一年生春編 運命に翻弄される春
「セリスさん! あぁ、無事で良かった!」
イワン様と港に戻ると、ミーナ様が涙を流しながら駆け寄ってきました。再会を喜び抱き合っているところで、ペンちゃんと黒猫ちゃんもよってきます。
ピィピィ鳴くペンちゃんを抱き上げて撫で回します。ペンちゃんも立派な立役者ですよ。
「ありがとうございます、ミーナ様。ミーナ様が私を捜索するよう指示を出してくれたと聞きました」
「お礼ならイワンとレネにも言ってあげて。レネが学院に来なかったら、貴女が誘拐されたことに気付けなかったから」
「はい」
捜索隊の方も、私の無事を喜んでくれました。
「犯人は……」
「それなら捕まえておいたよ」
セシリオ様が優雅に微笑みながら、レスティ先輩を足蹴にしていました。
地面に転がる先輩は、大蛇に巻きつかれて身動き一つできない状態です。イワン様の炎魔法の被弾で、髪の毛はちりちり、服もところどころ焦げています。
それにしても……さっきから骨が軋むような危ない音がしているのは気のせいですか。それ以上絞めたら骨が砕けてしまうのではないかと心配になるような音です。
「いでででで離しやがれクソ! なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ! 俺は何もしていない!」
「何もしていない? セリスくんを誘拐して監禁したこと、なかったことにするつもりかい」
「セリス? そんな女知らん!」
しらを切りとおすつもりのようです。
「知らないですか。私、縛られて蹴られて、とても怖い思いをしたんですが」
私が前に進み出て聞くと、ようやく私に気づいたようです。
一瞬にしてお化けを見るような顔になりました。
「げ、お、お前どうやって逃げた。悪魔に食い殺されたん……」
言い終わらないうちに、セシリオ様のつま先が先輩の顔面にめり込みました。
ブーツが赤黒く汚れたのを気にする様子もなく、先輩の頭に足を乗せます。
「ライバルを消せば君の妹が婚約者になれると思っていたのかい? あいにく、わたしは君の妹のことが、大っ嫌いなんだ。学院で話しかけられたくないし、視界の片隅にすら入れたくない。婚約者候補が君の妹しかいなかったとしても、ぜったい妻に選ばない。生涯独り身を貫いたほうが国益になるくらいさ」
言葉の中身がわりと暴言なのに普段と変わらない、優しい笑顔を貼り付けたままなのが逆に怖いです。
「馬鹿な! 可愛くて気立てのいいマリベルを選ばないだと!?」
「馬鹿は貴方よ、アーダン・レスティ。思い通りにならないからといって民を拉致監禁する。そんな人間が王妃になったらこの国はおしまい。そんなこともわからないの?」
ミーナ様にトドメの一言を言われ、レスティ先輩はついに沈黙しました。
私はお医者様に具合を見てもらってから帰宅になると警官から説明されました。
夜遅いので事情聴取は明日。
ミーナ様が馬車を手配してくれて、家まで送ってもらえることになりました。
セシリオ様、イワン様とはここでいったんお別れです。
「すまないな。お前に忘却術が効くなら、誘拐された記憶を消してやれるんだが」
「ありがとうございますイワン様。その気持ちだけで充分です」
ペンちゃんを連れて馬車に乗り込みます。
家に向かう馬車の中、ミーナ様は私の頭を撫でてくれました。
「目印に使い魔を喚ぶなんて、捕まっている状況でよく思いつけたわね。偉いわ」
「たまたまです。私、みんなが来てくれなかったら危なかったです。本当に、ありがとうございます」
みんなに感謝してもし足りません。みんながいなかったら、私は殺されていたでしょう。
家に帰り着いて、お母さんとレネにも泣かれて、思いました。
治癒魔法の力が目覚めてしまった以上、私はどうあがいても庶民としての人生は送れない。また今回みたいな目に遭うこともあるでしょう。
ならせめて、自分で自分を守れるくらい、強くなりたいです。
