一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 朝、私たちが馬車から降りるとすぐ、校門前にいたミーナ様がかけよってきました。私の手を取って飛び跳ねます。

「聞いて、セリスさん! ウィルとの婚約が決まったの!」
「わぁ! おめでとうございますミーナ様!」

 いつも淑女らしくあるミーナ様ですが、あいさつをすっ飛ばすくらい嬉しかったようです。
 イワンの視線に気づくと背筋を正して、うやうやしくおじぎをします。

「コホン。ごきげんようセリスさん、イワン。ごめんなさい、真っ先に伝えようと思っていたものだから、つい」
「その様子を見ると、ウィルフレドは昨夜のうちに会いに行ったんだな」
「どういうこと?」

 首を傾げるミーナ様に、イワンはかいつまんで説明します。
 昨夜、イワンは王城に赴いてウィルフレドさんにミーナ様の婚約打診の話をした。いつまでも返事が来ないから落ち込んでいることも。そばで話を聞いていたセシリオ様が激怒して「はっきりさせろ」とウィルフレドさんを殴り飛ばした。

 経緯を聞いて、ミーナ様はもう一度頭を下げます。

「イワンも協力してくれたのね。……あなた達には感謝してもしきれないわ」
「忠告しておくが、間違ってもセシリオに謝罪や礼を言うなよ。あいつがいたたまれなくなるだけだ」
「忠告ありがとう。普通に接するように努めるわ」

 ミーナ様は深く頷いて、踵を返しました。


 放課後、生徒会役員の集まりがあります。
 ローレンツくんとクララさんも、ミーナ様の婚約が決まったことを知って祝福します。

 みんなの祝福ムードを横目に、セシリオ様がポツリと呟きました。

「わたしも反発するのはこれまでにして、父上の紹介する人に会ってみようかな」
「お、セシリオもついに婚約話がまとまりそうなのか? 学院の生徒か?」
「まだ決まったわけでないよ。その子は魔法士でもない。貿易商をしている男爵の令嬢と会ってみないかと言われているんだ。アウグストと唯一交易している商家だから、その子を妻に迎えるメリットが大きいんだ」

 ローレンツくんが興味を示して、根掘り葉掘り聞き出そうとします。
 セシリオ様もまだ会ったことがなくて、事前に渡された写真とプロフィールでしかその子を知らないそうです。

「アウグストと交易している商家なら、トゥリパン家ですね。プリシラさんはとても楽しい方ですよ。父の学校に用があってお邪魔したとき、お話したことがあります」

 クララさんお父様は、貴族が通う学校で教鞭をとっているそうです。
 プリシラさんはお父様の担当しているクラスの教え子なんだとか。

「クララくんがそう言うのなら、いいお嬢さんなんだろうね」
「はい。プリシラさんはセシリオ様ととても気が合うのではないかと思います」

 クララさんがべた褒めする一方で、ローレンツくんが正反対のことを言い出しました。

「え、プリシラってあのプリシラ!? やめとけってセシリオ。俺あいつ苦手。ガキのとき港で遊んでいたら殴られたもん」
 
 話すと楽しくて、セシリオ様と気が合いそうで、男の子を殴り飛ばす。

 プリシラさん、どんな人なんですか。


ツギクルバナー
image
10/37ページ