一年生春編 運命に翻弄される春
週明け。
本当は朝からテストがあるはずでしたが、講堂で学長先生による緊急朝会が行われました。
ミーナ様が書面を片手に司会進行しています。
学長先生がわたあめみたいなあごひげを撫でつつ、挨拶します。
「こうして集まってもらったのは他でもない。昨日ルシール湖畔で火事があり、当学院の生徒が率先して消火活動にあたってくれた。建物の持ち主と魔法士団から感謝の言葉が届いている」
いったん言葉を切ったところでミーナ様の視線がこちらに向きました。
「二年、イワン・ラウレール。一年、アラセリス。前へ」
「は、はい!」
みんなの視線が集まるのを感じます。一年生が? という信じられないものを見るような目も感じます。
こんなふうにみんなの前で呼ばれることになるとは思いませんでした。
カチコチで歩く私と反対に、イワンはいつも通りの猫かぶりの微笑みを浮かべながら歩いてきました。ポーカーフェイスってこういうとき得ですよね。
並んで学長先生の前に立ちます。
「緊張し過ぎだ。深呼吸しろ。オレもここにいるんだから大丈夫だ」
イワンが先生に聞こえないよう囁きます。隣にいてくれると安心しますね。
「とても立派じゃったな、イワン、アラセリス」
「魔法士として当然のことをしたまでです」
「わ、私も、できることをしただけです」
「良き心がけだ。皆も見習うように」
イワンにならって私も頭を下げました。
褒められたくてやったわけではありませんが、こうして感謝の言葉をもらうの嬉しいです。
朝会が終わって教室に戻ります。
筆記試験は一時間後ろ倒しで行われるそうです。
みんな待ち受けるテストへの緊張でいっぱい……かと思いきや。
「すごいねアラセリスさん。消火の魔法なんてまだ習ってないでしょう」
「イワンが教えてくれたから」
「休みの日に、たまたまラウレール先輩とアラセリスが湖畔にいたのか? すごい偶然だな」
「あ、いえ、偶然ではなくて、一緒に出かけてたんです。召喚魔法のコツを教えてもらうために」
「休日に二人きりで出かけるような仲なのか。やるなぁ」
あ、やっぱりそこ気になりますよね。
貴族でもこういうコイバナっぽいにおいがする話題好きなんですね。庶民だけかと思っていました。
「お前らやめろよ。もうすぐ先生が来るぞ」
ローレンツくんの一言で、みんなそれぞれの机に戻っていきました。
「大丈夫だったか? 勉強教わっただけなのに、勝手に変な勘ぐりされたら困るよな」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうローレンツくん」
勘ぐりも何も、実際に婚約者だから困りはしません。
イワンはイワンで、クラスメートに質問攻めされているんでしょうか。困ってる顔見てみたいですね。
テストの手応えは充分。イワンが教えてくれたところがそのまんま出ました。
本当にあんなちっちゃい補足説明から出題するんですね。
午後の実技も、ミーナ様から教わったことをきちんと再現できました。
ペンちゃんをプールに潜らせて、沈んだキーアイテムを取ってくるのもできました。
もしかしたら私。首席とれるんじゃないですか!?
結果が出るのは二日後。
楽しみですね。
今日の日程はテストのみなので、いつもより早く放課です。
みんな問題用紙を握りしめて、「あんなのが出るなんて!」「出題の仕方がずるい!」と叫んでいました。
イワンが迎えに来てくれる約束になっているので待っていると、ローレンツくんが声をかけてきました。
「アラセリス、このあと時間あるか?」
「はい?」
「ここじゃなんだから、中庭で」
込み入った話があるようです。数名、クラスメートが残っているここではできないような話。
……あれ。この展開、ミーナ様の日記にありませんでしたか。
『ローレンツのヤンデレフラグ②、アラセリスに恋人ができると発生する。恋人に騙されているのではないかと勘ぐり、善意で助けようとしてくる。二人で話したいと言われたら要注意』
まずいです。非常にまずいです。
これ、話して誤解をといたほうがいいんですか。
でも「ローレンツと二人で会わないでくれ」とイワンが言った以上、この誘いを受けるのはイワンに対して不誠実になります。
「相談には乗れません。ごめんなさい。イワンに誤解させるようなことはしたくないです」
私だって、イワンに好意を寄せる人が現れて、その人がイワンと二人きりになろうとしていたら嫌です。
はっきり言葉にして断ると、ローレンツくんの笑顔が歪みました。
「それは本当にお前の意志なのか? 魅了術で気持ちをねじ曲げられたんじゃなく」
ローレンツくんは本気で言っている。
善意のつもりの言葉が怖い。
