一年生春編 運命に翻弄される春
テスト前最後の陽の日。
イワンに使い魔を指揮するコツを教えてもらう約束をしていました。
うちの近くにある緑地公園。
休日は親子連れがスポーツを楽しめる、広い場所です。
そして何より、ペンちゃんの訓練に使える湖があるのです。
天気が良くて、湖面が太陽の光を反射して綺麗です。訓練ついでに裸足になって、浅瀬に足を浸して涼みます。
「晴れて良かったですね〜、イワン。気持ちいいです」
「はしゃぎすぎて本来の目的を忘れるな。アラセリス、使い魔を喚べ」
「はい。『我の力を分けしモノ、招致に応じよ』」
足元に光の輪が生まれ、中からペンちゃんが出てきます。イワンも指を弾いて小鳥ちゃんを喚び出しました。
「なんでイワンは詠唱無しで喚べるんです?」
「人間は詠唱しないと魔界に干渉できないからな。オレは魔界の属性だから中継しなくていいだけ」
うーん、例えるならお隣の敷地に声をかけて借りてくるか、自分の懐にあるものを出すか、みたいな違いでしょうか。
「目を借りるってどうやるんです」
「使い魔本人に頼め。馴れてくれば何も言わずとも借りられる」
「そうなんですね」
一方的に従えるのではなく、ペンちゃんたち使い魔本人の意志というのも大切なようです。
「ペンちゃん、私、水の中を見てみたいの。目を貸してほしいな」
『ピィ〜』
膝を抱えて目線を合わせて、ペンちゃんにお願いします。わかったのかな、ペンちゃんはてこてこ歩いて湖に潜りました。
今見えている視界に別の景色が混じって、たくさんの絵の具をぶちまけたみたいになってます。目の前がぐるぐるします。
「ひゃ、な、なな、なんですこれ。目がぁ……」
「ああ、慣れないとよくあるやつだな」
イワンの手が、いきなり私の目元を塞ぎました。
「ちょ、何するんです」
「目を閉じろ。自分の視界を塞げば、使い魔が送ってくる景色だけに集中できる」
「は、はい」
言われるまま目を閉じて流れ込んでくるものに意識をやります。
目の前を小魚がたくさんよこぎっていきます。ゆらゆらと水面の光が動くのもわかります。
これが水底の世界。
「そろそろいいか。使い魔に、ここに戻るよう言え」
「はい。ペンちゃん、もういいよ。ありがとう。帰っておいで〜」
ペンちゃんが湖から顔を出したので呼びます。
「ありがとうペンちゃん」
『ぴ〜ぴ〜』
足元に来て跳ねるペンちゃん、すごくかわいいです。
あぁ、うちの子かわいいですねぇ。任務を達成して嬉しそうです。
「わぁ、不思議な鳥。お姉ちゃんの?」
近くで遊んでいた小さい子たちが寄ってきました。
「はい。ペンちゃんは使い魔ですよ」
「つかいまってなーに?」
「ええと……」
なんと説明しましょう。魔法を使えない人にはわからないですよね。困っていると、イワンが代わりに答えてくれました。
「魔法の国からくる友だちだ」
「魔法の国のおともだち? よくわかんないけど、すごいんだね! なでてもいい?」
「いいよ。優しくしてあげてね」
「はぁい」
次から次にちっちゃいこたちが集まってきてしまいました。
しばらく練習が中断しそうなので、イワンが木陰に座って小鳥ちゃんに言います。
「少し自由時間をやる。遊んでこい」
『チチチチ〜』
好きにしていいと言われたのに、イワンの肩に頭にぴょこぴょこ飛び移ってます。ご主人様のこと大好きなんですね。
私もイワンの隣に座って休憩します。
しばらくして、子どもたちの輪の中からペンちゃんが出てきました。まっすぐ走って私の膝に飛び乗ります。
「この子お姉ちゃんのことが好きなんだね」
「えへへ。そうだと嬉しいな」
「鳥さんと遊ばせてくれてありがとね、お姉ちゃん。お兄ちゃんも」
みんな大きく手を降ってかけていきました。
「子どもの扱いがうまいな」
「そうです?」
「お前みたいのがいい母親になるんだろうな」
「イワンもいいお父さんになれると思いますよ。駄目なことは駄目って、ちゃんと叱ってくれますから」
イワンは照れているのか、私から視線を逸らして呟きます。
「……オレは少し休む。少しの間枕になってろ」
「あ、懐かしいです。オリエンテーションのときやりましたね」
親子の遊ぶ程よい喧騒、時折湖の上を抜ける涼しい風が吹いてきて、心地いいです。
けれど休息の時間はそう長く続かず。
どこからか、耳をつんざくような悲鳴が響きました。
イワンも慌てて起き上がります。
イワンの使い魔ちゃんがどこかに飛んでいってすぐ戻ってきて、鳴いて訴えました。
情報を受け取ったイワンの顔がこわばりました。
