一年生春編 運命に翻弄される春
今回訪問する仕立て屋は、王都の中心からやや離れた場所にありました。
イワンのお祖母様の代から御用達のお店。
この位置は港が近くて海外から輸入した生地を早く受け取れていいそうです。
工房内に立てかけられた筒状の生地がたくさんあって、どれもすごくきれい。宝箱みたいです。
仕立て屋のコンチータさんは、六十代くらいの素敵なマダム。コンチータさんがデザイン案をたくさんテーブルに広げます。
「若様からお話を聞いて、最近の流行を取り入れたデザインを用意しておきました。お嬢様はどれがお好みですか?」
「これ、でしょうか。ミーナ様みたいに、ふんわりして気品がある華やかなドレスに憧れます」
歓迎会のときにミーナ様が着ていたドレスは、幾重にも重ねられた白いレースと鮮やかな紫の組み合わせ。大きく開いた袖のフリルもミーナ様にとっても似合っていました。
「アラセリスがあれを着たらドレスに負けるぞ。会長本人が派手だから着こなせるんだ」
「つまり私のこと地味って言ってますね」
私にもミーナ様にも失礼です。
イワンは恋人になったからといって優しく甘やかしてくれるわけではなく、前と変わらず意地悪なこと言います。
ちょっとくらい、かわいいって褒めてくれてもいいじゃないですか。
「怒るな。流行関係なく向き不向きがあるというだけだ。パーティーで着るならそっちのデザインにしておけ」
そっち、と言ってイワンが指したのは、用意されたデザイン案の中では一番シンプルなものです。
「ふふふ。若様はお嬢様のことをよくわかっておられるのですね」
「どういう意味です?」
「お嬢様の清楚さを活かすなら、こちらのデザインが一番お似合いになるかと存じます」
「……余計なことを言うなマダム・コンチータ」
コンチータさんには強く物を言えないのか、イワンはきまりが悪そう。
若様って呼ばれてるのなんか可愛いですよね。十二歳までは坊ちゃん呼びだったそうです。
「お色はどれになさいますか。こちらの中からお好みのものを選んでください。この中に無いようでしたら、遠方から取り寄せることもできますよ」
お手伝いさんが持ってきてくれた生地は手触りや厚み、光沢が一枚一枚違います。どれもすごくきれい。
その中でも淡い黄色の、グラデーションした生地が目に止まりました。
「これがいいです」
「かしこまりました。ではこちらの生地で仕立てますね。お嬢様によく似合うと思いますよ」
採寸してもらって、ドレスに合わせるアクセサリーも選んでもらって。
そうしているうちにすっかり日が暮れていました。
帰りの馬車の中でイワンが聞いてきます。
「なんであの色なんだ? 歓迎会のときのような青を選ぶと思った」
「歓迎会のときは何も言ってくれなかったじゃないですか」
『これなら恥をかかないだろ』なんて言われたの、実はすごく根に持ってます。
イワンの瞳をじーーっと見上げると、私から顔をそらしてポツリとこぼしました。
「……歓迎会のドレス、似合っていた」
「そうですか、似合っていましたか。えへへ」
窓枠に肘をつき視線だけよこして、イワンはもう一度聞いてきます。
「で、なんであの色?」
「ナイショです」
言えません。
イワンに似てるから、なんて言ったら絶対からかわれるんです。
私に予知の魔法なんてないですが、先が見えてますよ。そっぽを向いて口笛ピューです。
「出資者が誰だか覚えているな?」
笑顔の圧力に負けました。
「い、イワンの瞳に似ててきれいだなって、思ったん……です。もう開き直りますよ。私まだ十五歳ですよ。夢見がちなお年頃なんだから、いいじゃないですか。好きな人の瞳の色と同じ色したドレスが良いななんて思っても!」
ヤケです。叫んじゃいますよ。
「恥ずかしいやつ」
窓の外に目をやるイワンは、耳まで真っ赤になっていました。
イワンのお祖母様の代から御用達のお店。
この位置は港が近くて海外から輸入した生地を早く受け取れていいそうです。
工房内に立てかけられた筒状の生地がたくさんあって、どれもすごくきれい。宝箱みたいです。
仕立て屋のコンチータさんは、六十代くらいの素敵なマダム。コンチータさんがデザイン案をたくさんテーブルに広げます。
「若様からお話を聞いて、最近の流行を取り入れたデザインを用意しておきました。お嬢様はどれがお好みですか?」
「これ、でしょうか。ミーナ様みたいに、ふんわりして気品がある華やかなドレスに憧れます」
歓迎会のときにミーナ様が着ていたドレスは、幾重にも重ねられた白いレースと鮮やかな紫の組み合わせ。大きく開いた袖のフリルもミーナ様にとっても似合っていました。
「アラセリスがあれを着たらドレスに負けるぞ。会長本人が派手だから着こなせるんだ」
「つまり私のこと地味って言ってますね」
私にもミーナ様にも失礼です。
イワンは恋人になったからといって優しく甘やかしてくれるわけではなく、前と変わらず意地悪なこと言います。
ちょっとくらい、かわいいって褒めてくれてもいいじゃないですか。
「怒るな。流行関係なく向き不向きがあるというだけだ。パーティーで着るならそっちのデザインにしておけ」
そっち、と言ってイワンが指したのは、用意されたデザイン案の中では一番シンプルなものです。
「ふふふ。若様はお嬢様のことをよくわかっておられるのですね」
「どういう意味です?」
「お嬢様の清楚さを活かすなら、こちらのデザインが一番お似合いになるかと存じます」
「……余計なことを言うなマダム・コンチータ」
コンチータさんには強く物を言えないのか、イワンはきまりが悪そう。
若様って呼ばれてるのなんか可愛いですよね。十二歳までは坊ちゃん呼びだったそうです。
「お色はどれになさいますか。こちらの中からお好みのものを選んでください。この中に無いようでしたら、遠方から取り寄せることもできますよ」
お手伝いさんが持ってきてくれた生地は手触りや厚み、光沢が一枚一枚違います。どれもすごくきれい。
その中でも淡い黄色の、グラデーションした生地が目に止まりました。
「これがいいです」
「かしこまりました。ではこちらの生地で仕立てますね。お嬢様によく似合うと思いますよ」
採寸してもらって、ドレスに合わせるアクセサリーも選んでもらって。
そうしているうちにすっかり日が暮れていました。
帰りの馬車の中でイワンが聞いてきます。
「なんであの色なんだ? 歓迎会のときのような青を選ぶと思った」
「歓迎会のときは何も言ってくれなかったじゃないですか」
『これなら恥をかかないだろ』なんて言われたの、実はすごく根に持ってます。
イワンの瞳をじーーっと見上げると、私から顔をそらしてポツリとこぼしました。
「……歓迎会のドレス、似合っていた」
「そうですか、似合っていましたか。えへへ」
窓枠に肘をつき視線だけよこして、イワンはもう一度聞いてきます。
「で、なんであの色?」
「ナイショです」
言えません。
イワンに似てるから、なんて言ったら絶対からかわれるんです。
私に予知の魔法なんてないですが、先が見えてますよ。そっぽを向いて口笛ピューです。
「出資者が誰だか覚えているな?」
笑顔の圧力に負けました。
「い、イワンの瞳に似ててきれいだなって、思ったん……です。もう開き直りますよ。私まだ十五歳ですよ。夢見がちなお年頃なんだから、いいじゃないですか。好きな人の瞳の色と同じ色したドレスが良いななんて思っても!」
ヤケです。叫んじゃいますよ。
「恥ずかしいやつ」
窓の外に目をやるイワンは、耳まで真っ赤になっていました。