一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)
翌日、学院に行くと生徒たちがざわついていました。
イワンが廊下を歩けば生徒が廊下のはしに避けていく。
不安げな様子で逃げた生徒の中には、昨夜寮の窓から戦いの様子を覗いていた子もいます。
逃げるなと言う方が無理なお願いなのでしょうか。
イワンは生徒を守ろうとしていたのに。
ひとけがないところまで来てから、イワンはため息まじりに言います。
「予測はしていたが、やはり気分のいいものではないな」
「悲しいです」
「昨夜のこと、あの場にいた教師や魔法士団とも話し合って、寮生以外の生徒にもきちんと説明しないといけないな」
「はい。ちゃんと話さないと、安心して寮生活を送れないですものね」
騎士団による尋問の末、ワルター先生と志同じくした人たちはいもづる式に拘束されました。
私を人質にして、イワンとお父様、ランヴァルドさんを国外に追いやるつもりだったようです。イワンたちを追放した後、私は殺される……最低の計画です。
当然ですが、もう彼は二度と教員になれません。爵位も失って、牢獄で罪を償うことになります。
学長先生や魔法士団の方たちと緊急会議を開いて、生徒にどのような説明をするか取り決める。
そして全校集会をすることになりました。
まず学長先生から、『犯人たちは良家の子女を誘拐し、身代金を取ろうと目論んでいた』という、表向きの説明がされます。
反魔族勢力による国家への反逆行為なんてことが広まるのは避けようということになったのです。
「ーー以上が事件の顛末 だ。なにか質問がある者は」
学長先生が一同を見回すと、一人の生徒が挙手しました。
「はい。……あの、ワタシは寮生なのですが、昨夜生徒会の人たちが侵入者を撃退しようと対抗しているのを見ました。……その、生徒会長が、魔族の姿で……」
やっぱり、どうしたってその話に行き着きますよね。他の子も見なかったことになんてできないでしょう。わたしも見た、僕もと次々寮生の間から声があがります。
「イワン……」
「大丈夫だ」
イワンは私に微笑んで、魔法拡声器を手に登壇します。
そして、全学生が集う前で本来の姿に戻りました。
悪魔の翼、金の瞳、尖った耳。
会場内のざわめきが一気に大きくなりました。
「知らない者もいるだろうから、話そう」
イワンは自分の出生について包み隠さず話しました。
終戦の証としてルシールの先王妹とアウグストの王子が結婚したこと。
その二人の孫が自分であること。
先祖返りで、夢魔として生まれてきたこと。
生徒たちはただ静かに、イワンの話を聞いています。
「オレは祖父母のことも、父のことも誇りに思っている。この姿で生まれたのは、祖父母が生きてきた証でもある」
私に告白してくれた日、「オレは化け物だ」と自嘲したあの悲壮感はありません。
イワンは夢魔であることを誇り、まっすぐ前を向いている。
胸が熱いです。
目の奥が熱いです。
「オレが魔族の血を引いていることで生徒会長として不適格だというのなら、身を引こう。だが、こんなオレでも生徒会長として立っていていいと言ってもらえるなら、最後まで役目を果たそう」
イワンが魔法拡声器を置いて頭を下げる。
私はめいっぱい拍手をします。私以外の人も、ポツポツと拍手をしました。
小さかった拍手の音が、やがて会場全体を包み込んでいく。
イワンが生徒会長を続けていいという、生徒たちの意思表示でした。
イワンが廊下を歩けば生徒が廊下のはしに避けていく。
不安げな様子で逃げた生徒の中には、昨夜寮の窓から戦いの様子を覗いていた子もいます。
逃げるなと言う方が無理なお願いなのでしょうか。
イワンは生徒を守ろうとしていたのに。
ひとけがないところまで来てから、イワンはため息まじりに言います。
「予測はしていたが、やはり気分のいいものではないな」
「悲しいです」
「昨夜のこと、あの場にいた教師や魔法士団とも話し合って、寮生以外の生徒にもきちんと説明しないといけないな」
「はい。ちゃんと話さないと、安心して寮生活を送れないですものね」
騎士団による尋問の末、ワルター先生と志同じくした人たちはいもづる式に拘束されました。
私を人質にして、イワンとお父様、ランヴァルドさんを国外に追いやるつもりだったようです。イワンたちを追放した後、私は殺される……最低の計画です。
当然ですが、もう彼は二度と教員になれません。爵位も失って、牢獄で罪を償うことになります。
学長先生や魔法士団の方たちと緊急会議を開いて、生徒にどのような説明をするか取り決める。
そして全校集会をすることになりました。
まず学長先生から、『犯人たちは良家の子女を誘拐し、身代金を取ろうと目論んでいた』という、表向きの説明がされます。
反魔族勢力による国家への反逆行為なんてことが広まるのは避けようということになったのです。
「ーー以上が事件の
学長先生が一同を見回すと、一人の生徒が挙手しました。
「はい。……あの、ワタシは寮生なのですが、昨夜生徒会の人たちが侵入者を撃退しようと対抗しているのを見ました。……その、生徒会長が、魔族の姿で……」
やっぱり、どうしたってその話に行き着きますよね。他の子も見なかったことになんてできないでしょう。わたしも見た、僕もと次々寮生の間から声があがります。
「イワン……」
「大丈夫だ」
イワンは私に微笑んで、魔法拡声器を手に登壇します。
そして、全学生が集う前で本来の姿に戻りました。
悪魔の翼、金の瞳、尖った耳。
会場内のざわめきが一気に大きくなりました。
「知らない者もいるだろうから、話そう」
イワンは自分の出生について包み隠さず話しました。
終戦の証としてルシールの先王妹とアウグストの王子が結婚したこと。
その二人の孫が自分であること。
先祖返りで、夢魔として生まれてきたこと。
生徒たちはただ静かに、イワンの話を聞いています。
「オレは祖父母のことも、父のことも誇りに思っている。この姿で生まれたのは、祖父母が生きてきた証でもある」
私に告白してくれた日、「オレは化け物だ」と自嘲したあの悲壮感はありません。
イワンは夢魔であることを誇り、まっすぐ前を向いている。
胸が熱いです。
目の奥が熱いです。
「オレが魔族の血を引いていることで生徒会長として不適格だというのなら、身を引こう。だが、こんなオレでも生徒会長として立っていていいと言ってもらえるなら、最後まで役目を果たそう」
イワンが魔法拡声器を置いて頭を下げる。
私はめいっぱい拍手をします。私以外の人も、ポツポツと拍手をしました。
小さかった拍手の音が、やがて会場全体を包み込んでいく。
イワンが生徒会長を続けていいという、生徒たちの意思表示でした。