一年生春編 運命に翻弄される春
「やぁアラセリスくん。僕はチャールストンという。聞いたよ。君には治癒魔法の才があると。ぜひ僕の第一夫人として」
「いいや、我がレスティ家にこそ必要な逸材! 俺の妻として」
「お前たち抜け駆けは許さないぞ、アラセリスさんはうちの……」
学院についた途端、上級生の皆様に囲まれました。顔も名前も知らない方々です。
「治癒魔法の使い手はルシール王国でとても希少なのよ」とミーナ様が教えてくださいましたが、まさか治癒魔法がほしいから嫁にきてくれと言われるとは思いませんでした。
そんな理由で結婚なんてぜったい嫌です。
「み、ミーナ様。こういうときはどうしたらいいんですか」
鼻息荒く迫ってくる先輩たちが怖くて、ミーナ様の背中に隠れます。
「キッパリ言っておやりなさい。お断りしますと」
「いいんですか? 失礼に当たりませんか?」
「セリスさんの気持ちを無視して、治癒魔法がほしいから嫁に来いと言い募るほうがよほど失礼よ」
ミーナ様に背中を押されて、私は先輩たちに頭を下げます。
「ごめんなさい、求婚はお受け出来ません」
「セリスさん本人がこう言っていることですし、諦めてくださいませんこと?」
ミーナ様が援護してくれますが、怖い先輩たちは諦めてくれません。
「それは会ったばかりだからさ。俺の素晴らしさを知れば結婚したくてたまらなくなるはずだ! 見よこの美形の」
「むりですーー!」
魔法士というより格闘家と言ったほうが似合いそうな、筋肉もりもりな先輩が声を荒らげます。なんて名前でしたっけこの方?
「やめないかレスティ。みっともない」
助け舟を出してくれたのは、セシリオ様でした。
「これまでろくに顔も知らなかったくせに。治癒の使い手だとわかった途端求婚するなんて、セリスくんに失礼だと思わないのか」
「せ、セシリオ、殿下。失礼なことなんてしてませんよ。俺はただ……」
「ただ、なんだい?」
一介の国民が一国の王子様相手に反論できるはずもなく。怖い先輩たちは退散していきました。
「やれやれ。大丈夫かいセリスくん」
「はい。ありがとうございます、セシリオ様」
セシリオ様から少し遅れてイワン様も歩いてきます。
「チャールストン伯爵家なら引く手数多だろうに、あえてこいつを嫁にしようなんて理解できない」
「奇遇ですね。私もイワン様と結婚する人の気がしれません」
喧嘩の押し売りですか、買いましょう。
イワン様は喧嘩を売るわりには煽り耐性がないんですね。瞳が金色に変わり、獲物を狩る獣のように燃えています。
「校門で喧嘩しないでくださいませ。学院の恥です」
ミーナ様の一言で怒りが鎮火しました。
「一日中こんな様子ではまともに学院生活を送れそうにないね。よかったらわたしたちのうちの誰か一人、使い魔を見張りにつけようか」
「使い魔、ですか」
「ああ。二年生以上はその使い魔が生徒会役員のものだと知っているから、下手に君を追いかけ回せなくなる。今日の授業が終わるまでの間だけでも、どうだい」
セシリオ様たちの手を煩わせてしまうのは気が引けます。でも、今みたいに授業の移動のたびに囲まれるのも困ります。
「……それでは、お願いします。一日だけ、使い魔ちゃんを貸してください」
私が頭を下げると、セシリオ様が柔らかく微笑んで指三本を出します。
「わたしたちの使い魔は、蛇と猫と小鳥の三択だ。どの使い魔がいいか君自身が選ぶといい」
「ええと……」
使い魔は魔法士本人の性質に近い生物が現れると、魔法学の授業で習いました。
きっと、イワン様は性格が悪いから蛇ですよね。セシリオ様は気まぐれなところがあるように見えるので猫。ミーナ様は可愛らしい小鳥。
「小鳥がいいです」
「おや、意外な答えだ。君はイワンとよく喧嘩をするようだから、小鳥だけは選ばないと思ったよ」
セシリオ様が笑います。
「……え? 蛇がイワン様じゃないんですか」
「どういう意味だ」
「だって蛇って執念深そうなイメージが」
言い終える前にチョップを食らいました。痛いです。暴力反対です。
イワン様が右手のひらを上に出すと、白くて小さくてふわふわの可愛い小鳥が出てきました。
「わー、イワン様の使い魔なのに白くて可愛いですね」
「ほう。使い魔の見張りは必要ないか。治癒魔法目当てのヤロー共に追い掛け回されたいんだな」