背筋が凍りました。
本当は朝からテストがあるはずでしたが、講堂で学長先生による緊急朝会が行われました。
ミーナ様が書面を片手に司会進行しています。
学長先生がわたあめみたいなあごひげを撫でつつ、挨拶します。
「こうして集まってもらったのは他でもない。昨日ルシール湖畔で火事があり、当学院の生徒が率先して消火活動にあたってくれた。建物の持ち主と魔法士団から感謝の言葉が届いている」
いったん言葉を切ったところでミーナ様の視線がこちらに向きました。
「二年、イワン・ラウレール。一年、アラセリス。前へ」
「は、はい!」
みんなの視線が集まるのを感じます。一年生が? という信じられないものを見るような目も感じます。
こんなふうにみんなの前で呼ばれることになるとは思いませんでした。
カチコチで歩く私と反対に、イワンはいつも通りの猫かぶりの微笑みを浮かべながら歩いてきました。ポーカーフェイスってこういうとき得ですよね。
並んで学長先生の前に立ちます。
「緊張し過ぎだ。深呼吸しろ。オレもここにいるんだから大丈夫だ」
イワンが先生に聞こえないよう囁きます。隣にいてくれると安心しますね。
「とても立派じゃったな、イワン、アラセリス」
「魔法士として当然のことをしたまでです」
「わ、私も、できることをしただけです」
「良き心がけだ。皆も見習うように」
イワンにならって私も頭を下げました。
褒められたくてやったわけではありませんが、こうして感謝の言葉をもらうの嬉しいです。
朝会が終わって教室に戻ります。
筆記試験は一時間後ろ倒しで行われるそうです。
みんな待ち受けるテストへの緊張でいっぱい……かと思いきや。
「すごいねアラセリスさん。消火の魔法なんてまだ習ってないでしょう」
「イワンが教えてくれたから」
「休みの日に、たまたまラウレール先輩とアラセリスが湖畔にいたのか? すごい偶然だな」
「あ、いえ、偶然ではなくて、一緒に出かけてたんです。召喚魔法のコツを教えてもらうために」
「休日に二人きりで出かけるような仲なのか。やるなぁ」
あ、やっぱりそこ気になりますよね。
貴族でもこういうコイバナっぽいにおいがする話題好きなんですね。庶民だけかと思っていました。
「お前らやめろよ。もうすぐ先生が来るぞ」
ローレンツくんの一言で、みんなそれぞれの机に戻っていきました。
「大丈夫だったか? 勉強教わっただけなのに、勝手に変な勘ぐりされたら困るよな」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうローレンツくん」
勘ぐりも何も、実際に婚約者だから困りはしません。
イワンはイワンで、クラスメートに質問攻めされているんでしょうか。困ってる顔見てみたいですね。
テストの手応えは充分。イワンが教えてくれたところがそのまんま出ました。
本当にあんなちっちゃい補足説明から出題するんですね。
午後の実技も、ミーナ様から教わったことをきちんと再現できました。
ペンちゃんをプールに潜らせて、沈んだキーアイテムを取ってくるのもできました。
もしかしたら私。首席とれるんじゃないですか!?
結果が出るのは二日後。
楽しみですね。
今日の日程はテストのみなので、いつもより早く放課です。
みんな問題用紙を握りしめて、「あんなのが出るなんて!」「出題の仕方がずるい!」と叫んでいました。
イワンが迎えに来てくれる約束になっているので待っていると、ローレンツくんが声をかけてきました。
「アラセリス、このあと時間あるか?」
「はい?」
「ここじゃなんだから、中庭で」
込み入った話があるようです。数名、クラスメートが残っているここではできないような話。
……あれ。この展開、ミーナ様の日記にありませんでしたか。
『ローレンツのヤンデレフラグ②、アラセリスに恋人ができると発生する。恋人に騙されているのではないかと勘ぐり、善意で助けようとしてくる。二人で話したいと言われたら要注意』
まずいです。非常にまずいです。
これ、話して誤解をといたほうがいいんですか。
でも「ローレンツと二人で会わないでくれ」とイワンが言った以上、この誘いを受けるのはイワンに対して不誠実になります。
「相談には乗れません。ごめんなさい。イワンに誤解させるようなことはしたくないです」
私だって、イワンに好意を寄せる人が現れて、その人がイワンと二人きりになろうとしていたら嫌です。
はっきり言葉にして断ると、ローレンツくんの笑顔が歪みました。
「それは本当にお前の意志なのか? 魅了術で気持ちをねじ曲げられたんじゃなく」
ローレンツくんは本気で言っている。
善意のつもりの言葉が怖い。
背筋が凍りました。