一年生春編 運命に翻弄される春
「あれ、ここは……」
視界に入ったのは見慣れない天井。揺れるカーテンの隙間から入ってくる光は夕焼け色。
薬品の匂いがします。ここは、医務室? なんで私、医務室に。
私はさっきまで、オリエンテーションに出ていたはず。
「セリスさん、調子はどう?」
「ミーナ様」
ベッドサイドの椅子にミーナ様が腰掛けていました。
「覚えているかしら。オリエンテーションのあと、貴女はイワンに治癒魔法 をかけて、魔力欠乏で倒れたの。ローレンツが医務室まで運んでくれたから、次に会ったらお礼を言っておきなさい」
「あ……」
ミーナ様に説明されて、ぼんやりと思い出しました。
「大変。私、オリエンテーションのあとの授業、すっぽかしたってことになるんですか!?」
「先生には事情を説明してあるから。明日補習を受ければそれでいいと言っていたわ」
「そうですか。ご迷惑おかけしました」
私のせいで授業が止まってしまったのかと思うと申し訳ないです。
魔力を持つ者は、魔法の正しい使い方を覚えなければならない。身を持って体験しました。
魔法を使って倒れてひとさまに迷惑をかけるんじゃ、まともに生活できません。
「顔色があまり良くないわ。まだ本調子でないなら、うちの馬車で家まで送らせましょうか」
「いえ、大丈夫です。もう歩けますし、馬車で家まで乗り付けたらお母さんとレネがびっくりしちゃいます」
そう返したら、ミーナ様はクスクスと笑いました。
「大丈夫なら良かった。これ、オリエンテーション一位のごほうびよ。食堂舎でメニューにない特別なデザートを食べることができるチケットなの。二枚一組だから、誰か友達を誘って行くといいわ。ローレンツとクララさんの分はもう渡してあるから、これは貴女の分」
「わぁ! ありがとうございます」
特別なデザート、何を食べられるのでしょう。
「カバンはクララさんが持ってきてくれているから、このまま帰っても構わないわよ」
「はい」
「それと、帰り道、セシリオに気をつけなさい」
「何かあるんですね。……わかりました」
校舎の外に出るとすっかり日が傾いていて、魔法の街灯に明かりがともっています。
校門のそばに、空を見上げて佇むセシリオ様がいました。
忠告を受けて早々に出会ってしまうなんて。
バッチリ目が合っちゃったので、逃げられません。
「セリスくん。目が覚めたんだね。体調はどうだい」
「セシリオ様。ご心配おかけしました。もう大丈夫です。私、これで失礼しますね」
大丈夫と言いながらも、足がもつれます。
セシリオ様がとっさに手を伸ばして、支えてくれたおかげで転ばずにすみました。
「やれやれ。君もイワンと同じで、口で大丈夫と言いながら実は限界、というタイプみたいだね」
イワン様と一緒にされたくないです。どこが同じなんでしょうか。
「無茶をしがちな君に、授業では教えない、とっておきの魔力補給の方法を教えよう」
顔を上げると、セシリオ様が唇で私の口を塞ぎました。触れ合う唇から熱が伝わってくる。
「せ、セシリオ、さま。なにを」
「こんなふうに、手を介するより、直接体内に送るほうがより多くの魔力を分けられるんだ。二番目に効率がいいのは口づけ」
セシリオ様は授業をするときのように、爽やかに説明します。
口づけで二番目の効率なら、一番はなんなのでしょうか。
「めまい、無くなっただろう?」
言われてみれば、ずっと続いていた頭痛もなくなっています。
セシリオ様は指先で私の口元をなぞって、幼い子に言いきかせるような口調で口ずさみます。
「また魔力欠乏になるようなら、こうして魔力を分けてあげる。セリスくんになら特別に、毎日でもね。歩けないなら馬車で家まで送るよ」
「え、えんりょしておきますーー!」
もう二度と魔力欠乏にならないよう気をつけよう。
ミーナ様から忠告されていたのに回避できませんでした。泣きたい気持ちで家路を走ります。
セシリオ様と恋仲になったら、調教監禁される未来が待っている。
だから魔力欠乏・だめ絶対です!
