一年生春編 運命に翻弄される春
入学してから約二月が経ちました。
定期テスト間近です。
テストを受けるなんて中等学校以来なので緊張します。
実技が魔法学、召喚術。
筆記は魔法史と薬草学、魔法基礎知識。
図書室なら資料もたくさんあるので、授業終わってから図書室によります。
「ううーん。薬草学、薬草学……」
学院の図書室は、天井から足元までびっちりと本が詰まった棚がありまして、なかなかに広いです。私が住む町にある図書館がまるごと入っちゃうんじゃないかと思うくらい。
二十分ほど探し歩いてようやく目的の棚にたどり着けたのですが。
「ああ……みんな考えることは同じですか」
薬草学系の本は目ぼしそうなものがほとんど抜き取られて、棚の木目が見えています。
一冊、【薬草学基礎知識】と書かれたものがだいぶ上の棚にあるのが目に入りました。
せの、びしても……………無理でした。私、クラスの身長低い順で並ぶと前から二人目なんですよ。
「これか?」
背後から声がして、その人が本を取ってくれました。
「薬草学基礎知識、合ってるか、セリス」
「ありがとう、ローレンツくん」
「一冊しか残ってないし、俺もこの本使いたいから一緒に勉強しようぜ」
「そうですね」
図書室内の机が並ぶスペースで、教科書と参考資料、ノートを出して出題範囲のおさらいをします。
薬草学って、昔絵本で見たような『悪い魔女が大釜でカエルやヘビや毒草を混ぜて作る怪しい薬』みたいなのではないのです。
傷の化膿防止だったり解熱だったり、薬草それぞれの特性を理解して使う知識を指します。
「放課後残ってやっていくなんて勉強熱心だな、セリスは」
「成績が悪いと奨学制度打ち切られちゃうの。奨学生でいられる条件は、三年間上位三位以内をキープ」
「あはは。俺には絶対無理なやつだ!」
他人事だからか、ローレンツくんがケラケラ笑ってます。ここには他にも勉強している生徒たちがいます。みんなに睨まれて、慌てて口を手で塞ぎます。
しばらくノートに書き取りしていると、ローレンツくんがペンを持つ手を止めてこちらを見ました。
「セリス。これでお互い補習無しでいい成績取れたらさ、お祝いに二人でパーッと遊びに行かないか? 劇場見に行ったり、町でうまいもの食ったり」
「私、遊べるほどお金ないです。それに、みんなが一緒ならいいですが、二人だけならだめです」
お母さんからおこづかいはもらっていても、学用品を買うお金としてとってあります。
成績キープが在学条件なので、学業を疎かにする恐れがあるという理由でバイト禁止なのです。
それに、他にも何人か友達が一緒ならまだしも、二人で、というのはだめです。
「笑えるくらい身持ちが硬いな、お前」
図書室にイワンが入ってきました。
「薬草学か。担当講師のニコラスは毎回このあたりを出すから、読んでおくといい」
イワンは薬草学基礎知識にある概要の、ちっちゃく補足説明されている箇所を指で叩きます。
気づきませんよ、こんなオマケみたいに書かれたとこ。
「教師ごとに出題の癖があるんだ。前年の問題をまるごと使い回すやつもいる。テストで良い点を取りたいなら、効率よく勉強しろ」
「ありがとうございます。初めてイワンが二年生なんだなって実感し……ひゃう」
ほっぺたつねるのをやめてください。
「イワン、あんまりセリスを虐めるなよな」
「イジメじゃなくて教育だ」
悪魔の微笑みです。ほっぺたにあとがついたらどうしてくれるんですか。
「会長が呼んでいる。行くぞ」
「はい。それじゃローレンツくん。また明日。あ、本どうしよう」
「俺が借りる手続きしとくから、明日またここで」
「わかりました!」
教科書とノートをカバンに詰めて、急いで図書室を出ました。
「イワン。ミーナ様、テスト期間は生徒会役員のお仕事はないって言ってた気がするんですけど」
「嘘も方便って言葉を知らないのか」
イワンはちょっとむすっとしてます。瞳は金色寄り。ぜったい怒ってますね。
「ローレンツと二人になるの禁止」
「心配しなくてもちゃんと断りましたよ。イワン以外の人と二人でお出かけはしないです」
「楽しそうに言うな」
ほっぺたつねらないでください。痛いです。さっきと反対側だから、どっちも痕になりますよこれ。
ようやく指をはなして、イワンは目を細めて笑います。
「首席になれたら星を見に連れて行ってやろう。いい場所を知っている」
「ほんとですか!」
空から見た星空、すごく綺麗でした。また見ることができるなら嬉しいです。
がぜんやる気がでてきました。
