一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「まったくもう、おじさんたち調子に乗りすぎです!」
「そう言うな。会う機会が減ったから寂しかったんだろう」

 雪ノ下カボチャに包丁を入れながら、イワンが口の端をあげます。私がやっても包丁が抜けなくなるだけなのに、軽々真っ二つにしちゃう。やっぱり男の人なんですね。

 今回は半分だけ使います。残り半分は後日使ってもらいましょう。
 切り分けたカボチャを煮込んで、すりつぶして、お母さんが食べやすいようポタージュスープにします。
 実はポタージュはお母さんの得意料理なんです。

 普段私もごはんを作るのを手伝っていたので、味付けを覚えています。
 覚えてはいても完全にお母さんの味を再現できないのが悔しいです。

 海ヒツジのミルクとルシール海の塩、それから少しの香草。
 小皿にとって味見をしたら、私の中での合格点です。

「できました!」

 イワンが意外そうな顔で拍手します。

「料理できるんだな」
「失礼な。すごく美味しくできましたよ」

 ラウレール邸には料理人マリオさんがいるから、私が料理する機会がないだけです。
 それに、一番食べてほしいイワンは食事の味を感じないから。
 私が料理を用意しても迷惑になるだけかな、なんて。

「ふぅん」

 ふいに、イワンが小皿を持っていた私の左手を捉えて、皿にちょっとだけ残っていたスープを舐めました。

「な、なにしてるんです?」
「いや、オレにも人の味覚があればよかったのにな、と思っただけだ。人間なら、嫁の手料理ってやつを喜ぶんだろう」

 私がイワンの味覚を知りたいと思うように、イワンも私の味覚を知りたいと、思ってくれているんですね。
 同じ味を感じてみたいって。

「じゃあ、こうすれば少しは味を感じるでしょうか」

 また小皿にスープをとって、自分の口に含んでイワンに口移しします。
 魔力と一緒に渡せば、味がわかるかな、なんて。

 イワンは目を丸くして、それからふわりと笑いました。

「……うまいな」
「えへへ。自信作だから嬉しいです」


 お母さんにカボチャのスープを持っていったら、とっても喜んでくれました。多めに作ったから、レネが帰ってきたあとおかわりしても大丈夫。

 夕方にはお母さんの熱は下がって、起きていられるくらいになりました。


 商店街のみんなから精のつくアレコレをプレゼントされた話に大笑いしてくれちゃって。
「せっかくのご厚意なんだから持って帰りなさい」って押し付けられました。

 あ、うん。これは絶対、お屋敷でも何か言われるやつですよね。



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