没落令嬢ゲルダ、スパルタ農夫の妻になる。

 昼の間は疲れがたまってしまったみたいでベッドの住人と化しまして、夕刻前にまた起きてレオンが作ってくれた食事を食べて牛の世話をする。

 半月もすると慣れてきました。
 洗濯もお料理も、近所のおばさまに習いながら、下手くそですができるようになりました。

 自分で働くようになって、やっと自覚できました。

 父が罪を犯したとは今でも思えない。
 けれど、万に一でも本当に罪を犯していたなら、父が多くの人に迷惑をかけたことを恥じる気持ちはもっているべきでした。
 父が不正に得たお金で、のうのうと暮らしていたことを恥じるべきでした。

 今なら私を切り捨てたクリストフの気持ちがわかります。
 私は関係ない、私に罪はないと、言うような人間そばにおいておきたくないですよね。


 レオンと暮らすようになってもうすぐひと月。
 初めてレオンよりも早起きしました。
 お隣のおばさまに教わったとおり、たまごを焼いて、お鍋で牛乳を温めて。

 初心者にしてはうまくできたんじゃないですか。
 作った朝食をテーブルに列べて、それからそっとレオンのベッドに歩み寄ります。

 寝顔は穏やかでかっこいいです。口調は乱暴だけど。

「レオン、おはよう。起きて。朝よ」
「……ゲルダ?」

 ぼんやりしながら目をこすり、パッと我に返ったようです。

「なんで先に起きてる。雪でも降るのか!?」
「失礼すぎない?」 

 今は夏です。雪なんて降るわけありません。
 私が作った朝食も食べてくれたけれど、驚きすぎて言葉もないようでした。


 村の皆さんから新婚新婚と言われますが、私たちは本当にただの雇い主と住み込み従業員。
 それ以上でも以下でもありません。

 真面目に毎日牛の世話をするレオンを、尊敬できます。懐かれているのも愛情込めて育てているからです。
 これが雇われの身だから思うのか恋愛感情だからなのかはわかりませんが、負の想いでないのは確か。

 レオンが本当のお嫁さんをもらうときには、奥様に悪いので他に住居を探さないといけません。
 そうならないで欲しいなと思う気持ちがどこかにありました。


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