一年生春編 運命に翻弄される春

 私達から遅れること数分、二位の班が到着しました。ミーナ様からの労いの言葉をもらって嬉しそう。

 かなりお疲れだったのか、イワン様は私を枕にしたまま眠ってしまいました。
 続々とオリエンテーションに出ていた班が帰ってきます。

 少しして手が空いたのか、セシリオ様が私たちのところに来ました。

「イワンのやつ、やっぱり保たなかったか」
「セシリオ様。イワン様の具合が良くないこと、ご存知だったのですか?」
「まあね。病気とは違うから大丈夫だと、本人が言い張るから。わたしが何度休めと言っても聞かないのに、セリスくんの言うことは聞くなんて。この強情っぱりをどう言いくるめたんだい? 今後の参考までに教えてくれないか」

 言いくるめるとはまた、たいそう失礼な表現です。引っかかるものの、さっき言ったことを説明します。

「『私は疲れていて休みたいのに、先輩が立ったままだから休めないです』と伝えたところ、休みたければ枕になるように言われまして」
「ぷっ、はははは。君は面白いね。そうか、イワンはひねくれているから逆手にとればいいわけだな。勉強になったよ」

 セシリオ様、とっても楽しげです。
 私の隣に腰を下ろしてイワン様の顔を覗き込みます。

「元気になってほしいと思うなら、イワンの手を握っているといい。午前中の授業で教えた、魔力を流すようなイメージでね。イワンが体調を崩したときは、だいたいそれで回復する」
「魔力を渡すと、回復するんです?」
「詳しい理由はイワン本人が言わない限り教えられないけれど、応急処置にはなる」

 イワン様と旧知のセシリオ様が言うのだから、本当でしょう。言われるまま、イワン様の手を両手で包みます。

 どうか元気になってください。
 イワン様の体調が良くなりますように。

 そう願って魔力を手のひらに集めると、午前中の授業のときとは違うことが起こりました。

 淡い緑の光が集まり、イワン様に降り注ぎました。
 見る間にイワン様の顔色が良くなっていく。

「治癒魔法《キュア》!? まさか、魔法士団員ならともかく、訓練したことのない一年生が使えるなんて」

 セシリオ様が声をあげました。

「治癒魔法、というのですか? 今のは?」
「自覚がないのかい」

 イワン様の瞳が開きました。
 体を起こして目を見張り、自分の体を見下ろして、私を見る。普段の、憎まれ口を叩くときの意地悪な先輩のものです。

 良かった、元気になって。

 視界が明滅して、頭が痛い。
 私はひどいめまいを覚えて……意識が途切れました。



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