一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。在校生を代表してお祝い申し上げます」

 卒業式の会場に、魔法拡声器を通したイワンの声が響く。

 あの事件からひと月。
 ついに今日、セシリオ様とミーナ様が卒業します。
 校庭に薄く積もっていた雪も溶けて、学院に植えられた木々には新芽が芽吹きはじめています。
 深呼吸すると新緑の香りが鼻を抜けるのです。
 風が暖かくて、空も雲一つない快晴で、絶好の卒業日和です。


 笑顔でお見送りしようと決めていたのに、やっぱりお別れは寂しくて、司会進行の最中なのにボロ泣きしちゃいました。
 拡声器をクララさんにバトンタッチ。涙もろい副会長で申し訳ないです。


 卒業式のあと、学院の中庭に生徒会メンバーで集まりました。

 うちの庭師さんにお願いして、ラウレール邸で育った薔薇《ばら》の花束を作ってもらいました。
 ミーナ様には私から、セシリオ様にはイワンから花束を手渡します。

 ミーナ様は花束ごと私を抱きしめて笑います。

「セリスさん、ありがとう。あなたに会えてよかった。アタシも領地運営の仕事をはじめるから、気軽に会う機会は少なくなるけれど、アタシはいつだってあなたの幸せを願っているから」
「ありがとうございます、ミーナ様。私もミーナ様の幸せを願っています。あなたに会えたから、私は今ここにいるんです」

 入学式でミーナ様が前世を思い出さなかったら、私には今と違う未来が訪れていたでしょう。
 港の倉庫で儚くなっていたかもしれません。

 ミーナ様だけじゃありません。
 イワン、セシリオ様、ローレンツくん、クララさん。
 この中の誰か一人が欠けても、私は成長できなかった。

 この学院に来られてよかった。
 みんなと出会えてよかった。

「セシリオ。贈り物なんてもらい飽きているだろうが、アラセリスがお祝いしたいと言うからな」
「うん、確かに贈り物は貰いなれているけれど。そういう余計な一言をつけるのがイワンらしいね。素直におめでとうと言えないのかい」

 セシリオ様は気を悪くした様子もなく、花束を受け取ります。

「この薔薇ばらはラウレール邸の庭園に咲いているものだろう。いつ見ても綺麗だね」
「ディアナ先生のお気に入りの花なんですよ」
「ほう。ディアナ様の。城の一画にも同じ品種の薔薇が植えられているんだが、そういう理由があるのかもしれないね」

 ディアナ先生はランヴァルドさんと結婚するため城を出ました。
 今でもディアナ先生が好きな花が城に残されているというのは、なんだか嬉しいですね。
 先王陛下……ディアナ先生のお兄様がそうしたのでしょうか。
 
「おーい、こっち準備できたぞ。写真撮ろうぜ写真!」

 ローレンツくんが学院の象徴である魔法樹のたもとで私たちを呼びました。
 魔法具のカメラを持った先生もいます。

「ほらセシリオ! 会長、じゃねーやギジェルミーナ、主役は真ん中な」
「そんなに引っ張らないでくれ、袖が伸びるじゃないか」
「ふふっ。セリスさん、せっかくだから撮りましょうか」

 セシリオ様がローレンツくんにひっぱられていく。そして私も、ミーナ様に引かれ魔法樹の前に移動します。
 私、イワン、ミーナ様、セシリオ様、ローレンツくん、クララさん。
 
 みんなで並んで記念の写真を撮って、この写真は最高の宝物になりました。

 このメンバーで過ごす楽しい時間が終わらなければいいのにな、なんて思ったりもするけれど、時間は止まりません。

 来月から私は二年生。
 イワンが三年生になって、卒業を見送る。
 その次は私がこうして見送られる側に立つ。

 学院を卒業したその先にも、時間は続いていきます。
 出会いと別れを繰り返して、今日もまた一日が始まり終わっていく。




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