一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 ラウレール邸の離れで両親と話していると、開けた窓から黒みがかった鳥が入ってきた。
 父上の使い魔、カイムだ。
 鳥と人、二つの姿を持つ悪魔の一種。あらゆる生き物の言語を理解する特殊能力を持っている。

 カイムは父上の前に降りて頭を垂れた。

「主様。反魔族の集会は明日の夜、グラーナトムの管理する酒場で行われるそうです」
「報告ご苦労。他に気づいたことは」
御令孫ごれいそんとその妻君に何やら嫌がらせをしているようです。廊下で足を引っ掛けるような、物的証拠が残らないようなことばかり」

 自分よりはるかに年若い子どもたち相手に恥ずかしくないのだろうか。仮にも公爵家の当主がすることじゃない。
 父上への報告を聞きながら、怒りと呆れが同時に胸の中にわいてきた。

 もともと嫌な教師だったが、今もそんな人間だったなんて。
 母上は頬に手を添えて首をかしげる。

「ワタクシの記憶が正しければ、グラーナトムはエルネストが学院生だったときの担任教師ではなくて? あんな人がまだ教師をしていられるなんて、魔法学院はよほど教員が足りていないのかしら……」
「ええ。母上の記憶どおりですよ。彼はわたしの担任だった。わたしが半魔なのが気に入らないのか、授業中ほぼ無視だった」

 ああいう大人にだけはなるまいと、反面教師にしていた。
 

 セシリオ殿下をはじめ、若者たちが新しい時代を築こうとしているのに、老人たちは「魔族なんか受け入れてなるものか」とそれを阻害しようとする。

 わたしたちの敵は魔族ではなく、若者の道を断とうとする老いた人間だ。

 イワンたちの望む、種族の隔てがない国になることはわたしの望むことでもある。

 ならやることはひとつ。

 大人にしかできないやり方で、ワルターたち反対派を止めないといけない。

「明日、ちょっとテオパルド殿を誘って飲みに行ってみようか。なんだか急に外で酒を飲みたい気分になってきた」
「それは良いな。ーーカイム。ロッサ邸に飛んでくれ。テオパルド・ロッサにエルネストの話を伝えるんだ」
御意ぎょい

 わたしの使い魔はウサギだから、あまり伝令向きではない。
 だから父上はわたしがなにか言う前にカイムに指示を出す。

 三〇分も待たないうちに、カイムがテオパルド殿の返事を聞いて戻ってきた。

「『承知した。日没後、店の近くで落ち合おう』ーーとのことです」
「ありがとうカイム。助かった」
 
 テオパルド殿が話のわかる人で良かった。彼もまた新しい時代の風を望む者。

 きっと明日、何かつかめるはずだ。
 

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