一年生夏編 恋人と過ごす夏

 ミーナ様とローレンツくんの使い魔が砂浜を駆け回ってます。猫ちゃんとポメラニアンが並んで浜を走る姿はなんとも不思議です。

「おりゃー! とってこーい!」

 ローレンツくんが力任せに円盤を投げて、ポメラニアンが走って追いかけます。
 落ちた円盤そっちのけで駆け抜けていきました。
 かわりに猫ちゃんが前足で円盤をシュート。そのまま円盤が波にさらわれていきました。

「うおおおい!! 咥えてこいってーの!!」
「主人にそっくりじゃないかな。前しか見えていないところが」
「うるせー!」

 嘆き崩れ落ちるローレンツくんに、セシリオ様が塩を塗り込みます。

「こほん。あれは放っておいて。セリスさん、泳げますか?」
「海に来たの十年ぶりなので、全く泳げないと思います」
「ではまず海に慣れてもらいましょう。アタシが教えるから、いらっしゃい」
「はい!」

 ミーナ様、前世では水泳部というものに入っていたそうです。
 おかげさまで水に浮く練習からはじめて、バタ足できるようになりました。
 人にものを教えるの、すごく上手ですね。

「セリスさんは物覚えが良いから教えがいがあるわ」
「ミーナ様が教えてくれるからです」
「ふふっ。可愛いこと言ってくれるわね」
『ピィ〜』

 ペンちゃんも私の横でくるくると泳ぎまわって、とっても嬉しそう。一緒に泳げるの、楽しいですねペンちゃん。

 ミーナ様に教わって浮き輪に紐をつけたら、ペンちゃんが引っ張ってくれました。ペンちゃんに引かれて海の遊泳、面白いです。

「そうやって遭難者を運べるから、水生の使い魔を喚べる人は海洋救難隊に就くのに有利よ。あとは以前貴女がイワンとやったように、水を喚んで消火活動する魔法士消防部隊」
「救難隊ですか」

 人助けはとても良いことだと思いますが、私に向いているかどうかは別問題です。卒業後にどんな仕事に就きたいか、まだ決まっていないんです。

『二人とも、そろそろ休憩したらどうだ。セシリオたちも休むと言っている』

 私の少し上をしーちゃんがくるりと舞って、イワンの声を届けてくれました。

「しーちゃんがイワンの声で喋るの面白いですね」
『オレの使い魔に、勝手に変な名前をつけるな』
「勝手だとだめなら、いまお願いしますね。しーちゃんって名前つけてもいいですか?」
『却下だ』

 ダメ出しされました。
 ミーナ様笑わないでください。

 浜辺に戻ると、テーブルセットにお弁当が広げられていました。
 タオルで水気をよく拭いてからみんなのところに行きます。

 やっぱりというかなんというか、ローレンツくんの分だけ、みんなの四倍くらいありますね。
 パンが山盛り。拳より大きなパンを掴んで丸かじりしています。
 その隣ではセシリオ様がパンをちぎって一口ずつ食べる。幼馴染といっても対象的です。

 ウィルフレドさんは、主と同席はできないのでと姿勢を正して立ったまま。

 イワンは食卓に来ていません。
 相変わらず木陰に座って本を読んでいます。

「イワン、何読んでるんです?」

 隣に座って覗き込むと、イワンは本から目を離さず答えます。

「魔法学応用編」
「ふむふむ。勉強してたんですね」

 話をしていても、ちっともこっちを見てくれないです。

「お腹空いてません?」
「そうだな」

 右手を出されたので手を取り、手のひらを介して魔力を渡します。
 ……いつもなら人前でも構わないからキスで、って言うのに。
 いえ、ここでキスしてほしいわけじゃないです。ぜんぜん、そういうのじゃないですが。

 イワンはようやく視線を私に向けてくれました。その視線はいつもより熱を……艶を帯びているような、そんな気がします。

「今はこれでいい。口づけだと、止められる気がしない」

 止められないって、なにを、ですか。
 一瞬考えて、答えに行き着いてしまって……体が熱くなりました。

「わ、わかりました。ええと、私、お昼食べてきますね」
「ああ」



 ミーナ様の隣で昼食をいただきます。
 近くにある別邸から使用人さんが運んでくれたんだそうです。
 バターの香りがするロールパンが縦に切られていて、ハムやトマト、チーズが挟んであります。果物のジュースもついています。

「美味しいです!」
「褒めてもらえて嬉しいわ。あとで料理長に伝えておくわ」

 休憩したら今度は浜で水魔法の制御を教わって、あっという間に日が暮れました。
 朝から晩までみんな一緒って、すごく、すごく楽しいですね。



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