一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 冬休みに入りました。
 私は実家に帰省しています。
 イワンと喧嘩したわけではありません。

 お母さんが風邪を引いたので、看病に来ているのです。

「本当に任せちゃっていいの、姉さん」
「いいのいいの。姉さんに任せなさい。レネは学校があるんだから、ちゃんと勉強して。成績不足で進学できなかったなんてことになったら怒るからね!」

 魔法学院と他の学校では休みに入る日程が異なります。
 レネの学校が休みになるのは来週からなのです。
 はじめ、レネが学校を休んで看病すると言っていたのですが、私はそれを良しとしません。
 高等学校の受験を控えた時期に休むと勉強についていけなくなりますからね。

「……うん。ありがとう。行ってきます」

 心配性な弟を送り出してキッチンに立ちます。
 鍋に海ヒツジのミルクを注ぎます。ちぎったパンを入れて、煮崩す。はちみつを少し加えたら出来上がりです。

「お母さん、ミルクがゆできたよ。食べられそう?」
「ありがとうセリス。いただくわ」

 お母さんの部屋に運ぶと、お母さんはベッドから上半身を起こします。
 テーブルにはお医者様から処方されたカモミールを配合したお茶の袋。食後はこれを淹れます。

「風邪にも治癒魔法が効けば良かったんだけど、私の場合怪我を治すのに特化しているみたいで」
「気にしないで、セリス。それができてしまったら、なんでも魔法だよりになってしまうじゃない。わたしは今のままでじゅうぶん」

 ああ、私はいつの間にか、魔法を使うことに慣れてしまっていたんですね。
 学院ではまわりのみんな魔法を使えるから。
 魔法を使えるのは当たり前ではない。初心を思い出しました。

「そっか。そうだよね」
「そうよ。それに、セリスがこうして看病してくれるのは嬉しいもの。すぐ治ったらもったいないじゃない」
「ふふっ。なにそれ〜」

 お母さんがおかゆを食べおえたら、ハーブティーを淹れます。

 蒸しタオルでお母さんの汗をぬぐって、着替えたパジャマはお洗濯します。
 外は雪が降っているから、部屋干ししかないのが残念。夏ならちょっと外に出すだけでパリパリに乾くのに。

 食料の棚を覗いたら残りが少なかったから、買い出しもしておきましょう。

「お母さん、買い出し行ってくるね。食べたいものある?」
「そうね、果物があったら嬉しいわ」
「りょうかいです!」

 外はふくらはぎの下くらいまで雪が積もっていて、ご近所のおじさんおばさんが雪かきに精を出しています。
 スコップをかく手をとめて、野菜店のおじさんが私に手を振ります。

「アラセリスちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ! お嫁に行ったって聞いてたけど、なんだい、旦那さんと喧嘩でもしたのかい」
「してないですー! お母さんが風邪を引いたから看病にきたんです!」
「そうか、偉いねぇ。ならうちの雪の下カボチャ買っていきな! 風邪に効くよ」
「買いましょう! あ、でも私、力がないからカボチャ切れないです」

 雪ノ下カボチャは美味しいけど、すごくすごーく、皮が固いんです。男の人の力でないと切れないんですよね。

「ならオレが切ろうか」
「へ?」

 私の背後から声が聞こえて、慣れ親しんだ香りがします。

「仕事が早めに片付いたから、手伝いに来た」
「イワン、ありがとう」

 イワンが笑って、買い物かごを持ってくれます。

「あんたがアラセリスちゃんの旦那さんか。色男じゃないか。やるねぇアラセリスちゃん、このこの!」
「いい男捕まえたな!」
「痛いです〜!」

 雑貨屋のおばちゃんと花屋のおじちゃんに小突かれます。

「新婚さんなら精のつくものも食いな! 旦那さんこれやる! 俺からの結婚祝いだ!」
「うちからもこれを!」

 スッポンだのガーリックだの、トロイモだのプレゼントされました。

 夢魔、またの名を性魔。こういう贈り物がなくてもじゅうぶん精力ありますから。これ以上イワンに精をつけないでください、私の体が持ちません。

 買い物に来ただけなのに、ご近所のおばちゃんたちから馴れ初めを聞かれプロポーズの言葉を聞かれ、もみくちゃにされました。



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