私の本命は攻略できないバグなのでノーマルエンド目指します。
座学の後は実技教習をした。
授業風景はスチルでしか見ていないから詳しい内容はわからなかったが、思っていた以上に体力勝負だった。
走り込み200メートルと腕立て伏せ腹筋20回を1セットにして50回。これが今日の授業だった。
先生はスポーツジムのCMに起用されていそうなマッスル男性マサール。この人ゲームだとヒョロくて気弱な人だった気がするんだけど、全然違うじゃない。
「ハーッハハハハハ!!! 1に筋肉2に筋肉、3.4も筋肉5も筋肉! いいかい生徒諸君。筋肉がなければ魔法は使えないんだ。筋肉に魔力が溜まってくるのを感じるだろう? さあみんなも一緒に、掛け声は筋肉筋肉! 俺の妹ユリナも筋肉を鍛えるのが大好きだったんだよ」
魔法って、なんだっけ。と思っているのは私だけじゃないはずだ。
みんな汗びっしょりで実習場の地面に倒れ込んでいる。
「き、聞いていた話と、違う……」
「わたしもです……。去年までは、大人しくて控えめな人だと、聞いて、いたんだけ、ど……」
情報通なオーちゃんの情報網にも引っ掛からなかった、この激変はなんなの。
前世ではインドア派だった私、今世でもダンスレッスンと乗馬以外は運動と呼べるものをしていなかった。
体がついていかない。
ワンはというと、さすが犬獣人のクオーター。尻尾を振り回し、楽しげに駆け回っている。けれど、ネガは地面とお友達だ。さっきから倒れたまま動かない。
授業開始前には、みんな「呪文唱えるとこから学べるのかな」なんてワクワクして話し合っていたのに、授業後は無言で食堂の椅子に座って燃え尽きている。ただ一人を除いて。
「いやあ楽しかったねー。どんなつまんないものかと思っていたけど、いい意味で期待を裏切られたよ!」
わたしの向かいにはワンとネガが座っている。ネガは体力が尽きて食欲も失せたのか、スープだけだ。
ワンは山盛りサンドイッチを飲み物みたいに勢いよく食べている。吸引力が変わらないただ一つのワンコ。
「すごいね、ワン。私も見習わないといけないな」
「俺は見習いたくない」
学院の食堂は自由席。調理場のカウンターで今日のごはんをもらってくる、どこにでもある社食の豪華版みたいなものだ。
みんな黙って機械的に口にサンドイッチを運んでいるのに、よくこんなに食欲があるなあ。
こんなに目一杯運動したのなんて、前世の高校、体育の授業以来うん十年ぶりだった。
「はあ、セバスの淹れる紅茶を飲んで癒されたい……」
「どうぞ、お嬢様」
飲みたいと思ったタイミングで、お茶が出てきた。
セバスの声が聞こえた気がして顔を上げる。
「お嬢様、勉強を頑張っておられるのですね」
見間違いでなく、セバスがいた。
「セバス!? どうしてここに!」
「この食堂で働く者が二人、産休に入ったんです。旦那様はこの学院の理事の一人ですから“シュウの様子も見られるから、その二人が復帰するまでの間行ってこい”と、仰せつかりました」
グッジョブ父上、産休に入った方達!!!!
