一年生春編 運命に翻弄される春
イワンはどこかの当主様という方に呼ばれて、しばらく離席しています。
お目付け役として小鳥ちゃん(白いからしーちゃんと呼びましょう)を残していってくれました。
ウィルフレドさんもあいさつ回りがあるということでいません。
ミーナ様とふたり、立食スペースでフルーツやデザートをもらってお話します。しーちゃんがはちみつのプリンをじっと見ているようなので、はちみつ部分だけスプーンに取ってあげたら喜んでついばんでます。
「今日はサポートできるよう、そばにいるわね。危険なようなら必ず助けるわ」
「ありがとうございます、ミーナ様」
ミーナ様の日記より。
この舞踏会は幸か不幸かのターニング・ポイント。
イワンと未来を歩みたいと望むなら、戦わないといけません。
私たちのもとに銀髪の令嬢が近づいて来ました。
つりあがった眉とまなじりから、気の強さを感じます。
「あなたがアラセリス?」
「そうです。失礼ですが、どちら様でしょうか」
丁寧にお辞儀したのに鼻で笑われました。
「社交界でワタクシを知らないなんて、不勉強が過ぎますわよ」
「あいにく今日初めて来たものですから。初対面のかたの名前を予知するような魔法は習ってないので、名乗っていただかないと、名無しさんとお呼びするしかないです」
ミーナ様が笑い、口をファーの扇で隠しながら教えてくださいます。
「セリスさん。こちらはベルナデッタ。魔法学院の二年生です」
「ベルナデッタ様ですか」
ベルナデッタ様は眉を歪めて、髪をかきあげます。
「あなた、庶民のくせにイワン・ラウレールと婚約したそうね」
「はい。先日婚約指輪をいただきまして、お父様にも挨拶しました」
ベルナデッタ様の眉間のシワが増えました。
「彼の祖父が誰なのか知りませんの? 敵国だった国の汚らわしい魔族よ。普通の神経なら求婚されても拒否しますわ」
この方はさっきから何を言いたいのでしょう。
「それを知った上で婚約しました。私が庶民であることも、イワンの出自も、他人の貴女様に関係ないでしょう」
「庶民ごときがワタクシに意見するなんて!」
ベルナデッタ様は扇をへし折って投げ捨てました。
「宰相の息子なら価値はありますわ。ワタクシがイワンと結婚してあげるのです。貴女は身を引きなさい」
「魔族が嫌いなのにイワンと結婚するんですか」
「養子を取れば白い結婚で済みます。顔はいいから、ワタクシに並ばせても見栄えしますし」
尖った性格の方ですねぇ。お友達になれそうもありません。
あ、このフルーツ初めて食べたけど酸っぱくて美味しいですね。おかわりしましょう。
「ちょっと! ワタクシが話しているのに、なぜパイナップルなんて食べてるんですの!」
「美味しいからつい」
私の隣では、ミーナ様が肩を震わせています。
「ケンカを売られているのに、よく躱《かわ》せるわね」
「あ、これはケンカの販売でしたか。買取不可なのでお引き取り願います。今のうちにジュースも飲んでおきたいので失礼しますね」
「ワタクシを馬鹿にしているんですの!?」
ベルナデッタ様が掴みかかって来そうなところを手で制します。
「バカにしてません。ベルナデッタ様は養子をもらえば白い結婚で済むとおっしゃってましたが、イワンの子なら男の子でも女の子でも絶対可愛いですよ。私なら二人は産みます」
「はぁああ!? 貴女みたいに話が通じない相手とこれ以上付き合ってられませんわ!」
ベルナデッタ様、きいいいってハンカチを噛んで出ていってしまいました。
私に用があるんじゃなかったですか。
「アタシが助ける必要がなかったようで何よりよ」
「え、もしかしてこれで終わりですか」
ミーナ様はひとしきり笑ったあと、私に向き直ります。
「セリスさんったら、公の場でずいぶん大胆なことを言うのね。イワンとの子を二人産むの?」
「足りなかったですか?」
ミーナ様は私ではなく私の肩に向かって話します。
「子どもが二人で足りないかどうか、本人同士で話しなさい」
「はい?」
「忘れているようだけど、今の会話はぜーんぶイワンに筒抜けよ」
「あ」
そうです。ここの視界も声も、しーちゃんを通してイワンに伝わります。
全部聞かれてたと思うと一気に恥ずかしくなりました。
「ど、どど、どうしましょうミーナ様。私、逃げたほうがいいですか?」
「|その子《使い魔》がいる限り、どこに行っても同じだから諦めなさいな」
穴があったら入りたいです。
