一年生春編 運命に翻弄される春
お昼になり、食堂舎でミーナ様とご飯を楽しんでいたらセシリオ様とイワン様が来ました。
「セリスくん大丈夫だったかい。水をかぶってしまったんだって?」
「大丈夫です。ローレンツくんがすぐに助けてくれたので。この子が召喚で来た子なんです」
召喚の逆、送還は午後の授業です。今ペンちゃんは私の足元でタライに入っています。
給仕係さんにお願いしたら氷水をはってくれました。寒い海で生きる子だからか、氷水がお気に入りみたいです。
「かわいいね。キミにそっくりだ」
「あ、ありがとうございます」
セシリオ様は優しいですが、一歩間違うと監禁される未来が待っています。気をつけないと。自分に言い聞かせて深呼吸します。
「確かに似合いだな、鈍足でどんくさい感じがお前そっくり」
「うるさいです」
マイナス要素を付加しないでいただきたい。
「イワン、言葉を慎みなさい。せっかく会計になってくれると言ってもらえたのに、セリスさんの気持ちが変わったらあなたのせいよ」
「は?」
ミーナ様に言われ、イワン様がぽかんと口を開けました。
「オレが勧誘したときには嫌だと言って逃げたくせに、会長が頼めばホイホイ聞くのか」
「人徳の差ですね」
嫌味を返すと、イワン様の笑顔が固まりました。
「ぷ、くくく。イワンにここまで噛みつき返しているのは君が初めてだよ、セリスくん」
「えーと、褒められているんですか?」
「そうでなくちゃね。男ですらこの毒舌に尻尾を巻いて逃げるから、それくらい元気な方が助かるよ」
先輩たちが小鳥を見るなり逃げたのはそういうことですか。
「ありがとうセリスくん。会計になってもらえて嬉しい。心から歓迎するよ」
「こ、こちらこそ。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
あ、握手ですか。右手を差し出されたので、私も手を持ち上げます。
セシリオ様は私の手を取ると、屈んで距離を詰めます。
「君と生徒会室で会えるのを楽しみにしているよ」
唇に触れるか触れないかの距離で囁き、颯爽と去っていきました。端から見たらキスしたみたいじゃないですか。
……セシリオ様、ここが食堂舎だと忘れていませんか。生徒のみなさんがここにいるのに。
案の定、まわりの生徒たちがコソコソ話しはじめました。
「あの子なんなの、もしかしてセシリオ様の婚約者?」
「そんな、相手が王子じゃ勝ち目ないじゃないか!」
私は婚約者でも何でもない、ただ会計に入っただけの庶民です。
「はわわわわ、ち、違います誤解ですセシリオ様は私をからかっただけで」
「セシリオ、荒っぽいやり方するわね。でも、これでセリスさんは変な人たちに絡まれなくなるかしら」
「ミーナ様、どういう意味ですか」
「真偽はどうあれ、今のでみんな貴女とセシリオが恋仲だと思ったんじゃないかしら? この学院には、王子の婚約者に手出しするバカはいないでしょう」
ミーナ様は食器を片付けて、仕事があるからと行ってしまいました。
いやいやいや、王子様の婚約者って私のような庶民が座れるポジションじゃないですよ。少し考えればわかるはずです。
「王子の婚約者、良かったなアラセリス」
「それはただの誤解……」
「誤解させるために、わざわざこんなに人が多いところを選んだんだ。あいつこそ蛇が似合いじゃないか」
イワン様の表情はどこか辛そうに見えます。
「良かったな。誤解でなく本当になれば、お前は国母だ。今よりずっと贅沢な暮らしができる」
「私は国母になることなんて望んでいません」
「どうだか。オレのときと随分反応が違うじゃないか。オレを蹴り飛ばして逃げたのはどこの誰だったか」
イワン様が吐き捨てるように言って、指を鳴らします。
私の肩にとまっていた小鳥ちゃんが、ピィと短く鳴いてイワン様のもとに飛んでいきました。
「この噂が盾になるなら、オレはお役御免だからな」
「ちょ、イワン様」
なんでイワン様の方が泣きそうな、辛い目にあったような顔をするんですか。
「治癒魔法目的で群がられるのが嫌だったんだろ。これで解決したのに、なんで泣きそうになってんだ」
「泣いてません」
「鏡を見ろバカ」
イワン様が私に、ハンカチを差し出す。
これは、イワン様が倒れたときに渡したものです。
「借りっぱなしで悪かったな」
それで私の目元をぬぐう。
酷いことばかり言うのに、なんで急に優しくなるんですか。
「クソ。お前に忘却術が効くなら、今のを消してやるのに」
