一年生春編 運命に翻弄される春

 テストの結果が発表されました……。

 次席です。学年二位です。
 首席はクララさんです。私はクララさんまであと五点及ばずでした。
 奨学生続行決定なのは喜ばしいのですが……。



「セリスさん、二位も立派なものじゃない。なぜそんなに落ち込んでいるの? 貴女は絶対一番でなきゃダメって言う性格でもないと思ったのだけれど」

 生徒会のお仕事中、ミーナ様は書類をトントンと机で均しながら聞いてきます。

「一番になったら、星を見に連れて行ってもらえるはずだったんです」

 誰に、とは言わなくともミーナ様には伝わった模様です。口元を緩めて私の隣を見ています。

「ふーん、へぇー、そういうことなのね。貴方が恋人をデートに誘うようなタイプだと知らなかったわ」
「なんでオレを見る」
「あら、他の方との約束だったのかしら。セシリオ? ローレンツ?」
「オレだよ」

 忌々しそうに舌打ちして、イワンは椅子の背もたれに肘をつきます。

『二位でもがんばったから連れて行ってやろう』と言ってくれないのがイワンのイワンたるところ。
 だから私は落ち込んでいるのです。

 セシリオ様は建国記念祭主催者側の仕事が立て込んでいて不在。
 建国記念祭が終わるまで生徒会の仕事は三人でまわします。

「そういえば、イワンも建国記念祭のパーティーに呼ばれているのでしょう。セリスさんと行くのよね」
「まあな」
「わたくしもお父様の代わりに出席することになったから、当日会場で会うかもしれないわね」
「わぁ、ミーナ様も出席するんですか! 心強いです」

 初めて行く場所ですから、やはり知った人がいると心持ちが違いますね。

「ミーナ様、お仕事の手が空いているときで構わないので、またダンス教えてほしいです」

 前回はパートナーがいない人のための役回りに徹していましたが、今回はイワンのパートナーとして出席するのです。
 私がダンス下手だとイワンが恥をかくことになっちゃいます。

「構わないわよ。貴女は本当に勉強熱心な子ね。感心感心」
「ありがとうございますミーナ様」

 こうしていつでも手を差し伸べてくれて、背中を押してくれる。お姉様とお呼びしたいです。
 ふわふわと、頭を撫でてくれる手が止まりました。

「さすがに女のわたくしにまで嫉妬するのはどうかと思いますわよ、イワン。貴方の大事な婚約者を取るなんてことしません」
「勝手に解釈するな」
「なら睨まないでくださいな。書類が見えにくいだけなら眼鏡でも発注なさい」

 イワンは黙ってしまいました。
 うん、ミーナ様のほうが強いですね。

 生徒会の仕事が終わって帰路につきます。
 空は紫からオレンジ色に移り変わっていきます。
 学舎前の並木道で見るこの幻想的な空が、私はとても好きです。
 イワンが歩調を合わせてくれて、私の隣を歩いています。

「星が見れないくらいでそこまで落ち込むか」
「落ち込みますよ……。イワンと星を見たくて、毎日すごく勉強したんです」

 視線もしぜんと足元になっちゃいます。

「星を見たいなら顔を上げていろ。星は空にあるんだから。次がんばれ」
「はい! 次こそ一位を取るので、連れて行ってくださいね!」

 今回だけじゃありません。
 テストは年三回行われます。次こそ一位をとりましょう。頬を叩いて気合いをいれます。
 くっく、とイワンが笑って私の左手を取りました。

 指にするりとリングがはめられました。金に近い黄色の宝石が埋め込まれた指輪は、私の指にぴったり。

「披露するときに婚約指輪があったほうがいいからな」

 貴金属に疎いので宝石の名前はわからないですが、イワンの瞳の色に似ている気がします。
 空にかざしてみると、月がもう一つあるみたいです。

「すごくきれいです。ありがとうございます、イワン。でも、いつの間にサイズを?」
「マダムの店で指も測っただろう。あのあと注文した」

 私が知らぬ間にそこまでしてくれていたなんて。胸があたたかいです。

「えへへ。渡したことを後悔しても遅いですからね。一生外しませんよ」
「外されちゃ困る」

 イワンの表情が和らぎます。
 この優しい微笑みが好きです。
 すぐに普段の意地悪な顔になっちゃうので、素のイワンはとても希少です。
 
「私、がんばりますから。ダンスの練習も魔法の勉強も」

 がんばって、次のテストこそ一位になるんです!




ツギクルバナー
image
46/50ページ