一年生春編 運命に翻弄される春

 夜になり、残る仕事は明日しましょうということになりました。
 そんなわけで、私とミーナ様は学生寮にある来賓用のお部屋を借りています。

 お泊まりってドキドキしますね。
 学生寮住みのクララさんも遊びに来てくれました。
 お夕食を終えてパジャマになって、おしゃべりに花が咲きます。
 話す内容はもちろん、明後日に迫った新入生歓迎会のこと。

「クララさんは、歓迎会のパートナーは決まっているんですか?」
「それが、まだ決まってないの。同じ学年の人に声をかけてみようかなとは思うんだけど、自分から誘うのってなんだか緊張しちゃって」
「もしものときは生徒会役員がパートナー役を務めるから、肩ひじはらなくても大丈夫よ」

 恥ずかしそうに顔を手で隠すクララさん。ミーナ様がお姉さんらしく口添えしてくれます。

「わたしのことより、ギジェルミーナ様は今年で最後ですよね。生徒会の仕事は大変だと思いますが、合間の時間だけでも、意中の殿方と踊ったりはしませんか」
「お気遣いありがとう。けれど、わたくしもっと大人の人、年上が好みなの」

 最上級生のミーナ様より年上の生徒なんて、学院にはいません。
 前世はおおえる? 二十代半ばって言ってましたものね。同年代は恋愛対象外のようです。

「以前王城の舞踏会でご一緒した騎士様が、とても素敵でしたのよ。あの方のように、包容力ある大人の色香漂う男性がいいです」
「そうなんですね」

 ミーナ様が惚れ込むような包容力ある男性、どのような方なのでしょうね。

「セリスさんは? 聞き役に徹してますけれど、役員の仕事がない自由時間くらい好きな人と羽根を伸ばしていいのよ。ここ数日ずっと頑張っていてくれたのだから」
「自由時間ですか……」

 こういうパーティーってどう過ごすのが正しいんでしょう。貴族の皆様は数をこなしているうちの一回にすぎないでしょうが、私は人生初です。
 
「校庭から花火の打ち上げも予定しているから、一緒に見てはいかが?」
「タイムスケジュールにありましたね」

 一人で見るより誰かと見たほうが楽しいと思います。
 ……イワン様を誘ったら、迷惑だって言われてしまうでしょうか。
 なんとなくですが、イワン様は人が集まるような賑やかな場所が苦手なのではないかと思います。

「やっぱりセシリオ様を誘うの? 婚約者じゃないかって噂になっていたものね」
「あれはセシリオ様が私をからかっただけなので。ただの先輩後輩ですよ」

 重要なのでキッパリ断言します。またセシリオ様ファンに拉致されては敵いませんから。

「では、ローレンツさん?」
「何かと気にかけてくれるいいお友達です」

 最初子どもみたいなことしてきたとは思えないくらい、いいお友達です。

「クララさん。セリスさんはイワンと良い仲だから、あまり他の殿方の名前を出すものではないわ」
「そうだったのね。意外だけどイワンさんとアラセリスさんってすごくお似合いだと思う」
「ミーナ様。私は何も言ってないのに」

 たしかにイワン様を誘うつもりでしたけど、お互い告白したわけではない、よくわからない関係なのです。
 恋人ではないし、けど友達というには近すぎる。ただの先輩後輩と言い切れるような浅さでもない気がして。

「照れることはないわ。今日はダンスの練習で、長年連れ添った恋人同士のような顔をして踊っていたのに」
「私、そんな顔してましたか」
「貴女だけでなくイワンも。あんなに優しい目で誰かを見るイワンは初めて見たわ。純愛ルートっていいわね」

 ミーナ様がウィンクして笑います。
 純愛、……私、イワン様との純愛の道に踏み込んでるんですか。
 ちょっと前の私、イワン様とだけは絶対いや! って言ってたのに。
 こんなの、普通じゃないです。
 私はもっと冷静に、普通の恋を見つけるはずだったのに。

 こんなつもりじゃなかったのに、目が自然とイワン様を追ってしまうのも事実。
 どうして自分の気持ちなのに、自由に変えられないんでしょう。

 枕を抱きしめたままベッドの上でコロコロ転がります。

「ち、違うんです。恋人なんて、そんな、ま、まだ。だって私たち、ケンカばかりだし、イワン様だって、庶民の私では迷惑だと思うんです。身分が同じ……貴族の令嬢のほうが……」
「大切なのは今のあなたの気持ち。どうなの、セリスさん?」
「どうなんです?」

 二人にさんざんからかわれました。
 いじわるするのは男の子だけではないようです。ぐすん。




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