一年生春編 運命に翻弄される春

 送還術と座学のあと、補習を受けて今日の授業は終わりました。
 明日は放課後生徒会室に行かないとです。新入生歓迎パーティーの打ち合わせがあるそうです。

 残っている生徒の人数は少なめ。
 セシリオ様の策が功を奏して、お昼以降声をかけてくる先輩はいなくなりました。

 追われなくなったことはありがたいですが、セシリオ様は大丈夫なのでしょうか。
 セシリオ様がどこかの令嬢と結婚する場合、今回の噂がセシリオ様の不利に働くかもしれない。
 そのときは「ただの先輩後輩です」と相手の令嬢に伝えなければなりませんね。

 玄関から校門までの並木道を歩いていると、行く手に立ちふさがる人がいました。 

「あなたが編入生ね」

 三人オトモを連れたご令嬢です。
 名は存じませんが、いやに香水臭い人。学生バッチから二年生ということだけはわかります。

「あの、どちら様でしょう」
「庶民のくせにセシリオ様に近づくあなたが悪いのよ!!」

 あ、これはセシリオ様関連のイベントでしたか。会話が成り立たないまま、押さえつけられ手首を縛られ、馬車に放り込まれました。

「いたたたっ、やめてください!!」
「例の場所まで走らせなさい」
「かしこまりました」

 窓に幕がかかっていて景色が見えません。
 私はどこに連れて行かれるのか、ミーナ様からいただいた日記の内容をいくつか頭に思い浮かべて候補を探します。

 純愛ルートでもバッドエンドルートでも、令嬢に拉致されるイベントが発生したと記憶しています。
 バッドエンドに向かっているのか純愛ルートに向かっているのかは知りませんが、なんとかして逃げないと。

 純愛ルート
 拉致された日、生徒会役員の誰かがつけてくれた見張り役の使い魔が伝令となってその日のうちに助けが来る。拉致した犯人は退学処分に。

 その他ルート
 生徒会役員の使い魔がそばにいない。
 発見が遅れて国外に奴隷として売り飛ばされる・殺されて死体が海に浮かぶ等々


 …………もしかして、詰みましたか。
 使い魔の小鳥ちゃんは、食堂舎で会ったときイワン様が連れて行ってしまいました。
「王子の婚約者という噂が盾になるならオレはお役御免だろ」って。

 思い出すだけでも切なくなってしまいます。
 お役御免なんてことありません。
 あなたがいてくれてどれだけ心強かったことか。

 無理やりキスしてきた嫌な人、なんて最初は思っていましたが、なぜでしょう。今はそんなに嫌いじゃないんです。
 このままバッドエンドを迎えたらもう会えなくなってしまいます。
 そんなの嫌です。

 私が帰らないとお母さんとレネが心配します。
 だからきっとすぐ捜索隊が出動します。
 私にできることは、どうにかして脱出すること。
 脱出して、家に帰って、学院に通って……

 また、会いたいです。




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