一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)
ローレンツくんとプリシラさんのケンカ、というトラブルはあったものの、なんとか星夜祭パーティーが始まりました。
開会の挨拶を終えたミーナ様が、ウィルフレドさんと一緒に私とイワンのところに来ました。
寄り添って歩く姿はとてもお似合いです。
「ミーナ様、ウィルフレドさん、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。その節は、あなたとイワンにも迷惑をかけたようで申し訳ない」
ウイルフレドさんは照れながら、ぎこちないお辞儀をします。そんなウィルフレドさんを見て、ミーナ様はクスクス笑います。
「次の春、卒業式が終わったら結婚式を行う予定なの。セリスさんとイワンも招待するから、ぜひいらしてね」
「祝辞だけ送るから、オレのことは呼ばないでくれ」
イワンが顔をしかめます。食事の席、苦手ですものね。友人の結婚式であっても遠慮したいようです。こればかりは仕方ありません。
「イワンが行けないなら、しーちゃんを連れていきましょう」
「オレの使い魔に変な名前をつけるなと言っただろう」
「かわいいじゃないですか。白いからしーちゃん」
「安直すぎる」
かわいい名前だと思うのに。
ウィルフレドさんが口元に手を当てて笑います。
「イワンはトゲが取れて柔らかくなったな。作り笑いでなく、ちゃんと笑っているように見える。アラセリスさんのおかげか」
「は?」
眉をひそめるイワンに、ウィルフレドさんは言います。
「表面の笑顔を取りつくろっていただけで、腹のうちは笑ってなかっただろう。人が嫌いだって、顔に書いてあった」
たしかに、私と出会ってすぐの頃のイワンは優等生の仮面をかぶっていました。化けの皮、すぐ剥がれちゃいましたけど。
「アラセリス、いま失礼なこと考えたろ」
「なぜバレたのれふか」
ほっぺたつねるの禁止です。
楽団の演奏が始まって、みんながパートナーと一緒にホールの中央に出ました。
セシリオ様はプリシラさんを優雅にエスコートして。
ローレンツくんは、凍りついたみたいにカチコチぎこちない動きでクララさんの手を取っています。
ミーナ様はウィルフレドさんを見上げて、微笑む。
そして私も、練習の成果を見せるときです。
イワンに体を寄せて手を取り、音楽とイワンのリードに合わせて踏み出します。
初めて一緒に踊ったのもこの会場でしたね。
いがみ合ってばかりだった春の日が遠い昔のようです。
あのときよりずっと、イワンのことを好きになっている。
イワンのつがいとして踊れることが幸せで、胸の奥が熱いです。
一曲終わってイワンが感嘆の声をあげました。
「本当に、すごくうまくなったな」
「そうでしょうそうでしょう。もっと褒めてください。ディアナ先生とランヴァルドさん指導のもと、休日返上で練習しましたから」
「祖父さんと祖母さんの教えだと思うと微妙な気持ちになる……」
「何言ってるんですか、もう」
ディアナ先生の教育係は冬の間だけで、終わったらまた領地に戻るという話なので、今のうちにたくさん教えてもらうんですよ。勉強のあいまにイワンの幼少期の話を聞くのもとても楽しいです。
ダンスの後は中庭に出て、流星群にお祈りをします。
今日はよく晴れているから、雲一つないです。空気も澄んでいて絶好の天体観測日和。
イワンに後ろから抱きしめられて、背中が温かい。二人でくっついて空を見上げます。
「イワン。ほら、流れ星が。お祈りしないと」
「オレは特に願うことがないからな。アラセリスの願い事があるならそれを祈っておく」
「いいんですか、それで」
「ああ。一番の願いはもう叶っているから」
後ろからお腹に回された手に力がこもります。
一番の願いがなんだったのか、察してしまって、顔が熱くなります。
左手を空にかざすと、星と同じ色の石が輝きます。その手にイワンの手も重なりました。
「えへへ。じゃあ、私の願い事が叶うよう祈ってください」
「二人分あれば叶えてもらえるだろ」
イワンが目を細めて笑い、唇を重ねます。
ずっとずっと、こうして手を取り合って生きたいです。
学院を卒業したあとは子どもが産まれて、二人でなく三人、四人で手を繋ぐでしょう。