視界に入ったのは見慣れない天井。揺れるカーテンの隙間から入ってくる光は夕焼け色。
薬品の匂いがします。ここは、医務室? なんで私、医務室に。
私はさっきまで、オリエンテーションに出ていたはず。
「セリスさん、調子はどう?」
「ミーナ様」
ベッドサイドの椅子にミーナ様が腰掛けていました。
「覚えているかしら。オリエンテーションのあと、貴女はイワンに
「あ……」
ミーナ様に説明されて、ぼんやりと思い出しました。
「大変。私、オリエンテーションのあとの授業、すっぽかしたってことになるんですか!?」
「先生には事情を説明してあるから。明日補習を受ければそれでいいと言っていたわ」
「そうですか。ご迷惑おかけしました」
私のせいで授業が止まってしまったのかと思うと申し訳ないです。
魔力を持つ者は、魔法の正しい使い方を覚えなければならない。身を持って体験しました。
魔法を使って倒れてひとさまに迷惑をかけるんじゃ、まともに生活できません。
「顔色があまり良くないわ。まだ本調子でないなら、うちの馬車で家まで送らせましょうか」
「いえ、大丈夫です。もう歩けますし、馬車で家まで乗り付けたらお母さんとレネがびっくりしちゃいます」
そう返したら、ミーナ様はクスクスと笑いました。
「大丈夫なら良かった。これ、オリエンテーション一位のごほうびよ。食堂舎でメニューにない特別なデザートを食べることができるチケットなの。二枚一組だから、誰か友達を誘って行くといいわ。ローレンツとクララさんの分はもう渡してあるから、これは貴女の分」
「わぁ! ありがとうございます」
特別なデザート、何を食べられるのでしょう。
「カバンはクララさんが持ってきてくれているから、このまま帰っても構わないわよ」
「はい」
「それと、帰り道、セシリオに気をつけなさい」
「何かあるんですね。……わかりました」
校舎の外に出るとすっかり日が傾いていて、魔法の街灯に明かりがともっています。
校門のそばに、空を見上げて佇むセシリオ様がいました。
忠告を受けて早々に出会ってしまうなんて。
バッチリ目が合っちゃったので、逃げられません。
「セリスくん。目が覚めたんだね。体調はどうだい」
「セシリオ様。ご心配おかけしました。もう大丈夫です。私、これで失礼しますね」
大丈夫と言いながらも、足がもつれます。
セシリオ様がとっさに手を伸ばして、支えてくれたおかげで転ばずにすみました。
「やれやれ。君もイワンと同じで、口で大丈夫と言いながら実は限界、というタイプみたいだね」
イワン様と一緒にされたくないです。どこが同じなんでしょうか。
「無茶をしがちな君に、授業では教えない、とっておきの魔力補給の方法を教えよう」
顔を上げると、セシリオ様が唇で私の口を塞ぎました。触れ合う唇から熱が伝わってくる。
「せ、セシリオ、さま。なにを」
「こんなふうに、手を介するより、直接体内に送るほうがより多くの魔力を分けられるんだ。二番目に効率がいいのは口づけ」
セシリオ様は授業をするときのように、爽やかに説明します。
口づけで二番目の効率なら、一番はなんなのでしょうか。
「めまい、無くなっただろう?」
言われてみれば、ずっと続いていた頭痛もなくなっています。
セシリオ様は指先で私の口元をなぞって、幼い子に言いきかせるような口調で口ずさみます。
「また魔力欠乏になるようなら、こうして魔力を分けてあげる。セリスくんになら特別に、毎日でもね。歩けないなら馬車で家まで送るよ」
「え、えんりょしておきますーー!」
もう二度と魔力欠乏にならないよう気をつけよう。
ミーナ様から忠告されていたのに回避できませんでした。泣きたい気持ちで家路を走ります。
セシリオ様と恋仲になったら、調教監禁される未来が待っている。
だから魔力欠乏・だめ絶対です!