きません。
 あんな夢を見てしまったあとですし。

 セシリオ様とローレンツくんはというと、浜辺でビーチボールを投げあっています。
 二人の横では、ポメラニアンが小さい蛇を咥えて砂を掘っています。
 埋めるつもりでしょうか。セシリオ様の使い魔だからやめた方がいいですよー。

 ウィルフレドさんが、「殿下、勉強するために来たのでしょう」と苦言を呈してもどこ吹く風。

「それは口実だよ。せっかく両親と臣下の目がないんだから、ここにいる間くらいは自由に過ごしてもいいだろう」
「わたしも臣下です。こうならないよう陛下から念を押されていたのですが」
「なら父上には、きちんと勉学に励んでいたと報告してくれ」

 護衛兼お目付役だったんですね。お疲れ様です。

「おーいイワン。お前もこっちこいよ。二対二でビーチバレー勝負しようぜ」
「嫌だ」

 被り気味に答えるイワンの頭にビーチボールが飛んできました。
 ボールはぽんぽんとテラスに転がって、イワンが短く舌打ち。目にも止まらぬ速さでボールがローレンツくんに投げ返されました。

「ふざけるな! オレは勉強の邪魔をされるのが大嫌いなんだよ!」
「いいじゃん別に。三十分くらい勉強時間が減ってもお前なら首席取れるって」
「お前は三十分でもいいから勉強しろ。ここにきてから一分たりとも教本を開いていないだろ」
「文字ばっかの本を見てると眠くなんだよ」

 正論を叩きつけられてもローレンツくんは動じません。いっそ清々しいです。

「イワン。少しならいいのではなくて? それに、あなたが勝ったら二人に勉強させると条件をつければいいのです」
「仕方ないな……。アラセリス、お前も来い」
「えええっ!」

 ミーナ様が助言を挟みまして、なぜか私もバトルに巻き込まれました。
 私とイワンvsセシリオ様とローレンツくん。
 審判はミーナ様とウィルフレドさんです。
 ネットはないので浜に線を引いて、線を越えて落ちたら点数という方式になりました。
 服が汚れたら困るので水着に着替えていざ勝負。

「いくぜイワン。日頃の恨み晴らしてやる!」

 セシリオ様が打ち上げたボールをローレンツくんが叩き込みます。
 体育会系なんでしょう。動きに隙がありません。

「恨まれるようなことをした覚えがないのに、迷惑な」

 イワンは渋々といった感じでイワンがボールを高く上げました。

「決めろ、アラセリス」

 踏み込んだ瞬間、足元をポメラニアンが駆け抜けていきました。

「キャ!」

 つまずいて転んで、口の中じゃりじゃりいってますよ。

「怪我は?」
「ないです」

 イワンの手を借りて立ち上がります。

「使い魔で邪魔をするな。危ないだろう」
「いや、俺は別に命令してない。悪かったなセリス」
「いえ。ワンちゃんは好奇心旺盛ですものね」

 アクシデントはあったものの試合再開です。
 ローレンツくんが上げたボールをセシリオ様が打つ。私の近くに落ちそうです。
 右足を前に出したとき、一瞬違和感がありました。それも、ほんの一瞬。
 間に合わず、相手に点が入りました。

 四対三、私たちのチームが一歩リードしています。
 どうしましょう、だんだん右足が痛くなってきました。

 セシリオ様のアタックを返して、相手陣地に落ちる。
 勝てましたが、心配かけるわけにはいかないです。もう少し、我慢しないと。

「足を痛めたなら早く言え、ばか」
「な、なんでわかったんですか」

 イワンに抱え上げられました。
 なんで、こんな時ばかり気がつくんですか。これ以上好きになったら困るじゃないですか。
 テラスまで運ばれて手当されて、なんだか泣きそうでした。


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