一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「私がいることで、イワンが危険に晒されるなんて」
「逆だ。オレのせいでお前が狙われているんだ。……絶対一人になるなよアラセリス。何をしてくるかわからない」

 イワンはそう言ってくれましたが、私とつがいになったことはイワンの弱点にもなってしまっていた。
 私のせいで、大好きな人の命が終わるかもしれない。
 こんなに恐ろしいことはありません。

「ワルターの計画、なんとしてでも阻止しないといけないわね。アタシもセリスさんを守るわ!」
「ああ。こんな身勝手なこと、許しておけるわけがない。わたしも協力するよ」

 セシリオ様とミーナ様も神妙な顔になります。

「今夜ワルターの会合に主様とエルネスト、魔法士団長が乗り込む。首謀者が捕まれば下っ端は何もできなくなるハズ。イワンはアラセリスの身を守れ。我はこのことを主様に伝えてくる」

 カイムが一声鳴いて、窓から飛び出しました。

「任せたぞ、カイム」
「このあたりの鳥たちに、不審な様子があるならイワンに伝えるよう言ってある。使い魔を出しておけ」
「わかった」

 イワンはしーちゃんを喚び出して飛ばしました。
 何かあれば鳥たちを介して、しーちゃんが危険を知らせてくれます。


 私は足が震えて、その場にへたり込んでしまいました。さっと、イワンが体を支えてくれます。

「アラセリスさん。不安だと思うけれど、わたしもそばにいるから、気を確かに」
「そうだぜセリス。俺の親父も出動するなら絶対、悪い奴らを捕まえられる。だから安心しろ」

 クララさんとローレンツくんの気遣いがあたたかいです。でも、不安を完全に払拭することはできないです。

 だって、私のせいでイワンの命が終わってしまうかもしれない。
 自分が死ぬことより、そのことが何より怖い。
 涙が止まらないです。

「学院の外に出ないほうがいいな。学院内は部外者侵入禁止だから、警備もいる。生徒会の仕事で泊まる、という手続きを取っておこう」
「それならアタシが申請を出してくるわ。セリスさんは今すぐ女子寮に行って」

 学院内の女子寮はとくに警備が厳重です。新入生歓迎パーティーの準備でそうしたように、来賓用の部屋を借りることになりました。

「すぐ駆けつけられるよう、オレも男子寮の来賓室を借りるから」
「……はい」

 イワンの言葉にうなずきます。

「わたし、お母さんにこのことを話してくるわ。先生方の協力も得ましょう」
「俺も行く。他の教師も話を聞いてくれるかもしれないから、話せるだけ話してまわろう」
「……ありがとう、クララさん、ローレンツくん」

 クララさんとローレンツくんがさっそうと生徒会室を出ていきました。

「手続きが終わるまでふたりはここにいるといい。書類だの面倒ごとはわたしたちが引き受ける。イワンもセリスくんも、身の安全だけを考えなさい」
「恩に着る」

 もしものときのため、何度も何度も、頭の中で詠唱の反復練習をします。襲撃が来てもすぐ反撃できるように。

 学院の警備を突破して侵入してくる可能性も捨てきれませんから。

 みんなが私たちのためにここまで尽力してくれているのです。
 怖いけど、私も守られているだけでなく、自分にできる全力を尽くしましょう。

 負けるわけにはいきません。


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