一年生春編 運命に翻弄される春
ギジェルミーナとして生を受けて十七年。前世を思い出してからは二ヶ月あまり。
アタシは今日、ルシール王国建国記念の舞踏会に出席することになっている。
ギジェルミーナとして生きてきた記憶もしっかりあるから、ダンスも勉強も問題なくこなせるのは救いね。
セシリオシナリオならセシリオに懸想するライバルキャラがセリスさんとセシリオの間に割って入る。
ゲームだとアタシだけど、あいにくセシリオに惹かれてはいない。
ローレンツならクララがライバル。けれどセリスさんはローレンツを友だちとしか思っていないようだから、これも問題なし。
今回問題になるのはイワンの場合。
ここはイワンルートにおけるバッドエンドか純愛エンドかの分岐点の一つ。
イワンの同級生、ベルナデッタが立ちはだかることになる。
誘拐事件……セシリオイベントで、イワンが本来のシナリオと違う行動を取ったことを考えると、ベルナデッタも違うことをしてくる可能性がある。
ベルナデッタの動向に注意しておかないと。
馬車が王城前に着いて、警備していた騎士に招待状を渡す。
アタシは会場に入って真っ先に、とある人に声をかける。
癖のある黒髪、ブルーの瞳、見上げるほど背が高い男性。カリストス伯爵の次男ウィルフレド。セシリオの護衛騎士の一人。
年齢は二十四で、前世のアタシと同い年だ。
年は同じでも、アタシより随分落ち着いている。
「こんにちは、ギジェルミーナ様」
「ごきげんよう、ウィルフレド様。前回の舞踏会以来ね。ご健勝そうでなによりです」
「一介の騎士に過ぎないわたしの名を覚えていてくださるとは、光栄です。本日のドレスも、華やかで貴女にとてもよく似合っておいでですよ」
控え目な微笑みに鼓動が早くなる。
さり気なく女性を褒める心もあって、容姿も目を引く凛々しさ。
どうしてこんなに素敵な人が未婚なのかしら。いまだ婚約者もおらず、浮いた話がないなんて不思議。
「ありがとう。貴方にそう言ってもらえただけでも、来た価値があります。貴方もとても素敵。青が似合うわね」
他の誰でもなく貴方の言葉だから嬉しい。そう伝えたら迷惑かしら。
本気の恋なんてしたことがないから、何をするのが正しいかわからない。
前世で恋をしたことはあった。仕事に追われて会う機会が少なかった結果、半年で振られてしまったけれど。
ウィルフレドはほんのり頬を赤らめ、目を細める。
「ありがとうございます」
鼻筋の通った大人びた顔だちだけど、笑うと少年のような幼さを覗かせる。
もう少し話していたい、と思うけれど、セシリオが話しかけてきた。
「やぁ。アレスター家の代表は会長だったのかい」
「ごきげんよう殿下。昼間も会ったではありませんか。学院の外でまで会長と呼ぶのはやめてくださいませ」
「ハハハ。すまないね。ついクセで」
これだけたくさんの客がいる中で、わざわざアタシに話しかけてくるのはなんなの。
セシリオは白々しく笑ってから、いまさら気づいたようにウィルフレドに声をかける。
「ウィルフレド。今日はカリストスの名代だったね」
「え、ええ。殿下はギジェルミーナ様と親しいのですね」
「同じクラスで同じ生徒会の役員だからね。毎日顔を合わせているんだ」
毎日顔を合わせているから挨拶に来てくれなくていいのに。アタシの恋路を邪魔するために、わざと話しかけてきたんじゃないかと勘ぐってしまう。
「それじゃ、わたしはあいさつ回りを続けるから、会長は楽しんでいってくれ」
「そうします」
言葉通り、他の客に挨拶しに行くセシリオ。時期国王だから、建国記念パーティー中に無駄話している時間はない。
国王陛下から開会の挨拶があり、楽団員が柔らかなメロディーを紡ぎだす。
叶うなら最初はウィルフレドと踊りたい。側に立っている彼を見上げる。
ちょうどアタシの方を見ていたらしい、彼と目が合った。
ためらいがちに、手を差し出される。
「……踊って、いただけますか?」
「喜んで」
アタシは精一杯の笑顔で心から答える。
セリスさんをバッドエンドから救って、自分も無事学院を卒業できたら。
アタシも知らない、ゲームのシナリオにない時間が待っている。
ゲームのシナリオより未来でなら、ウィルフレドに想いを告げるのは許されるかしら。