「……火事だ。この先にあるコテージが燃えている」
イワンに使い魔を指揮するコツを教えてもらう約束をしていました。
うちの近くにある緑地公園。
休日は親子連れがスポーツを楽しめる、広い場所です。
そして何より、ペンちゃんの訓練に使える湖があるのです。
天気が良くて、湖面が太陽の光を反射して綺麗です。訓練ついでに裸足になって、浅瀬に足を浸して涼みます。
「晴れて良かったですね〜、イワン。気持ちいいです」
「はしゃぎすぎて本来の目的を忘れるな。アラセリス、使い魔を喚べ」
「はい。『我の力を分けしモノ、招致に応じよ』」
足元に光の輪が生まれ、中からペンちゃんが出てきます。イワンも指を弾いて小鳥ちゃんを喚び出しました。
「なんでイワンは詠唱無しで喚べるんです?」
「人間は詠唱しないと魔界に干渉できないからな。オレは魔界の属性だから中継しなくていいだけ」
うーん、例えるならお隣の敷地に声をかけて借りてくるか、自分の懐にあるものを出すか、みたいな違いでしょうか。
「目を借りるってどうやるんです」
「使い魔本人に頼め。馴れてくれば何も言わずとも借りられる」
「そうなんですね」
一方的に従えるのではなく、ペンちゃんたち使い魔本人の意志というのも大切なようです。
「ペンちゃん、私、水の中を見てみたいの。目を貸してほしいな」
『ピィ〜』
膝を抱えて目線を合わせて、ペンちゃんにお願いします。わかったのかな、ペンちゃんはてこてこ歩いて湖に潜りました。
今見えている視界に別の景色が混じって、たくさんの絵の具をぶちまけたみたいになってます。目の前がぐるぐるします。
「ひゃ、な、なな、なんですこれ。目がぁ……」
「ああ、慣れないとよくあるやつだな」
イワンの手が、いきなり私の目元を塞ぎました。
「ちょ、何するんです」
「目を閉じろ。自分の視界を塞げば、使い魔が送ってくる景色だけに集中できる」
「は、はい」
言われるまま目を閉じて流れ込んでくるものに意識をやります。
目の前を小魚がたくさんよこぎっていきます。ゆらゆらと水面の光が動くのもわかります。
これが水底の世界。
「そろそろいいか。使い魔に、ここに戻るよう言え」
「はい。ペンちゃん、もういいよ。ありがとう。帰っておいで〜」
ペンちゃんが湖から顔を出したので呼びます。
「ありがとうペンちゃん」
『ぴ〜ぴ〜』
足元に来て跳ねるペンちゃん、すごくかわいいです。
あぁ、うちの子かわいいですねぇ。任務を達成して嬉しそうです。
「わぁ、不思議な鳥。お姉ちゃんの?」
近くで遊んでいた小さい子たちが寄ってきました。
「はい。ペンちゃんは使い魔ですよ」
「つかいまってなーに?」
「ええと……」
なんと説明しましょう。魔法を使えない人にはわからないですよね。困っていると、イワンが代わりに答えてくれました。
「魔法の国からくる友だちだ」
「魔法の国のおともだち? よくわかんないけど、すごいんだね! なでてもいい?」
「いいよ。優しくしてあげてね」
「はぁい」
次から次にちっちゃいこたちが集まってきてしまいました。
しばらく練習が中断しそうなので、イワンが木陰に座って小鳥ちゃんに言います。
「少し自由時間をやる。遊んでこい」
『チチチチ〜』
好きにしていいと言われたのに、イワンの肩に頭にぴょこぴょこ飛び移ってます。ご主人様のこと大好きなんですね。
私もイワンの隣に座って休憩します。
しばらくして、子どもたちの輪の中からペンちゃんが出てきました。まっすぐ走って私の膝に飛び乗ります。
「この子お姉ちゃんのことが好きなんだね」
「えへへ。そうだと嬉しいな」
「鳥さんと遊ばせてくれてありがとね、お姉ちゃん。お兄ちゃんも」
みんな大きく手を降ってかけていきました。
「子どもの扱いがうまいな」
「そうです?」
「お前みたいのがいい母親になるんだろうな」
「イワンもいいお父さんになれると思いますよ。駄目なことは駄目って、ちゃんと叱ってくれますから」
イワンは照れているのか、私から視線を逸らして呟きます。
「……オレは少し休む。少しの間枕になってろ」
「あ、懐かしいです。オリエンテーションのときやりましたね」
親子の遊ぶ程よい喧騒、時折湖の上を抜ける涼しい風が吹いてきて、心地いいです。
けれど休息の時間はそう長く続かず。
どこからか、耳をつんざくような悲鳴が響きました。
イワンも慌てて起き上がります。
イワンの使い魔ちゃんがどこかに飛んでいってすぐ戻ってきて、鳴いて訴えました。
情報を受け取ったイワンの顔がこわばりました。
「……火事だ。この先にあるコテージが燃えている」