一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 ミーナ様とセシリオ様が引退して、新生・生徒会として動きはじめました。

 ローレンツくんとクララさんは外回りのお仕事中なので、いま生徒会室には私とイワン二人だけです。

 生徒会長の席にイワンがいるのって新鮮。
 家にいるときと学院にいるときではもちろん違う顔をしているのですが、生徒会長のイワンはなんだかこう、悔しいくらいかっこいいです。

 ペンの動く音と紙をめくる音だけが生徒会室に響いています。

「なんだ、アラセリス。何か言いたいことでもあるのか?」

 書類に落とされていた視線が私に向きました。

「な、なんでもないです」

 見惚れていましたなんて言えやしません。絶対からかわれるってわかってますから。言わなくても察したみたいで、おでこに口づけされました。

 うう、ここ生徒会室なのに。
 顔が熱くなるのをごまかすために別のことを口にします。

「ええと、役員の引き継ぎも済んで、あと三ヶ月もしたら新入生がくるでしょう? 私が先輩になるなんて不思議な気分だなって思って」
「後輩ができたとしても、アラセリスは新入生に先輩と思われなさそうだな」
「んんー、私が先輩らしくないって意味です?」

 褒められているのか貶されているのか判断しかねるところ。イワンは私の頭を撫でながら、目を細めます。
 作りものでないイワンのこの顔は貴重です。
 とっても優しくて、心があたたかくなるから好きです。

「アラセリスの性格上、偉ぶって先輩風吹かせたりしないだろう。だから先輩というより、友だちと見られそうだ」
「たしかに、私は先輩様だぞーって言うガラじゃないです。なるならミーナ様みたいな頼れるお姉様になりたいです」

 私の救世主で憧れのお姉様ミーナ様。
 きれいだし、頼りになるし、堂々としてるし、私にとっての目標ですよ。

「…………ああ、うん。なれるといいな」
「その目は、私がミーナ様みたいになるのは無理って言ってますね」

 遠い目で言われました。
 私にだってひとかけらくらい素質はあると思うんですよ。
 ひどくないですか。

「ギジェルミーナを目標にするのは自由だが、人には向き不向きってものがある。オレがセシリオやローレンツのようになれないのと同じだ」
「なるほど」
「この例えで納得すんな」

 ほっぺたつねるの禁止です。
 
 イワンはあの二人のようにはならないし、なる気もないでしょう。それに、ミーナ様のような生徒会長にもならないでしょう。

「アラセリスはアラセリスなりの形で副会長になればいい。オレはオレなりに生徒会長をやるから」
「もちろん。イワンの補佐をするのは私の特権です」

 生徒会でもプライベートでも、パートナー。
 なんだか恥ずかしいけど、誇らしくもあります。

「来週からテスト期間に入るから、今の段階でできることを片付けておくぞ、副会長」
「はい、会長」

 イワンに答え、書類の整理を再開しました。



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