一年生春編 運命に翻弄される春
誘拐事件から二日。
事情聴取やら何やらありまして、今日ようやく学院に出てこれました。
レスティ家の兄妹は退学、マリベルさんに協力した令嬢たちは一ヶ月の謹慎処分となりました。
バッドエンドルートと思われていたのに帰還できたのは、『ミーナ様がゲームと違う行動を取ってシナリオが変化したから』というのがミーナ様の見解です。
今は放課後。生徒会室にて、初・生徒会役員のお仕事をしています。
出席者リストに備品貸出のリスト、タイムスケジュールなどが机の上にうず高く積まれています。
「……ス、おいアラセリス! 聞いているのか」
向かいに座るイワン様が声を荒らげます。
なんといいますか、悔しいですが……イワン様の顔を直視できません。
イワン様を見るとあの夜のことを思い出してしまって、落ち着かないんです……。
「き、聞いています。ええと、一曲目のワルツ、全員一回はパートナーと一緒に踊らなければならない。パートナーが見つからなかった方には生徒会役員の誰かがつく」
「そうだ。オレとセシリオ、会長はどの曲でも踊れるからいいとして、問題はお前だ。パートナーを頼まれて、ワルツを踊れるか?」
「私、ワルツなんて踊ったことないです。ドレスもないです。この服ではだめですか」
セシリオ様とミーナ様が、やんわりと私をたしなめます。
「セリスくん。その服は君に似合っていて可愛いのだけど、時と場合というのがある。舞踏会ではドレスがマナーだ」
「セシリオの言うとおりよ。生徒会役員になった以上はダンスを覚えてもらわないといけません。貴女と私は背格好が近いようですから、明日うちの仕立て屋を呼んで、ドレスを貴女の体に合うように手直しさせましょう」
新入生歓迎会という名のダンスパーティーは五日後です。これはゲーム上回避不可の必須イベントだそうです。
踊れないので壁の花をしています、なんて許してもらえません。
「アラセリス。ちょっとそこで靴を脱げ。教えてやるから最低限踊れるよう体に叩き込め」
イワン様が黒板に足の運び方をつらつらと書き込みます。
ミーナ様が横に立ってスカートの裾を持ち上げて足運びを見せてくれました。
「こんな感じよ。できそうかしら」
「やってみます」
いちにさん、いちにさん。
ミーナ様が手拍子するのに合わせて、左足を下げて右に移動したり。だんだん混乱してきました。
「……ええと次に踏み出す足は……?」
「足の動きだけ覚えるより、実際やってみたほうがいいかもしれないね」
セシリオ様が自然な動作で私の腰に手を添えます。
「左手をわたしの右上腕に添えて」
「こ、こうですか?」
傍から見ると抱き合っているようですよね。気恥ずかしくなります。
生徒会室の一角で、置かれていたテーブルセットなどをずらしてスペースを作りました。
セシリオ様にサポートされながら踊ります。
「そこは左足を下げて。足元を気にしていると姿勢が悪くなるから、顔を上げてわたしを見て」
「は、はい」
セシリオ様を見上げ、ミーナ様の手拍子に合わせて踊ります。
何度もセシリオ様の足を踏んでしまいました。下手くそで本当にごめんなさい。
「ぜんっぜんダメだな。明日から昼休憩も使って練習しろ」
「イワン。今日が初めてなんだからダメだなんて言うもんじゃない」
イワン様の言うことはもっともなのですが、ハートにグサグサきます。
下手なままでは、パーティー当日パートナーになる方に迷惑をかけてしまいます。
「私、がんばって練習します。せめて足を踏まないくらいにはなります!」
昼休憩の時間帯、ローレンツくんなら練習につきあってくれるでしょうか。
ローレンツくんは足を踏んでも怒らなそうといいますか、イワン様に頼むと、踏むたびに罵倒されそうな気がします。
それに、次にイワン様に見せたときすごくうまくなっていたら見返せると思うんです。
そうと決まったら、明日から練習三昧です!