ポツリと言って、イワン様は背を向けました。
「セリスくん大丈夫だったかい。水をかぶってしまったんだって?」
「大丈夫です。ローレンツくんがすぐに助けてくれたので。この子が召喚で来た子なんです」
召喚の逆、送還は午後の授業です。今ペンちゃんは私の足元でタライに入っています。
給仕係さんにお願いしたら氷水をはってくれました。寒い海で生きる子だからか、氷水がお気に入りみたいです。
「かわいいね。キミにそっくりだ」
「あ、ありがとうございます」
セシリオ様は優しいですが、一歩間違うと監禁される未来が待っています。気をつけないと。自分に言い聞かせて深呼吸します。
「確かに似合いだな、鈍足でどんくさい感じがお前そっくり」
「うるさいです」
マイナス要素を付加しないでいただきたい。
「イワン、言葉を慎みなさい。せっかく会計になってくれると言ってもらえたのに、セリスさんの気持ちが変わったらあなたのせいよ」
「は?」
ミーナ様に言われ、イワン様がぽかんと口を開けました。
「オレが勧誘したときには嫌だと言って逃げたくせに、会長が頼めばホイホイ聞くのか」
「人徳の差ですね」
嫌味を返すと、イワン様の笑顔が固まりました。
「ぷ、くくく。イワンにここまで噛みつき返しているのは君が初めてだよ、セリスくん」
「えーと、褒められているんですか?」
「そうでなくちゃね。男ですらこの毒舌に尻尾を巻いて逃げるから、それくらい元気な方が助かるよ」
先輩たちが小鳥を見るなり逃げたのはそういうことですか。
「ありがとうセリスくん。会計になってもらえて嬉しい。心から歓迎するよ」
「こ、こちらこそ。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
あ、握手ですか。右手を差し出されたので、私も手を持ち上げます。
セシリオ様は私の手を取ると、屈んで距離を詰めます。
「君と生徒会室で会えるのを楽しみにしているよ」
唇に触れるか触れないかの距離で囁き、颯爽と去っていきました。端から見たらキスしたみたいじゃないですか。
……セシリオ様、ここが食堂舎だと忘れていませんか。生徒のみなさんがここにいるのに。
案の定、まわりの生徒たちがコソコソ話しはじめました。
「あの子なんなの、もしかしてセシリオ様の婚約者?」
「そんな、相手が王子じゃ勝ち目ないじゃないか!」
私は婚約者でも何でもない、ただ会計に入っただけの庶民です。
「はわわわわ、ち、違います誤解ですセシリオ様は私をからかっただけで」
「セシリオ、荒っぽいやり方するわね。でも、これでセリスさんは変な人たちに絡まれなくなるかしら」
「ミーナ様、どういう意味ですか」
「真偽はどうあれ、今のでみんな貴女とセシリオが恋仲だと思ったんじゃないかしら? この学院には、王子の婚約者に手出しするバカはいないでしょう」
ミーナ様は食器を片付けて、仕事があるからと行ってしまいました。
いやいやいや、王子様の婚約者って私のような庶民が座れるポジションじゃないですよ。少し考えればわかるはずです。
「王子の婚約者、良かったなアラセリス」
「それはただの誤解……」
「誤解させるために、わざわざこんなに人が多いところを選んだんだ。あいつこそ蛇が似合いじゃないか」
イワン様の表情はどこか辛そうに見えます。
「良かったな。誤解でなく本当になれば、お前は国母だ。今よりずっと贅沢な暮らしができる」
「私は国母になることなんて望んでいません」
「どうだか。オレのときと随分反応が違うじゃないか。オレを蹴り飛ばして逃げたのはどこの誰だったか」
イワン様が吐き捨てるように言って、指を鳴らします。
私の肩にとまっていた小鳥ちゃんが、ピィと短く鳴いてイワン様のもとに飛んでいきました。
「この噂が盾になるなら、オレはお役御免だからな」
「ちょ、イワン様」
なんでイワン様の方が泣きそうな、辛い目にあったような顔をするんですか。
「治癒魔法目的で群がられるのが嫌だったんだろ。これで解決したのに、なんで泣きそうになってんだ」
「泣いてません」
「鏡を見ろバカ」
イワン様が私に、ハンカチを差し出す。
これは、イワン様が倒れたときに渡したものです。
「借りっぱなしで悪かったな」
それで私の目元をぬぐう。
酷いことばかり言うのに、なんで急に優しくなるんですか。
「クソ。お前に忘却術が効くなら、今のを消してやるのに」
ポツリと言って、イワン様は背を向けました。