魔法を使いこなせるようになりたいです。
イワン様と港に戻ると、ミーナ様が涙を流しながら駆け寄ってきました。再会を喜び抱き合っているところで、ペンちゃんと黒猫ちゃんもよってきます。
ピィピィ鳴くペンちゃんを抱き上げて撫で回します。ペンちゃんも立派な立役者ですよ。
「ありがとうございます、ミーナ様。ミーナ様が私を捜索するよう指示を出してくれたと聞きました」
「お礼ならイワンとレネにも言ってあげて。レネが学院に来なかったら、貴女が誘拐されたことに気付けなかったから」
「はい」
捜索隊の方も、私の無事を喜んでくれました。
「犯人は……」
「それなら捕まえておいたよ」
セシリオ様が優雅に微笑みながら、レスティ先輩を足蹴にしていました。
地面に転がる先輩は、大蛇に巻きつかれて身動き一つできない状態です。イワン様の炎魔法の被弾で、髪の毛はちりちり、服もところどころ焦げています。
それにしても……さっきから骨が軋むような危ない音がしているのは気のせいですか。それ以上絞めたら骨が砕けてしまうのではないかと心配になるような音です。
「いでででで離しやがれクソ! なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ! 俺は何もしていない!」
「何もしていない? セリスくんを誘拐して監禁したこと、なかったことにするつもりかい」
「セリス? そんな女知らん!」
しらを切りとおすつもりのようです。
「知らないですか。私、縛られて蹴られて、とても怖い思いをしたんですが」
私が前に進み出て聞くと、ようやく私に気づいたようです。
一瞬にしてお化けを見るような顔になりました。
「げ、お、お前どうやって逃げた。悪魔に食い殺されたん……」
言い終わらないうちに、セシリオ様のつま先が先輩の顔面にめり込みました。
ブーツが赤黒く汚れたのを気にする様子もなく、先輩の頭に足を乗せます。
「ライバルを消せば君の妹が婚約者になれると思っていたのかい? あいにく、わたしは君の妹のことが、大っ嫌いなんだ。学院で話しかけられたくないし、視界の片隅にすら入れたくない。婚約者候補が君の妹しかいなかったとしても、ぜったい妻に選ばない。生涯独り身を貫いたほうが国益になるくらいさ」
言葉の中身がわりと暴言なのに普段と変わらない、優しい笑顔を貼り付けたままなのが逆に怖いです。
「馬鹿な! 可愛くて気立てのいいマリベルを選ばないだと!?」
「馬鹿は貴方よ、アーダン・レスティ。思い通りにならないからといって民を拉致監禁する。そんな人間が王妃になったらこの国はおしまい。そんなこともわからないの?」
ミーナ様にトドメの一言を言われ、レスティ先輩はついに沈黙しました。
私はお医者様に具合を見てもらってから帰宅になると警官から説明されました。
夜遅いので事情聴取は明日。
ミーナ様が馬車を手配してくれて、家まで送ってもらえることになりました。
セシリオ様、イワン様とはここでいったんお別れです。
「すまないな。お前に忘却術が効くなら、誘拐された記憶を消してやれるんだが」
「ありがとうございますイワン様。その気持ちだけで充分です」
ペンちゃんを連れて馬車に乗り込みます。
家に向かう馬車の中、ミーナ様は私の頭を撫でてくれました。
「目印に使い魔を喚ぶなんて、捕まっている状況でよく思いつけたわね。偉いわ」
「たまたまです。私、みんなが来てくれなかったら危なかったです。本当に、ありがとうございます」
みんなに感謝してもし足りません。みんながいなかったら、私は殺されていたでしょう。
家に帰り着いて、お母さんとレネにも泣かれて、思いました。
治癒魔法の力が目覚めてしまった以上、私はどうあがいても庶民としての人生は送れない。また今回みたいな目に遭うこともあるでしょう。
ならせめて、自分で自分を守れるくらい、強くなりたいです。
魔法を使いこなせるようになりたいです。