没落令嬢ゲルダ、スパルタ農夫の妻になる。

 荷物をまとめるため家に戻ろうとする私の手を、レオンが掴みました。

「今回のことはお前のせいじゃないだろう、ゲルダ。なんでお前が出ていくなんて話になる」
「……すべて話した上で、まだ私をゲルダと呼んでくれるの?」

 青い瞳は私をまっすぐ捉えます。

「ゲルダは俺の妻だろう。出ていけなんて思っているやつは、この村に一人もいない」

 本当に、ここにいていいんでしょうか。目頭が熱くなります。
 おばあさまが話してくれます。

「ゲルダが訳ありの身の上だってことはすぐにわかったさ。あんたの年頃で料理も洗濯もしたことないなんて、そういう身分の人間でもないとありえないと思っていたからね。でも、わからないことをなんでも聞いて、覚えようと努力するあんたを、見ていたらどうでもよくなった」
 
 おじさまもおばさまも、口を揃えて言います。

「ゲルダが来てから、レオンは昔みたいに笑うようになったんだ。親父を亡くしてからずっと暗い顔をしていたんだよ」と。

 レオンを見上げると、レオンもどこか照れ臭そうに笑います。

「ほら、な。これからもここにいていいんだ」
「……はい。ありがとう、みんな」


 それから、私はまわりの思い込みではなく、正式にレオンと結婚しました。

 村のみんなで国王に書面を送り、それがもとになってクリストフが裏で手を回してハリエラ家を没落に追い込んだことが明らかになりました。

 クリストフは貴族の位を取り上げられ、囚人に。クリストフが誇っていた、きらびやかな服を着て使用人に世話をされる生活は二度と訪れない。

 貴族位は復活して、お父様は再びハリエラの領地を運営することになり。
 仕事が落ち着いた頃会いに来てくれました。

「貴族の暮らしに戻らなくてもいいのかい、ゲルトルート」
「はい、お父様。私がいないとレオンが泣いちゃいますからね。それに、牛たちの世話をしないといけません」
「……なぜ俺が泣くと決めるんだゲルダ」

 父の前だからか、レオンはとても居心地悪そうです。

「レオンくん。娘を助けてくれてありがとう。どうかこれからもよろしく頼むよ」
「はい」

 復権のあと、父は従弟を養子にとったので、その子がハリエラ家を継ぎます。
 私とレオンの間に生まれる子は、ただの農民として生きる。
 それでいいと思います。

「あのとき私を助けてくれてありがとう、レオン。もう山道に置いていくなんて言わないでね」
「まだ根に持っているのか。嫁を山に置いてくるなんて言えるわけがないだろう……」


 領地に帰る父を見送ったあと、レオンと二人でまた牛たちの世話をします。
 牛の数が増えて、私たちの子と一緒に仕事をするようになるのは少し先の話。


 END


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