目指せ学年で一番です。
定期テスト間近です。
テストを受けるなんて中等学校以来なので緊張します。
実技が魔法学、召喚術。
筆記は魔法史と薬草学、魔法基礎知識。
図書室なら資料もたくさんあるので、授業終わってから図書室によります。
「ううーん。薬草学、薬草学……」
学院の図書室は、天井から足元までびっちりと本が詰まった棚がありまして、なかなかに広いです。私が住む町にある図書館がまるごと入っちゃうんじゃないかと思うくらい。
二十分ほど探し歩いてようやく目的の棚にたどり着けたのですが。
「ああ……みんな考えることは同じですか」
薬草学系の本は目ぼしそうなものがほとんど抜き取られて、棚の木目が見えています。
一冊、【薬草学基礎知識】と書かれたものがだいぶ上の棚にあるのが目に入りました。
せの、びしても……………無理でした。私、クラスの身長低い順で並ぶと前から二人目なんですよ。
「これか?」
背後から声がして、その人が本を取ってくれました。
「薬草学基礎知識、合ってるか、セリス」
「ありがとう、ローレンツくん」
「一冊しか残ってないし、俺もこの本使いたいから一緒に勉強しようぜ」
「そうですね」
図書室内の机が並ぶスペースで、教科書と参考資料、ノートを出して出題範囲のおさらいをします。
薬草学って、昔絵本で見たような『悪い魔女が大釜でカエルやヘビや毒草を混ぜて作る怪しい薬』みたいなのではないのです。
傷の化膿防止だったり解熱だったり、薬草それぞれの特性を理解して使う知識を指します。
「放課後残ってやっていくなんて勉強熱心だな、セリスは」
「成績が悪いと奨学制度打ち切られちゃうの。奨学生でいられる条件は、三年間上位三位以内をキープ」
「あはは。俺には絶対無理なやつだ!」
他人事だからか、ローレンツくんがケラケラ笑ってます。ここには他にも勉強している生徒たちがいます。みんなに睨まれて、慌てて口を手で塞ぎます。
しばらくノートに書き取りしていると、ローレンツくんがペンを持つ手を止めてこちらを見ました。
「セリス。これでお互い補習無しでいい成績取れたらさ、お祝いに二人でパーッと遊びに行かないか? 劇場見に行ったり、町でうまいもの食ったり」
「私、遊べるほどお金ないです。それに、みんなが一緒ならいいですが、二人だけならだめです」
お母さんからおこづかいはもらっていても、学用品を買うお金としてとってあります。
成績キープが在学条件なので、学業を疎かにする恐れがあるという理由でバイト禁止なのです。
それに、他にも何人か友達が一緒ならまだしも、二人で、というのはだめです。
「笑えるくらい身持ちが硬いな、お前」
図書室にイワンが入ってきました。
「薬草学か。担当講師のニコラスは毎回このあたりを出すから、読んでおくといい」
イワンは薬草学基礎知識にある概要の、ちっちゃく補足説明されている箇所を指で叩きます。
気づきませんよ、こんなオマケみたいに書かれたとこ。
「教師ごとに出題の癖があるんだ。前年の問題をまるごと使い回すやつもいる。テストで良い点を取りたいなら、効率よく勉強しろ」
「ありがとうございます。初めてイワンが二年生なんだなって実感し……ひゃう」
ほっぺたつねるのをやめてください。
「イワン、あんまりセリスを虐めるなよな」
「イジメじゃなくて教育だ」
悪魔の微笑みです。ほっぺたにあとがついたらどうしてくれるんですか。
「会長が呼んでいる。行くぞ」
「はい。それじゃローレンツくん。また明日。あ、本どうしよう」
「俺が借りる手続きしとくから、明日またここで」
「わかりました!」
教科書とノートをカバンに詰めて、急いで図書室を出ました。
「イワン。ミーナ様、テスト期間は生徒会役員のお仕事はないって言ってた気がするんですけど」
「嘘も方便って言葉を知らないのか」
イワンはちょっとむすっとしてます。瞳は金色寄り。ぜったい怒ってますね。
「ローレンツと二人になるの禁止」
「心配しなくてもちゃんと断りましたよ。イワン以外の人と二人でお出かけはしないです」
「楽しそうに言うな」
ほっぺたつねらないでください。痛いです。さっきと反対側だから、どっちも痕になりますよこれ。
ようやく指をはなして、イワンは目を細めて笑います。
「首席になれたら星を見に連れて行ってやろう。いい場所を知っている」
「ほんとですか!」
空から見た星空、すごく綺麗でした。また見ることができるなら嬉しいです。
がぜんやる気がでてきました。
目指せ学年で一番です。