一年生夏編 恋人と過ごす夏

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 夏休みに入りました!
 私はミーナ様のお誘いを受けて、アレスター家のプライベートビーチに来ています。
 と言っても遊びじゃありません。夏の間に鈍っちゃうといけないから魔法の使い方を教わるんですよ。
 次の定期テストこそ、首席を取るんです!

 お小遣いをはたいて水着も買ってきました。
 
「ペンちゃんがんばろうね!」
『ピィピィ〜!』

 裸足で砂浜を駆けると、ペンちゃんもやる気満々でついてきます。さすが私の使い魔です。

「このクソ暑いのによくはしゃげるな」
「イワン。やる気を削ぐこと言わないでください」

 木陰で本を読んでいたイワンが冷静にツッコんできます。

 ちなみに、生徒会のメンバーとローレンツくん、そしてセシリオ様の護衛ウィルフレドさん計六人で来ています。
 アレスター家の別邸がビーチの近くにあって、二泊三日なんですよ。

 ウィルフレドさん以外の全員は水着です。ウィルフレドさんは暑くないのでしょうか。刺すような陽射しなのに、騎士制服です。

「セリスさん。準備運動しておかないと怪我をするわ。それからちゃんと日焼け対策もしなさいね」
「はい。ありがとうございます、ミーナ様。気をつけます」

 パラソルの下でビーチチェアに座るミーナ様。ワンピースタイプの水着が似合いすぎて羨ましいです。
 日焼け止めの瓶をミーナ様からいただきました。

「イワン、背中に塗ってください」
「は!? なんでオレが」
「前は自分でできますけど、背中は届かないです。中途半端に塗ると、残したとこだけ焼けちゃいます」

 届かないものは仕方ないじゃないですか。と思うんですけど、イワン、なんか顔が赤いです。

「イワンがやらないなら俺が塗ってやるよ」
「わたしでもかまわないよ。背中と言わず隅々まで塗ってあげよう」

 ローレンツくんとセシリオ様が役目を買って出てくれました。

「馬鹿言うな」

 イワンに瓶をひったくられました。
 足をぺたんとシートにつけて、イワンに背中を向けます。
 ペンちゃんも塗って欲しいのか、私の膝に乗ってきました。可愛いですね。ふわふわの体をぎゅっと抱きしめちゃいます。

「俺、今すごくペンギンになりたい」
「ローレンツ。気持ちはわかるが、それを口にしたらイワンに刺されるよ」

 ローレンツくんとセシリオ様の不思議なぼやきを聞いたイワンが、刺すような視線で二人を睨みました。

「ったく。世話の焼ける」

 イワンの手が私の背中をすべる。地肌を晒して直接触れられるのって初めて。
 ひんやりしたクリームが広げられる感覚と、指の感覚がなんとも言えません。くすぐったいのとよく似た別の感覚です。

 後ろを盗み見ます。普段服で隠されているからわかりませんでしたが、わりと胸板が厚いです。男の人ですものね。なぜかどぎまぎしちゃいます。

「この無防備な格好で男に背中を向けるなんて、馬鹿だよな」
「な、なんですか」

 勢い良く引っ張られて後ろに倒れます。イワンの腕の中。いたずらな笑みを浮かべるイワンと目が合います。
 背中にイワンの肌が触れているのを感じたら、急に恥ずかしくなりました。

「わかったか?」
「は、はい……」

 そうですね、気をゆるめちゃだめですよね。反省しました。


「それじゃあわたくしはウィルフレド様にお願いしましょうか。頼んでもよろしくて?」

 ミーナ様は小悪魔の笑顔でウィルフレドさんに瓶を託します。

「は、わ、わたしですか!? 嫁入り前の女性の肌に触れるなんて騎士道にあるまじき……」
「貴方を信用できると思ったからお願いしたのですけれど、そうですか。ではセシリオかローレンツに……」
「わ、わかりました、わかりましたから。その、あまり見ないようにしますので」
「見ないと均等に塗れないと思うのだけど」

 かわいそうなほどうろたえるウィルフレドさん。迷った末に塗る道を選んだようです。
 真面目な方ですね。

 私もミーナ様も日焼け止めを塗りおえて、準備運動もバッチリ。

「それじゃあ日焼け対策もしたことですし、いきますわよセリスさん!」
「はい、ミーナ様!」

 水辺だからこそできる魔法の訓練、スタートです!



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