イワンと子どもたちが作りものでなく、本当の笑顔でいられる未来を願っています。
開会の挨拶を終えたミーナ様が、ウィルフレドさんと一緒に私とイワンのところに来ました。
寄り添って歩く姿はとてもお似合いです。
「ミーナ様、ウィルフレドさん、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。その節は、あなたとイワンにも迷惑をかけたようで申し訳ない」
ウイルフレドさんは照れながら、ぎこちないお辞儀をします。そんなウィルフレドさんを見て、ミーナ様はクスクス笑います。
「次の春、卒業式が終わったら結婚式を行う予定なの。セリスさんとイワンも招待するから、ぜひいらしてね」
「祝辞だけ送るから、オレのことは呼ばないでくれ」
イワンが顔をしかめます。食事の席、苦手ですものね。友人の結婚式であっても遠慮したいようです。こればかりは仕方ありません。
「イワンが行けないなら、しーちゃんを連れていきましょう」
「オレの使い魔に変な名前をつけるなと言っただろう」
「かわいいじゃないですか。白いからしーちゃん」
「安直すぎる」
かわいい名前だと思うのに。
ウィルフレドさんが口元に手を当てて笑います。
「イワンはトゲが取れて柔らかくなったな。作り笑いでなく、ちゃんと笑っているように見える。アラセリスさんのおかげか」
「は?」
眉をひそめるイワンに、ウィルフレドさんは言います。
「表面の笑顔を取りつくろっていただけで、腹のうちは笑ってなかっただろう。人が嫌いだって、顔に書いてあった」
たしかに、私と出会ってすぐの頃のイワンは優等生の仮面をかぶっていました。化けの皮、すぐ剥がれちゃいましたけど。
「アラセリス、いま失礼なこと考えたろ」
「なぜバレたのれふか」
ほっぺたつねるの禁止です。
楽団の演奏が始まって、みんながパートナーと一緒にホールの中央に出ました。
セシリオ様はプリシラさんを優雅にエスコートして。
ローレンツくんは、凍りついたみたいにカチコチぎこちない動きでクララさんの手を取っています。
ミーナ様はウィルフレドさんを見上げて、微笑む。
そして私も、練習の成果を見せるときです。
イワンに体を寄せて手を取り、音楽とイワンのリードに合わせて踏み出します。
初めて一緒に踊ったのもこの会場でしたね。
いがみ合ってばかりだった春の日が遠い昔のようです。
あのときよりずっと、イワンのことを好きになっている。
イワンのつがいとして踊れることが幸せで、胸の奥が熱いです。
一曲終わってイワンが感嘆の声をあげました。
「本当に、すごくうまくなったな」
「そうでしょうそうでしょう。もっと褒めてください。ディアナ先生とランヴァルドさん指導のもと、休日返上で練習しましたから」
「祖父さんと祖母さんの教えだと思うと微妙な気持ちになる……」
「何言ってるんですか、もう」
ディアナ先生の教育係は冬の間だけで、終わったらまた領地に戻るという話なので、今のうちにたくさん教えてもらうんですよ。勉強のあいまにイワンの幼少期の話を聞くのもとても楽しいです。
ダンスの後は中庭に出て、流星群にお祈りをします。
今日はよく晴れているから、雲一つないです。空気も澄んでいて絶好の天体観測日和。
イワンに後ろから抱きしめられて、背中が温かい。二人でくっついて空を見上げます。
「イワン。ほら、流れ星が。お祈りしないと」
「オレは特に願うことがないからな。アラセリスの願い事があるならそれを祈っておく」
「いいんですか、それで」
「ああ。一番の願いはもう叶っているから」
後ろからお腹に回された手に力がこもります。
一番の願いがなんだったのか、察してしまって、顔が熱くなります。
左手を空にかざすと、星と同じ色の石が輝きます。その手にイワンの手も重なりました。
「えへへ。じゃあ、私の願い事が叶うよう祈ってください」
「二人分あれば叶えてもらえるだろ」
イワンが目を細めて笑い、唇を重ねます。
ずっとずっと、こうして手を取り合って生きたいです。
学院を卒業したあとは子どもが産まれて、二人でなく三人、四人で手を繋ぐでしょう。
イワンと子どもたちが作りものでなく、本当の笑顔でいられる未来を願っています。