一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 お茶会当日。

 お茶会の会場にはほんとうに魔族の方もいらしてました。
 お茶を運んでくるメイドさんがやや固い表情をしています。
 王子であるセシリオ様がいるから、貴賓相手だから、というだけではないのでしょう。
 


 アウグストからは獣人族の方、小人族の方、そしてヴォルフラムくんがきました。
 ルシールの参加者はプリシラさんと、プリシラさんのお友だち、生徒会メンバー。

 今回来訪した方たちは人と同じ食事もとることができるそうです。
 魔族といっても何を食事としているかは種族によって異なるそうです。
 生気を食べる夢魔は、魔族の中でも特殊な食事なんだとか。


 みんなでひととおり自己紹介を終えたあと、私とイワンに話がふられます。
 小人族の青年、ジルさんが真っ先に口を開きました。
 
「ルシールにはランヴァルド王子以外にも魔族と人のつがいがいるのか。魂の色が同じだし、疑いようもないね」
「はい。先日結婚しました」
「ふふふ。君のように魔族に偏見を持たない人がいるなら、ルシールの未来は明るいかもしれないね」

 私はクラスの中でも背が低いほうなんですが、ジルさんは私よりもっと小柄です。
 八〇センチあるかどうか。それでも小人族の中では背が高い方らしいです。

「人と魔族がつがいになること、アウグストでは珍しくないのかな」
「珍しいですよ。純血の人間が少ないから、というのが大きな理由だけど。わたくしのつがいも、祖父が人間なんです」

 セシリオ様の質問に答えたのは、獣人族の女性ザシャさんです。見た目二足歩行の猫さんですが、ちゃんと服をお召しです。アウグストの民族服。

「アウグストでは異種族との結婚は当たり前にあるから、純血種の人間が九割以上を占めていることを聞いて驚きます」
「そうだヨ。だからぼくは魔法学院に留学したトキすごくびっくりシタネ」

 ヴォルフラムくんも話に加わって、あまり口を開かなかったプリシラさんのお友だちも身を乗り出します。

「まぁ! そんなに違うんですか。アウグストはもっと人間が少ないんですね。祖国と違う環境での勉学は大変でしたでしょう?」
「それでもすぐ馴染めたのはローレンツのおかげダネ。いつもかまってくれたカラ」
「ハッハッハ。そう褒めるなよ」

 頭をかくローレンツくん、まんざらでもなさそうです。
 プリシラさんはザシャさんに興味津々。

「ザシャ様、あなたの着ている衣服はどこの都市のものでしょうか。とても素敵なデザインなのでぜひうちで取り扱いた……」
「こらこらリシィ、今日は商売の話は無しって約束しただろう」
「ああ、つい。だって本当に刺繍が繊細で職人の技が光っているから」
「まあ。褒めていただけて嬉しいですわ。わたくしの妹が服飾の職人をしておりまして、いつも妹に仕立ててもらっているんです」
「なんて素晴らしいんだ。ぜひ妹様と連絡を取りたい」


 みんな機会がなかっただけで、お互いの国へ興味があったんですね。
 元戦争相手国ということで恐れを持つ人も少なからずいますが、こうして交流を持つことを望む人もいる。

 こうして一歩一歩の数を重ねて、種族関係なく当たり前にはなしあえる日がいつかきっとくる。



 帰りの馬車の中で、イワンもいつもより饒舌でした。

「小人族さんはほんとにすごく小さなお方なんですね。おうちが小さいのも納得です」
「ジルか。あの人はアレでもオレたちの親より年上だ」
「なんと! やはりランヴァルドさんのように人間の同年代よりお若いんですね」

 見た目年齢は私たちとそう変わらないですが、あくまでも人間基準の見た目で考えた場合の年齢でしかありません。
 見た目の他にも、人間の基準でははかれないことがたくさんあるでしょう。
 いろんな種族の方と交流する必要性を改めて感じました。



ツギクルバナーimage
24/37ページ