一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「ただいま戻りましたー!!」

 三泊四日の新婚旅行を終えて、ラウレール邸に帰宅しました。

「おかえりなさいませ、イワン様、アラセリス様」
「おかえりをお待ちしておりました」

 使用人の皆さんが出迎えてくれます。
 ルビーさんが私のカバンを受け取りながら笑います。

「マリオが寂しがっておりましたよ。美味しそうに食べてくれる人がいないと張り合いがないって」
「えへへ。私もおうちのご飯が恋しかったですよー」

 ラウレール邸の料理人マリオさん、私がお嫁に来るまではお父様と使用人の食事を作っていました。

 お父様が仕事で遠方に出向かれているときや会食のときは料理を提供できないわけで。
 やはり料理人としては、主人に料理を振る舞う機会が少ないのは寂しいようです。

 厨房着のままお迎えに出てきたマリオさんは、恰幅のいい体をゆらしてむせび泣いています。

「おおお、このマリオ、料理を待ち望んでいただけることは至上の喜びでございます。今晩はアラセリス様の好きなものを作りますからね!」

 お料理がすごく美味しいんですが、リアクションがやたら大きいというか、感動屋さんなんですよね。

「……くそ。オレは料理ができないからな。こればかりは勝てない」
「戦わなくていいですよイワン」

 横でイワンが拳を固めています。こんなことまで張り合わなくていいのに。

 お父様とディアナ先生、ランヴァルドさんにもお出迎えしてもらえて、とても賑やかな帰宅となりました。


「たった数日なのに手紙が溜まっているな」

 部屋に戻ると、イワンは仕事用の机を前に肩をすくめます。こんもり盛られた封書の山。

 一番上にある、とくに豪華な封書を裏返して目を見張りました。

「セシリオからだ」

 ペーパーナイフで丁寧に封を切って、ざっと目を通すと、私にそのまま押し付けて来ました。

「私も読んでいいんですか?」
「ああ。お前にも関係あることだからな」

 それは、セシリオ様とプリシラさんが主催するお茶会のお知らせでした。
 アウグストからも、人間に対して友好的なひとを数名招いての交流会。
 日付は今日から三日後、冬休み最終日です。

 私たちがセシリオ様にお願いしたことの、小さな第一歩ということですね。

 いいだしっぺの法則ということで、私たちも参加厳守と書かれています。

「楽しみですね。どんな方がいらっしゃるのでしょう」
「さあな。簡単な茶会だからドレスでなくていいとは書いてあるが、来るのは貴族ばかりだ。祖母さんからしっかり茶会のマナーを学んどけ」
「はい!」

 アウグストの方と仲良くなるための一歩。がんばりましょう!



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