一年生春編 運命に翻弄される春
今日は学院がお休みです。
週七日のうち、土の日と陽の日は授業がないのです。
授業はなくても、あくる月の日がパーティー当日なので、準備とダンス練習に追われることになります。
「ふああ……おはよう……」
ここ数日毎日ダンスの練習をしているから、寝てもなかなか疲れが取れません。足が痛いです。
「やあアラセリスさん。朝が弱いのかな」
「はい!?」
イワン様がにっこり猫かぶりで挨拶してきました。ここ、我が家のリビングですよね。なんでいるんですか。
眠気が吹っ飛びましたよ。
なぜかイワン様がリビングのテーブルで紅茶を飲んでいます。
「なんでイワン様が」
「あらあらセリス。今日から生徒会のお仕事で泊まり込みなんでしょう。荷物もあるから先輩が迎えにきてくれる約束になっているって昨日自分で言っていたのに」
お母さんが私の分の朝ごはんをテーブルに並べながら教えてくれます。
たしかに、昨日話しました。誰が来てくれるかは知りませんでしたがここはミーナ様じゃないんですか。なんでイワン様なんですか。
「姉さん、寝癖寝癖」
「わわわわ」
急いで洗面所で髪を整えてリビングに戻ります。
あれ、昨夜のうちにまとめていた着替えのバッグはどこに。
「バッグならもう馬車に乗せてありますので、ゆっくり朝食を食べたらいい」
「……そうします」
猫被りイワン様、こうしていれば品行方正な優等生なんですよね。実際はお腹真っ黒ですけど。
イワン様に見られていて味わうことも出来ず、大好きなはずのパンを飲み込んで、急ぎ出発します。
馬車が出て我が家が見えなくなると、イワン様の猫がいなくなりました。
そこそこ大きい座席なのに、肩が触れる位置に座っています。
「ははは。いやあ面白かった。生徒会の誰かが朝来るのをわかっていたはずなのに、気を抜き過ぎだ」
「何が面白いんですか。こっちは心臓止まるかと思いましたよ!」
イワン様を叩いたら絶対報復されるから、自分のバッグをポスポス叩きます。
「怒るな。今日ドレスが届く予定だろう。練習に付き合ってやるよ。着た状態で踊るのに慣れておかないと、自分の裾を踏みかねないからな」
「え、で、でも」
「なんだ? ローレンツかセシリオの方が良かったか?」
金色の瞳で睨まれました。怒っている時のイワン様って、瞳が金色になるんですよね。
本人は気づいてないかもしれませんが。声もすごく怒気を孕んでいます。
「だって、イワン様足を踏んだら絶対怒るじゃないですか」
「足を踏む前提なのをやめろ。もしかしてそれでローレンツとセシリオばかりに頼んでいたのか」
「私は褒められて伸びる子なんです。怒っちゃ嫌です。イジワルしちゃ嫌です」
「あのな……お前、初日に何回セシリオの足を踏んでいたか覚えているか? 褒められる要素がどこにあった」
「な、ないです」
イワン様は私の髪を指ですきます。毛先を指に絡ませてくるくる。機嫌、治ったんでしょうか。さっきまで強ばっていた口元が緩んでいます。
「怒られるのが嫌だからって、オレ以外の男に頼るな」
イワン様の顔が近づいてくきます。
目を閉じると、額に温かい感触が当たりました。
あ、おでこですか……。
いえ、別に何か期待していたわけじゃないんですけど、拍子抜けと言いますか。ええ本当に、何か期待したわけじゃないです。
私が勘違いしたのを察しているようで、イワン様が満足そうに笑いました。
「どうして欲しい?」
「何もいらないですー!」
「ほう。また反対語か」
顎に指を添えられて、上向かせられます。
息がかかる、唇が触れるか触れないかギリギリの距離で、もう一度聞いてきます。
「どうして欲しい?」
「こ、こんなの、ずるいです、卑怯です……」
私から言わないとこの距離を保つんですか。じわりと目尻が熱くなります。こんな意地悪されても、イワン様がいいなんて思っちゃう私は手遅れかもしれません。
「イワン様、キス、してください」
「いい子だ」
ムカつくくらい綺麗に笑って私を誉めた後、イワン様は私の唇を塞ぎました。
