没落令嬢ゲルダ、スパルタ農夫の妻になる。

 翌朝、日が昇ってすぐレオンに布団をはぎ取られました。

「仕事だ」
「もう少し丁寧に起こしてほしいわ」
「山道で寝たいなら好きにすればいい」

 それを言われると私は言い返せなくなる。ここにおいてもらって働く以外、道はない。

「ほら、仕事の前に食っておけ」

 レオンが用意してくれたのは水とパン、そして目玉焼き。簡素な朝食をいただきます。
 
 牛舎に着いたらすぐ、レオンに言われるまま食べ残しの牧草を掃除して新しい牧草をあげる。
 その間にレオンが乳を搾る。

 蹴られないよう気をつけながら古い寝わらをとって、新しいわらを敷く。すると待っていましたとばかりに牛たちはそこで横になる。


 ようやく朝の仕事が終わって、全身の筋肉が悲鳴をあげています。
 牛舎の前で足を投げ出して座り込むと、私の横に白い犬(ジョンというらしい)が来ました。
 レオンが井戸水を入れたコップを渡してくれます。

「おつかれ」
「どうも」

 水が美味しくて泣きそうです。
 これまでの人生で、こんなに全身使って動いたことはありません。

 他の家の住人たちも起きてきました。
 気の良さそうなおじさま、おばさま、おばあさまたちです。

「おやレオン、いつの間に嫁をもらったんだね」
「嫁じゃなくて従業員。昨日拾ってきた」

 言い方。言い方がひっかかります。
 拾ったって犬猫じゃないんだから。
 何か言うと山道に置いてくると言われるから反論しません。

「ゲルダです」
「そうかい、ゲルダ。レオンはぶっきらぼうだけど根はいい子だから、いい夫になると思うよ」
「え、あの」

 ただの住み込み従業員なんですが。
 レオンが否定したのに、もう皆さんの中でレオンの嫁認定されてしまっているようです。

 ちらりとレオンを見ると、めんどくせぇと顔に書いてありました。

 それからすぐ、町からきた業者さんが牛乳を買い取っていき、レオンが小さな袋を私の手のひらに乗せます。

「今朝分の給料。食事代と住居費は引いてあるからな。服が欲しけりゃ自分で金を貯めて町で買い揃えろ」

 開けてみると銅貨が五枚。
 お給料なんて、生まれて初めてもらいました。じわじわと、胸が温かくなります。
 貴族から見たらはした金と言われるでしょう。
 でも、身一つになってしまった私には宝物に見えます。

 牛たちの糞は村の人が買い取ってくれて、畑の肥料になるそうです。
 おすそ分けでたまごと採れたて野菜をいただきました。

 農村はこんなふうにして成り立っているのですね。


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