ウィルフレドの手に手を重ねて、ひっそりと思った。
アタシは今日、ルシール王国建国記念の舞踏会に出席することになっている。
ギジェルミーナとして生きてきた記憶もしっかりあるから、ダンスも勉強も問題なくこなせるのは救いね。
セシリオシナリオならセシリオに懸想するライバルキャラがセリスさんとセシリオの間に割って入る。
ゲームだとアタシだけど、あいにくセシリオに惹かれてはいない。
ローレンツならクララがライバル。けれどセリスさんはローレンツを友だちとしか思っていないようだから、これも問題なし。
今回問題になるのはイワンの場合。
ここはイワンルートにおけるバッドエンドか純愛エンドかの分岐点の一つ。
イワンの同級生、ベルナデッタが立ちはだかることになる。
誘拐事件……セシリオイベントで、イワンが本来のシナリオと違う行動を取ったことを考えると、ベルナデッタも違うことをしてくる可能性がある。
ベルナデッタの動向に注意しておかないと。
馬車が王城前に着いて、警備していた騎士に招待状を渡す。
アタシは会場に入って真っ先に、とある人に声をかける。
癖のある黒髪、ブルーの瞳、見上げるほど背が高い男性。カリストス伯爵の次男ウィルフレド。セシリオの護衛騎士の一人。
年齢は二十四で、前世のアタシと同い年だ。
年は同じでも、アタシより随分落ち着いている。
「こんにちは、ギジェルミーナ様」
「ごきげんよう、ウィルフレド様。前回の舞踏会以来ね。ご健勝そうでなによりです」
「一介の騎士に過ぎないわたしの名を覚えていてくださるとは、光栄です。本日のドレスも、華やかで貴女にとてもよく似合っておいでですよ」
控え目な微笑みに鼓動が早くなる。
さり気なく女性を褒める心もあって、容姿も目を引く凛々しさ。
どうしてこんなに素敵な人が未婚なのかしら。いまだ婚約者もおらず、浮いた話がないなんて不思議。
「ありがとう。貴方にそう言ってもらえただけでも、来た価値があります。貴方もとても素敵。青が似合うわね」
他の誰でもなく貴方の言葉だから嬉しい。そう伝えたら迷惑かしら。
本気の恋なんてしたことがないから、何をするのが正しいかわからない。
前世で恋をしたことはあった。仕事に追われて会う機会が少なかった結果、半年で振られてしまったけれど。
ウィルフレドはほんのり頬を赤らめ、目を細める。
「ありがとうございます」
鼻筋の通った大人びた顔だちだけど、笑うと少年のような幼さを覗かせる。
もう少し話していたい、と思うけれど、セシリオが話しかけてきた。
「やぁ。アレスター家の代表は会長だったのかい」
「ごきげんよう殿下。昼間も会ったではありませんか。学院の外でまで会長と呼ぶのはやめてくださいませ」
「ハハハ。すまないね。ついクセで」
これだけたくさんの客がいる中で、わざわざアタシに話しかけてくるのはなんなの。
セシリオは白々しく笑ってから、いまさら気づいたようにウィルフレドに声をかける。
「ウィルフレド。今日はカリストスの名代だったね」
「え、ええ。殿下はギジェルミーナ様と親しいのですね」
「同じクラスで同じ生徒会の役員だからね。毎日顔を合わせているんだ」
毎日顔を合わせているから挨拶に来てくれなくていいのに。アタシの恋路を邪魔するために、わざと話しかけてきたんじゃないかと勘ぐってしまう。
「それじゃ、わたしはあいさつ回りを続けるから、会長は楽しんでいってくれ」
「そうします」
言葉通り、他の客に挨拶しに行くセシリオ。時期国王だから、建国記念パーティー中に無駄話している時間はない。
国王陛下から開会の挨拶があり、楽団員が柔らかなメロディーを紡ぎだす。
叶うなら最初はウィルフレドと踊りたい。側に立っている彼を見上げる。
ちょうどアタシの方を見ていたらしい、彼と目が合った。
ためらいがちに、手を差し出される。
「……踊って、いただけますか?」
「喜んで」
アタシは精一杯の笑顔で心から答える。
セリスさんをバッドエンドから救って、自分も無事学院を卒業できたら。
アタシも知らない、ゲームのシナリオにない時間が待っている。
ゲームのシナリオより未来でなら、ウィルフレドに想いを告げるのは許されるかしら。
ウィルフレドの手に手を重ねて、ひっそりと思った。