週七日のうち、土の日と陽の日は授業がないのです。
授業はなくても、あくる月の日がパーティー当日なので、準備とダンス練習に追われることになります。
「ふああ……おはよう……」
ここ数日毎日ダンスの練習をしているから、寝てもなかなか疲れが取れません。足が痛いです。
「やあアラセリスさん。朝が弱いのかな」
「はい!?」
イワン様がにっこり猫かぶりで挨拶してきました。ここ、我が家のリビングですよね。なんでいるんですか。
眠気が吹っ飛びましたよ。
なぜかイワン様がリビングのテーブルで紅茶を飲んでいます。
「なんでイワン様が」
「あらあらセリス。今日から生徒会のお仕事で泊まり込みなんでしょう。荷物もあるから先輩が迎えにきてくれる約束になっているって昨日自分で言っていたのに」
お母さんが私の分の朝ごはんをテーブルに並べながら教えてくれます。
たしかに、昨日話しました。誰が来てくれるかは知りませんでしたがここはミーナ様じゃないんですか。なんでイワン様なんですか。
「姉さん、寝癖寝癖」
「わわわわ」
急いで洗面所で髪を整えてリビングに戻ります。
あれ、昨夜のうちにまとめていた着替えのバッグはどこに。
「バッグならもう馬車に乗せてありますので、ゆっくり朝食を食べたらいい」
「……そうします」
猫被りイワン様、こうしていれば品行方正な優等生なんですよね。実際はお腹真っ黒ですけど。
イワン様に見られていて味わうことも出来ず、大好きなはずのパンを飲み込んで、急ぎ出発します。
馬車が出て我が家が見えなくなると、イワン様の猫がいなくなりました。
そこそこ大きい座席なのに、肩が触れる位置に座っています。
「ははは。いやあ面白かった。生徒会の誰かが朝来るのをわかっていたはずなのに、気を抜き過ぎだ」
「何が面白いんですか。こっちは心臓止まるかと思いましたよ!」
イワン様を叩いたら絶対報復されるから、自分のバッグをポスポス叩きます。
「怒るな。今日ドレスが届く予定だろう。練習に付き合ってやるよ。着た状態で踊るのに慣れておかないと、自分の裾を踏みかねないからな」
「え、で、でも」
「なんだ? ローレンツかセシリオの方が良かったか?」
金色の瞳で睨まれました。怒っている時のイワン様って、瞳が金色になるんですよね。
本人は気づいてないかもしれませんが。声もすごく怒気を孕んでいます。
「だって、イワン様足を踏んだら絶対怒るじゃないですか」
「足を踏む前提なのをやめろ。もしかしてそれでローレンツとセシリオばかりに頼んでいたのか」
「私は褒められて伸びる子なんです。怒っちゃ嫌です。イジワルしちゃ嫌です」
「あのな……お前、初日に何回セシリオの足を踏んでいたか覚えているか? 褒められる要素がどこにあった」
「な、ないです」
イワン様は私の髪を指ですきます。毛先を指に絡ませてくるくる。機嫌、治ったんでしょうか。さっきまで強ばっていた口元が緩んでいます。
「怒られるのが嫌だからって、オレ以外の男に頼るな」
イワン様の顔が近づいてくきます。
目を閉じると、額に温かい感触が当たりました。
あ、おでこですか……。
いえ、別に何か期待していたわけじゃないんですけど、拍子抜けと言いますか。ええ本当に、何か期待したわけじゃないです。
私が勘違いしたのを察しているようで、イワン様が満足そうに笑いました。
「どうして欲しい?」
「何もいらないですー!」
「ほう。また反対語か」
顎に指を添えられて、上向かせられます。
息がかかる、唇が触れるか触れないかギリギリの距離で、もう一度聞いてきます。
「どうして欲しい?」
「こ、こんなの、ずるいです、卑怯です……」
私から言わないとこの距離を保つんですか。じわりと目尻が熱くなります。こんな意地悪されても、イワン様がいいなんて思っちゃう私は手遅れかもしれません。
「イワン様、キス、してください」
「いい子だ」
ムカつくくらい綺麗に笑って私を誉めた後、イワン様は私の唇を塞ぎました。