一年生春編 運命に翻弄される春

「そう。実技試験の対策をしたいのね」
「はい! お願いしますミーナ様!」

 テストまであと三日。
 今日の昼休憩はミーナ様に魔法を使うコツを教えてもらいます。
 何かあったときのため、玄関前にある噴水そばで練習です。

「一年の最初の試験なら、実技は燭台のロウソクに魔法で火を灯すもの、それから使い魔を操るものね。アタシを頼ってくれて嬉しいわ」
「ミーナ様が一番信用できます」
「そうね。教えを請うなら同性のアタシにしておくといいわ。セシリオはもってのほか」

 ミーナ様の日記から引用しますと“セシリオはアラセリスに恋人がいる状態でも、文字通り手取り足取り教えるし、略奪しようとする。”
 幼馴染の恋人だと知った上で略奪するのはまずいと思います、セシリオ様。

「純愛ルートでも、横槍を入れる輩は必ず現れるから気をつけなさい。他にも何か思い出したらすぐ情報提供するから」
「はい」

 頼もしく言ったあと、ミーナ様は燭台をトン、と噴水前の台座に置きます。三又の燭台にはロウソクがさしてあります。

「詠唱は覚えているわね」
「バッチリ暗記しました!」
「まずアタシが実演するから、見ていなさい」

 ミーナ様は人差し指と中指を立てて燭台を見据え、唱えます。

『火の神よ、ひとときのともしびを分け与えたまえ』

 構えていた指を燭台に向けると、ポッとオレンジ色の火が三本同時に灯りました。
 見事すぎる手際に拍手です。ミーナ様素敵です。

「慣れないうちだと一本しか点かないなんてことも多いから、集中して。大事なのは燭台、ロウソクから目をそらさないことよ。火がつく様子をイメージしながら。さぁ、やってみて」

 フッと息で吹き消して、ミーナ様は私を促します。

 ミーナ様がやったように指を構えて、じっと燭台を見る。このロウソクに火が揺れている姿を想像して、詠唱します。

『火の神よ、ひとときのともしびを分け与え給え!』

 右から順にポツポツと火が灯りました。三本、ちゃんと。

「どうですか!」

 ミーナ様のように同時点火ではなかったですが、点きました。私はやれば出来る子ですね。

「上手よ。セリスさんは飲み込みが早いわ」
「えへへ。ミーナ様に褒められるの嬉しいです」

 お姉ちゃんがいなかったので、きっと私に姉がいたらこんな風に優しい人かな。

「あとは使い魔召喚ね。貴女の使い魔は水生だから、きっと水中に沈められた指定品を取ってくることになると思うの。使い魔の目を借りて、きちんと場所を把握すれば難しいことではないわ」
「目を借りて……」

 ん、んんんと。使い魔は術者の手足であり目となり声を飛ばすこともできる。何か頭の中で引っかかりました。

「ミーナ様、例えばミーナ様の猫ちゃんをあの木の上に登らせたら、ミーナ様にはあの高さからの景色が見えますか」
「ええ、もちろん。それがどうかした?」

 ……とんでもないことに気づいちゃいました。
 私、前にイワンの小鳥ちゃんを借りたとき、ずぶ濡れになったので小鳥ちゃんを連れたまま着替えました。
 イワンにも見えていたってことですか。
 私の着替え一部始終。


「ど、どうしたのセリスさん。頭を抱えて。具合でも悪いの?」
「なんでもないです」



 放課後イワンの教室に直行しました。
 先輩がたが驚いて私を見ていますが知ったこっちゃないです。

「イワンのばかー! どうして言ってくれなかったんですか! 私、使い魔と視界が共有できるなんて知りませんでしたよ!」
「いまさら気づいたんですか」

 イワンは猫かぶりの涼しい顔です。
 恋人になったから良かったものの、いや、あんまりよくないですが、着替えを見せていたなんて乙女の恥です。
 クラスメートさんが遠慮がちにイワンに声をかけます。

「だ、大丈夫かイワン。喧嘩?」
「問題ありません。アラセリス、中庭で話しましょう」

 教室で騒ぎ立てるなや、と金の瞳が言っています。
 引きずられながら中庭に行きました。

「結婚式を終えたら毎日見ることになるんだから、そこまで怒らなくても」
「それはそうですけど! 恥ずかしいじゃないですか!」
「理不尽極まりないな。お前がオレの使い魔を連れたまま着替えたんだろうが。視界を繋いだままだったからこっちのほうが驚いた。離れている間使い魔は命令に従い続けるし……魔法士の女なら普通やらない」

 みんな家族の誰かが魔法士だからとっくに知ってたんですね。知らなかったのは私だけ。自分のお馬鹿さに泣きそうです。

「次の休みにでも使い魔を扱うコツ教えてやるから、機嫌直せ」
「むむ……それなら許してあげます」
 
 私がこの笑顔に弱いの知っててやってるんでしょうか。本当にずるい人です。




ツギクルバナー
image
39/50ページ