心の中で拍手喝采する。
二年間まともにセバスと会えない悲しい学院生活になると思っていたのに。セバスがいるなら薔薇色玉虫色だ。
「それは心強いわ。学院でもあなたのお茶を飲めるなんて、こんなに嬉しいことはないもの」
嬉しさのあまり、セバスの手を両手で掴んでブンブン振り回す。ゼロに落ちていた気力が、一気に1000%にまで浮上した。
「お、お嬢様、落ち着いてください」
「あ、ごめんなさい。あまりに嬉しくてつい」
「お世辞でも嬉しいですよ。お嬢様」
「お世辞なんて言わないわ。本当に、あなたの顔を見たかったのだもの」
セバスは本当にただのお世辞と思っているのか、小さく笑うだけだった。くっ。年の差30以上だものね、近所の小さい子に懐かれたくらいにしか思われていないのね。ちゃんとレディとして見てもらえるように、頑張らなきゃ。
授業風景はスチルでしか見ていないから詳しい内容はわからなかったが、思っていた以上に体力勝負だった。
走り込み200メートルと腕立て伏せ腹筋20回を1セットにして50回。これが今日の授業だった。
先生はスポーツジムのCMに起用されていそうなマッスル男性マサール。この人ゲームだとヒョロくて気弱な人だった気がするんだけど、全然違うじゃない。
「ハーッハハハハハ!!! 1に筋肉2に筋肉、3.4も筋肉5も筋肉! いいかい生徒諸君。筋肉がなければ魔法は使えないんだ。筋肉に魔力が溜まってくるのを感じるだろう? さあみんなも一緒に、掛け声は筋肉筋肉! 俺の妹ユリナも筋肉を鍛えるのが大好きだったんだよ」
魔法って、なんだっけ。と思っているのは私だけじゃないはずだ。
みんな汗びっしょりで実習場の地面に倒れ込んでいる。
「き、聞いていた話と、違う……」
「わたしもです……。去年までは、大人しくて控えめな人だと、聞いて、いたんだけ、ど……」
情報通なオーちゃんの情報網にも引っ掛からなかった、この激変はなんなの。
前世ではインドア派だった私、今世でもダンスレッスンと乗馬以外は運動と呼べるものをしていなかった。
体がついていかない。
ワンはというと、さすが犬獣人のクオーター。尻尾を振り回し、楽しげに駆け回っている。けれど、ネガは地面とお友達だ。さっきから倒れたまま動かない。
授業開始前には、みんな「呪文唱えるとこから学べるのかな」なんてワクワクして話し合っていたのに、授業後は無言で食堂の椅子に座って燃え尽きている。ただ一人を除いて。
「いやあ楽しかったねー。どんなつまんないものかと思っていたけど、いい意味で期待を裏切られたよ!」
わたしの向かいにはワンとネガが座っている。ネガは体力が尽きて食欲も失せたのか、スープだけだ。
ワンは山盛りサンドイッチを飲み物みたいに勢いよく食べている。吸引力が変わらないただ一つのワンコ。
「すごいね、ワン。私も見習わないといけないな」
「俺は見習いたくない」
学院の食堂は自由席。調理場のカウンターで今日のごはんをもらってくる、どこにでもある社食の豪華版みたいなものだ。
みんな黙って機械的に口にサンドイッチを運んでいるのに、よくこんなに食欲があるなあ。
こんなに目一杯運動したのなんて、前世の高校、体育の授業以来うん十年ぶりだった。
「はあ、セバスの淹れる紅茶を飲んで癒されたい……」
「どうぞ、お嬢様」
飲みたいと思ったタイミングで、お茶が出てきた。
セバスの声が聞こえた気がして顔を上げる。
「お嬢様、勉強を頑張っておられるのですね」
見間違いでなく、セバスがいた。
「セバス!? どうしてここに!」
「この食堂で働く者が二人、産休に入ったんです。旦那様はこの学院の理事の一人ですから“シュウの様子も見られるから、その二人が復帰するまでの間行ってこい”と、仰せつかりました」
グッジョブ父上、産休に入った方達!!!!
心の中で拍手喝采する。
二年間まともにセバスと会えない悲しい学院生活になると思っていたのに。セバスがいるなら薔薇色玉虫色だ。
「それは心強いわ。学院でもあなたのお茶を飲めるなんて、こんなに嬉しいことはないもの」
嬉しさのあまり、セバスの手を両手で掴んでブンブン振り回す。ゼロに落ちていた気力が、一気に1000%にまで浮上した。
「お、お嬢様、落ち着いてください」
「あ、ごめんなさい。あまりに嬉しくてつい」
「お世辞でも嬉しいですよ。お嬢様」
「お世辞なんて言わないわ。本当に、あなたの顔を見たかったのだもの」
セバスは本当にただのお世辞と思っているのか、小さく笑うだけだった。くっ。年の差30以上だものね、近所の小さい子に懐かれたくらいにしか思われていないのね。ちゃんとレディとして見てもらえるように、頑張らなきゃ。
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