一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 翌日の昼休憩。
 今日の日替わりスープを飲んでいると、向かいに座るクララさんが神妙な顔で切り出しました。

「アラセリスさん。デートって何をすればいいの? 何を着ていくもの?」
「デートするんですか」
「うん。次の土の日に行かないかって」

 クララさん、今日の午前中珍しく上の空だったなと思ったら、デートのこと考えてたんですね。
 食事も手につかないのか、サンドイッチは全然減っていません。

「わたし、こういうことは初めてだからわからなくて。アラセリスさんは普段、イワンさんとデートしているでしょう?」
「ええ。デートしますよ。私たちのデートってホタルを見に行ったり、紅葉刈りしたり、星を眺めたり、自然の散策なんです。参考になるでしょうか」

 実はイワンの趣味が舞台鑑賞や音楽鑑賞で、私の好みに合わせてくれているだけだったら申し訳ないです。

「あ、でも。着ていく服は、イワンがこういうの好きかなって考えて選んでます」
「そうなの?」
「はい。服を選ぶ時間も、すごく楽しいですよ」

 手持ちの服を全部並べて、鏡の前で迷っていたのをお母さんに指摘されて恥ずかしかった記憶があります。 


 今日着ているのはイワンが選んでくれたもの。
 落ち着いた色味で清楚な雰囲気。それでいて地味にならないのは、作ってくれたマダムの才能でしょう。
 こういうのが好きなんですね、と言ったらほっぺたをつねられたんですよ。ぐすん。

「どこに行くかは決まっているんですか?」
「演劇の鑑賞です。今の時期は冒険活劇をやっているんですって。聞いてみたら、脚本を書いているのがわたしの好きな作家さんらしくて」

 クララさんの頬が上気しています。舞台鑑賞、すごく好きなんですね。

「人の数だけデートの形があると思うので、クララさんたちなりの形を楽しむのが一番だと思います」
「ありがとう、アラセリスさん。そうするね」

 クララさんはようやく笑顔になって、サンドイッチに手を付けました。

「あら、デートのお話?」

 ミーナ様もこれから昼食のようです。

「お隣よろしいかしら」
「もちろんです」

 ミーナ様は空いていた私の隣に腰掛けます。
 途端に何名か男子生徒がやってきました。

「やぁギジェルミーナ。ぜひ君に星夜祭のパートナーを頼みたいんだ。我がバルテル家と繋がりを持つのは君にも益があると……」
「抜け駆けは許さんぞ男爵家の分際で! 会長。ぜひこのフェルンバッハの手を取っていただきたく」
「わたくし、これから友人と昼食をとるの。食事の邪魔をするのはやめていただけませんか」
 
 ミーナ様に睨まれ、先輩方はすごすご退散していきました。
 
「はぁ……。踊って欲しい人からは返事が来ないのに、ああいう人たちばかりよってきて嫌になってしまうわ。婚約者がいればこういう目に遭わないのに」

 心底うんざりしたようにお茶をあおるミーナ様。
 好きじゃない人に追いかけ回されても迷惑なだけですよね。
 お話を聞くことしかできませんが、少しでもミーナ様の心の負担が軽くなることを願うばかりです。


 

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