事情聴取やら何やらありまして、今日ようやく学院に出てこれました。
レスティ家の兄妹は退学、マリベルさんに協力した令嬢たちは一ヶ月の謹慎処分となりました。
バッドエンドルートと思われていたのに帰還できたのは、『ミーナ様がゲームと違う行動を取ってシナリオが変化したから』というのがミーナ様の見解です。
今は放課後。生徒会室にて、初・生徒会役員のお仕事をしています。
出席者リストに備品貸出のリスト、タイムスケジュールなどが机の上にうず高く積まれています。
「……ス、おいアラセリス! 聞いているのか」
向かいに座るイワン様が声を荒らげます。
なんといいますか、悔しいですが……イワン様の顔を直視できません。
イワン様を見るとあの夜のことを思い出してしまって、落ち着かないんです……。
「き、聞いています。ええと、一曲目のワルツ、全員一回はパートナーと一緒に踊らなければならない。パートナーが見つからなかった方には生徒会役員の誰かがつく」
「そうだ。オレとセシリオ、会長はどの曲でも踊れるからいいとして、問題はお前だ。パートナーを頼まれて、ワルツを踊れるか?」
「私、ワルツなんて踊ったことないです。ドレスもないです。この服ではだめですか」
セシリオ様とミーナ様が、やんわりと私をたしなめます。
「セリスくん。その服は君に似合っていて可愛いのだけど、時と場合というのがある。舞踏会ではドレスがマナーだ」
「セシリオの言うとおりよ。生徒会役員になった以上はダンスを覚えてもらわないといけません。貴女と私は背格好が近いようですから、明日うちの仕立て屋を呼んで、ドレスを貴女の体に合うように手直しさせましょう」
新入生歓迎会という名のダンスパーティーは五日後です。これはゲーム上回避不可の必須イベントだそうです。
踊れないので壁の花をしています、なんて許してもらえません。
「アラセリス。ちょっとそこで靴を脱げ。教えてやるから最低限踊れるよう体に叩き込め」
イワン様が黒板に足の運び方をつらつらと書き込みます。
ミーナ様が横に立ってスカートの裾を持ち上げて足運びを見せてくれました。
「こんな感じよ。できそうかしら」
「やってみます」
いちにさん、いちにさん。
ミーナ様が手拍子するのに合わせて、左足を下げて右に移動したり。だんだん混乱してきました。
「……ええと次に踏み出す足は……?」
「足の動きだけ覚えるより、実際やってみたほうがいいかもしれないね」
セシリオ様が自然な動作で私の腰に手を添えます。
「左手をわたしの右上腕に添えて」
「こ、こうですか?」
傍から見ると抱き合っているようですよね。気恥ずかしくなります。
生徒会室の一角で、置かれていたテーブルセットなどをずらしてスペースを作りました。
セシリオ様にサポートされながら踊ります。
「そこは左足を下げて。足元を気にしていると姿勢が悪くなるから、顔を上げてわたしを見て」
「は、はい」
セシリオ様を見上げ、ミーナ様の手拍子に合わせて踊ります。
何度もセシリオ様の足を踏んでしまいました。下手くそで本当にごめんなさい。
「ぜんっぜんダメだな。明日から昼休憩も使って練習しろ」
「イワン。今日が初めてなんだからダメだなんて言うもんじゃない」
イワン様の言うことはもっともなのですが、ハートにグサグサきます。
下手なままでは、パーティー当日パートナーになる方に迷惑をかけてしまいます。
「私、がんばって練習します。せめて足を踏まないくらいにはなります!」
昼休憩の時間帯、ローレンツくんなら練習につきあってくれるでしょうか。
ローレンツくんは足を踏んでも怒らなそうといいますか、イワン様に頼むと、踏むたびに罵倒されそうな気がします。
それに、次にイワン様に見せたときすごくうまくなっていたら見返せると思うんです。
そうと決まったら、明日から練習三昧です!