一年生冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩(終章)

 今夜からマナー講師が来る予定です。

 学院からの帰りの馬車の中、どんな怖い人がくるのかと考えるだけで手足がガクガク震えます。

「ははは。そこまで怯えなくてもいいだろう」
「でで、で、でも、私、庶民暮らししてましたから、マナーの先生から見たら至らないところだらけで怒られるのでは。それに、すごく怖いおじさんだったらどうしましょう」
「変なことを気にするよな、お前は。最初うちにくるときも、品のあるお土産持たなきゃいけませんか、なんて言ってたし」
「わー! わー! そのことは忘れてください」

 あのときは本当にお高いお土産持っていかなきゃだめだと思ってたんです。自分でも思い返すと恥ずかしいです。

「まあ、お前は講師と絶対うまくやれるから、自信を持て」
「あ、ありがとうございます。イワンがそう言ってくれるんですもの。精一杯努力します」



 ラウレール邸に帰ると、使用人のみなさんが出迎えてくれます。

「先生はもうお見えになっていますので、リビングにどうぞ」

 ルビーさんが私のカバンを受け取って、リビングに手のひらを向けます。
 もう来ているなら会うしかありません。女は度胸、気合いです。

 大きく深呼吸して、イワンのあとについてリビングに入ります。


「ごきげんようセリスちゃん。ワタクシ、本日からあなたのマナー講師を務めることになりましたの」
「でぃ、ディアナちゃん!? 先生って、ディアナちゃんのことですか!」

 ちらりと隣に目を向けると、「講師の名前を聞かれなかったから、答えなかっただけだ」と嫌味たっぷりの笑顔が返されました。
 あの講師とならうまくやれるって、そういう意味ですか!
 そりゃそうですよね、家族ですから!

「冬の間、ワタクシとランが離れに住んで貴族のなんたるかを教えるわ。だから、がんばるのよ」
「は、はい、よろしくお願いします! 今日からディアナ先生と呼びます!」
「うふふ。嬉しいわ。この年になって先生と呼ばれるなんて」



 そういうわけで、夕食からさっそく食事のマナーも振る舞いを教わることになりました。

 さすがは元王室の姫、所作の一つ一つが洗練されていて目を奪われます。
 説明も丁寧です。
 ディアナ先生が先生で本当に良かった。

 私も早く先生のようになりたいです。
 所詮は庶民の付け焼き刃、なんて笑われるようではイワンにも迷惑をかけてしまいますから。

 言われなくても体が勝手に動くほど、身にしみつくくらいになるまでがんばります。




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