一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

「アルコン魔法学院の星夜祭にようこそ!」

 ついにパーティー当日となりました。
 私たち生徒会役員は総出でお客様のお出迎えとご案内です。
 セシリオ様は用事があるということで一足遅れでの参加です。

 事前に聞いていたとおり、生徒の親御さんや政界の方など、新入生歓迎会のときにはなかった顔ぶればかりです。
 学院警備の数も普段の三倍。
 緊張しますね。

 パーティー開始まであと一時間になる頃、セシリオ様が合流しました。 
 
「遅くなってすまない。婚約者を迎えにいっていたんだ。彼女はプリシラ。仲良くしてやってほしい」

 セシリオ様の隣にはショートヘアのお姉さんがいます。
 ヴォルフラムくんが着ていたような、艶やかな異国の民族服を着ています。
 ボーイッシュでかっこいいです。

 お姉さん……プリシラさんは破顔して右手を差し出してきます。

「お初にお目にかかる。ワタシはプリシラ。プリシラ・トゥリパン。貿易商をしているんだ」
「はじめまして、プリシラ様。アラセリス・ラウレールです」
「様、なんてつけなくていいよ。堅苦しいのは苦手なんだ」
「わかりました。では、プリシラさん。よろしくお願いします」

 私と一緒にいたイワンも、優等生モードで会釈します。

「イワン・ラウレールです。こちらのアラセリスは妻で……」
「おお! 君がアウグストに留学していた人か。ぜひ詳しい話を聞かせてもらいたいな。ワタシは港町とその周辺にしか行ったことがなくて。どんな代物を買えるんだい。装飾品以外にも雑貨も買い付けたくてーー」

 プリシラさんがものすごい勢いでまくし立てます。

「い、いや。学業に専念していたから、私的な買い物はとくにしなかったんだ。話せることはなにも」

 イワンが優等生モードのまま、口の端をひくつかせて三歩後ずさりました。ここまで引いているイワンも珍しいです。

「リシィ、仕事熱心なのはいいことだが、そこまでにしてやってくれないかい。イワンが困惑しているから」
「ああ、仕事のことになるとつい熱くなってしまう。イワンさん、気を悪くしないで欲しい。悪気があったわけじゃないんだ。ワタシの家はアウグストの物を売買しているから……」

 プリシラさん、明るくて面白い人ですし、アウグストのこと楽しそうに話すし。
 いいお友達になれそうです。

「プリシラさんのお召し物もアウグストの服ですよね。うちのクラスにきた交換留学生さんも同じようなデザインの服を着ていました」
「へぇ! アルコン学院はアウグストと交換留学をしたと聞いていたが、君のクラスだったのか。その留学生に会えるなら、街の様子やオススメの商店を聞いてみたかったな」

 うん、根っからの商売人ですね。
 すぐに話がアウグストの街や店の様子に行き着いちゃうのは、職業病というやつでしょう。

「ほら、話はそこまでにしてくれ。リシィ。わたしは生徒会の仕事をしないといけないんだ。先に会場で待っていてくれないか」
「セシリオ様。ワタシはただじっと待つのは性に合わないんだ。忙しいなら手伝うよ」

 なんと、プリシラさんはお客様の立場でありながら、私たちの手伝いを申し出てくれました。
 かっこいいです。

「気持ちは嬉しいけれど、リシィはここに初めて来ただろう」
「たしかに案内はできないが、それ以外の仕事ならできるものがあるだろう」
 
 なんでもいいから手伝う、そう言ってくれるプリシラさんの熱意に、セシリオ様が折れました。

「ありがとうリシィ。なら、会場内のお客様応対を頼めるかな。あちらには生徒会長と庶務二人がいるから、細かい仕事内容はそちらで聞いてほしい」
「ああ、任されたよ、セシリオ様」

 頼もしく頷いて走り出すプリシラさん。

 セシリオ様が婚約を決めるだけはあります。片方が寄りかかるのでなく、お互い支えあっているんですね。素敵です。
 なんて、しみじみ思っていたのですが……。



 このあとパーティー会場でプリシラさんとローレンツくんがケンカして、ローレンツくんのお父さんの雷(雷魔法でなくお説教)が落ちました。
 昔ケンカして以来因縁の仲だとは聞いていたのですが、十年経っても仲が悪いまんまだったんですか。



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