「ごめんなさい」
謝っても時すでに遅し。思い切りほっぺたを抓られました。
「いいや、我がレスティ家にこそ必要な逸材! 俺の妻として」
「お前たち抜け駆けは許さないぞ、アラセリスさんはうちの……」
学院についた途端、上級生の皆様に囲まれました。顔も名前も知らない方々です。
「治癒魔法の使い手はルシール王国でとても希少なのよ」とミーナ様が教えてくださいましたが、まさか治癒魔法がほしいから嫁にきてくれと言われるとは思いませんでした。
そんな理由で結婚なんてぜったい嫌です。
「み、ミーナ様。こういうときはどうしたらいいんですか」
鼻息荒く迫ってくる先輩たちが怖くて、ミーナ様の背中に隠れます。
「キッパリ言っておやりなさい。お断りしますと」
「いいんですか? 失礼に当たりませんか?」
「セリスさんの気持ちを無視して、治癒魔法がほしいから嫁に来いと言い募るほうがよほど失礼よ」
ミーナ様に背中を押されて、私は先輩たちに頭を下げます。
「ごめんなさい、求婚はお受け出来ません」
「セリスさん本人がこう言っていることですし、諦めてくださいませんこと?」
ミーナ様が援護してくれますが、怖い先輩たちは諦めてくれません。
「それは会ったばかりだからさ。俺の素晴らしさを知れば結婚したくてたまらなくなるはずだ! 見よこの美形の」
「むりですーー!」
魔法士というより格闘家と言ったほうが似合いそうな、筋肉もりもりな先輩が声を荒らげます。なんて名前でしたっけこの方?
「やめないかレスティ。みっともない」
助け舟を出してくれたのは、セシリオ様でした。
「これまでろくに顔も知らなかったくせに。治癒の使い手だとわかった途端求婚するなんて、セリスくんに失礼だと思わないのか」
「せ、セシリオ、殿下。失礼なことなんてしてませんよ。俺はただ……」
「ただ、なんだい?」
一介の国民が一国の王子様相手に反論できるはずもなく。怖い先輩たちは退散していきました。
「やれやれ。大丈夫かいセリスくん」
「はい。ありがとうございます、セシリオ様」
セシリオ様から少し遅れてイワン様も歩いてきます。
「チャールストン伯爵家なら引く手数多だろうに、あえてこいつを嫁にしようなんて理解できない」
「奇遇ですね。私もイワン様と結婚する人の気がしれません」
喧嘩の押し売りですか、買いましょう。
イワン様は喧嘩を売るわりには煽り耐性がないんですね。瞳が金色に変わり、獲物を狩る獣のように燃えています。
「校門で喧嘩しないでくださいませ。学院の恥です」
ミーナ様の一言で怒りが鎮火しました。
「一日中こんな様子ではまともに学院生活を送れそうにないね。よかったらわたしたちのうちの誰か一人、使い魔を見張りにつけようか」
「使い魔、ですか」
「ああ。二年生以上はその使い魔が生徒会役員のものだと知っているから、下手に君を追いかけ回せなくなる。今日の授業が終わるまでの間だけでも、どうだい」
セシリオ様たちの手を煩わせてしまうのは気が引けます。でも、今みたいに授業の移動のたびに囲まれるのも困ります。
「……それでは、お願いします。一日だけ、使い魔ちゃんを貸してください」
私が頭を下げると、セシリオ様が柔らかく微笑んで指三本を出します。
「わたしたちの使い魔は、蛇と猫と小鳥の三択だ。どの使い魔がいいか君自身が選ぶといい」
「ええと……」
使い魔は魔法士本人の性質に近い生物が現れると、魔法学の授業で習いました。
きっと、イワン様は性格が悪いから蛇ですよね。セシリオ様は気まぐれなところがあるように見えるので猫。ミーナ様は可愛らしい小鳥。
「小鳥がいいです」
「おや、意外な答えだ。君はイワンとよく喧嘩をするようだから、小鳥だけは選ばないと思ったよ」
セシリオ様が笑います。
「……え? 蛇がイワン様じゃないんですか」
「どういう意味だ」
「だって蛇って執念深そうなイメージが」
言い終える前にチョップを食らいました。痛いです。暴力反対です。
イワン様が右手のひらを上に出すと、白くて小さくてふわふわの可愛い小鳥が出てきました。
「わー、イワン様の使い魔なのに白くて可愛いですね」
「ほう。使い魔の見張りは必要ないか。治癒魔法目当てのヤロー共に追い掛け回されたいんだな」
「ごめんなさい」
謝っても時すでに遅し。思い切りほっぺたを抓られました。