一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 二の月。
 ついに学年末テストが終了しました。

 実技も筆記も全力を出し切ったので自信があります。
 先生の手でテスト用紙が回収されて、大きく伸びをします。

「ふー。これでもう一年生のテストはおしまいなんですね」
「セリスさんお疲れ様。ここ最近ずっとイワンさんと一緒に図書室につめてたものね」
「ほんと。お前ら、鬼気迫るもんがあったぞ」

 クララさんとローレンツくんがねぎらってくれます。

「あはは。やっぱり心配させちゃってましたね。お父様にも叱られました。勉強し過ぎだからちゃんと休みなさいって」
「勉強し過ぎで叱られるなんて俺には一生縁がない話だな。勉強しろって親父にケツ叩かれてばっかりだぜ。ハッハッハ」

 胸を張ることじゃないですよー。
 ケラケラ笑うローレンツくん。クララさんもそんなローレンツくんを見上げて、なんだか楽しそうです。


 そんなふうにのんびり話していると、イワンが珍しく切羽詰まった様子で教室に入ってきました。

「アラセリス! ああよかった。まだここにいたな」
「ど、どうしたんですかイワン。そんなに慌てて」

 落ち着かない様子のイワンは、血相変えて、という表現が合っています。
 イワンの肩にはしーちゃんではない鳥の使い魔がとまっています。

「あれ、その子はたしか、ランヴァルドさんの?」
「ああ。祖父さんの使い魔、カイムだ」

 カイムは鳥なのに、威圧感があるというか堂々とした雰囲気です。同じ鳥の使い魔でもしーちゃんとはだいぶ違います。

「ローレンツとクララもいたか。ちょうどよかった。生徒会室に来てくれ。途中セシリオとギジェルミーナも呼ぼう」
「どうしたんです」
「生徒会室で話す」

 みんなで話さないといけないような重大な話があるようです。
 ローレンツくんとクララさんも不思議そうにしながらも、イワンの緊迫した様子を見て深くうなずきました。

 久しぶりに生徒会室に旧生徒会メンバーが全員集合しました。

「引退したわたしたちを呼ぶなんて、よほどのことだね。何があったんだい」
「わたくしたちにも関係ある話?」

 答えたのはイワンではなく、カイムでした。

「グラーナトムが反魔族活動の計画を立てていることは知っているか。イワンが生徒会長を担うことや、セシリオ殿下たちのやっている、アウグストとルシールの国際交流が許せないらしい。敵と仲良くする王など要らぬとな」
「ワルター先生が、そんなことを?」

 セシリオ様は驚きの声をあげました。
 にわかには信じがたい、そう顔に出ています。

「今夜、グラーナトムの経営する酒場で集会がある。昨日までの情報はここまでだったんだが、ついさっき新たな情報を得た」

 言いながら、カイムが私のほうに向きます。

「魂が繋がっているから、つがい・・・を始末すれば必然的に片割れも死ぬ。非力なつがいの方をつかまえればいい、とグラーナトムの仲間が言い出した。学院の外に出たが最後、馬車が襲われてアラセリスは連れ去られ、殺される」

 
 集まっていた全員が、息をのみました。

 私とイワンはつがい・・・
 魂を分け合っているので、寿命はお互いの寿命を足して二で割った状態。そして死ぬのは同じ瞬間です。
 つまり天寿を迎えずとも、片方が死ねば必然的につがいも死にます。

 つがいの性質を逆手にとって、イワンを殺すために私を殺そうということですか。

 攻撃魔法に長けたイワンはすごく強いから、無力な私を狙う。
 理にかなってはいますが、怖気がはしります。
 ワルター先生は魔族が嫌いだからって、そこまでするんですか。

 悲しいのと、悔しいのと、やるせなさで胸がつまりました。



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