しばらくどこかに隠れようと思ったけれど、すぐイワンに捕まりました。
お目付け役として小鳥ちゃん(白いからしーちゃんと呼びましょう)を残していってくれました。
ウィルフレドさんもあいさつ回りがあるということでいません。
ミーナ様とふたり、立食スペースでフルーツやデザートをもらってお話します。しーちゃんがはちみつのプリンをじっと見ているようなので、はちみつ部分だけスプーンに取ってあげたら喜んでついばんでます。
「今日はサポートできるよう、そばにいるわね。危険なようなら必ず助けるわ」
「ありがとうございます、ミーナ様」
ミーナ様の日記より。
この舞踏会は幸か不幸かのターニング・ポイント。
イワンと未来を歩みたいと望むなら、戦わないといけません。
私たちのもとに銀髪の令嬢が近づいて来ました。
つりあがった眉とまなじりから、気の強さを感じます。
「あなたがアラセリス?」
「そうです。失礼ですが、どちら様でしょうか」
丁寧にお辞儀したのに鼻で笑われました。
「社交界でワタクシを知らないなんて、不勉強が過ぎますわよ」
「あいにく今日初めて来たものですから。初対面のかたの名前を予知するような魔法は習ってないので、名乗っていただかないと、名無しさんとお呼びするしかないです」
ミーナ様が笑い、口をファーの扇で隠しながら教えてくださいます。
「セリスさん。こちらはベルナデッタ。魔法学院の二年生です」
「ベルナデッタ様ですか」
ベルナデッタ様は眉を歪めて、髪をかきあげます。
「あなた、庶民のくせにイワン・ラウレールと婚約したそうね」
「はい。先日婚約指輪をいただきまして、お父様にも挨拶しました」
ベルナデッタ様の眉間のシワが増えました。
「彼の祖父が誰なのか知りませんの? 敵国だった国の汚らわしい魔族よ。普通の神経なら求婚されても拒否しますわ」
この方はさっきから何を言いたいのでしょう。
「それを知った上で婚約しました。私が庶民であることも、イワンの出自も、他人の貴女様に関係ないでしょう」
「庶民ごときがワタクシに意見するなんて!」
ベルナデッタ様は扇をへし折って投げ捨てました。
「宰相の息子なら価値はありますわ。ワタクシがイワンと結婚してあげるのです。貴女は身を引きなさい」
「魔族が嫌いなのにイワンと結婚するんですか」
「養子を取れば白い結婚で済みます。顔はいいから、ワタクシに並ばせても見栄えしますし」
尖った性格の方ですねぇ。お友達になれそうもありません。
あ、このフルーツ初めて食べたけど酸っぱくて美味しいですね。おかわりしましょう。
「ちょっと! ワタクシが話しているのに、なぜパイナップルなんて食べてるんですの!」
「美味しいからつい」
私の隣では、ミーナ様が肩を震わせています。
「ケンカを売られているのに、よく躱《かわ》せるわね」
「あ、これはケンカの販売でしたか。買取不可なのでお引き取り願います。今のうちにジュースも飲んでおきたいので失礼しますね」
「ワタクシを馬鹿にしているんですの!?」
ベルナデッタ様が掴みかかって来そうなところを手で制します。
「バカにしてません。ベルナデッタ様は養子をもらえば白い結婚で済むとおっしゃってましたが、イワンの子なら男の子でも女の子でも絶対可愛いですよ。私なら二人は産みます」
「はぁああ!? 貴女みたいに話が通じない相手とこれ以上付き合ってられませんわ!」
ベルナデッタ様、きいいいってハンカチを噛んで出ていってしまいました。
私に用があるんじゃなかったですか。
「アタシが助ける必要がなかったようで何よりよ」
「え、もしかしてこれで終わりですか」
ミーナ様はひとしきり笑ったあと、私に向き直ります。
「セリスさんったら、公の場でずいぶん大胆なことを言うのね。イワンとの子を二人産むの?」
「足りなかったですか?」
ミーナ様は私ではなく私の肩に向かって話します。
「子どもが二人で足りないかどうか、本人同士で話しなさい」
「はい?」
「忘れているようだけど、今の会話はぜーんぶイワンに筒抜けよ」
「あ」
そうです。ここの視界も声も、しーちゃんを通してイワンに伝わります。
全部聞かれてたと思うと一気に恥ずかしくなりました。
「ど、どど、どうしましょうミーナ様。私、逃げたほうがいいですか?」
「|その子《使い魔》がいる限り、どこに行っても同じだから諦めなさいな」
穴があったら入りたいです。
しばらくどこかに隠れようと思ったけれど、すぐイワンに捕まりました。