私の本命は攻略できないバグなのでノーマルエンド目指します。
私はシュウ・ジン・コーナー子爵令嬢。
前世日本人のアラフォー女だ。
単刀直入に説明すると、生前にやっていた乙女ゲーム『まじKALスクール・恋の魔法』略してマジまほの主人公に転生した。
乙女ゲーム転生もののマンガは、密林読み放題プランで読みあさったから履修済。
なので7歳のとき転生したことに気づいても慌てなかった。
というのも、このゲームは初心者向けで、どう転んでもバッドエンドやゲームオーバーがない、ぬるすぎるのヌルゲー。
誰とも恋に落ちないノーマルエンドは、普通に学院を卒業して就職する。
誰かと恋しなくても順風満帆なのだから、焦りようがない。
攻略キャラ一同に婚約者はいないし、出てくる令嬢オー・エンは主人公の幼馴染みでサポートキャラ。
国内唯一の新聞社を経営するエン一族の跡取り娘。とっても情報通で、学院生のことで知らないことはない。
攻略キャラの生年月日、彼らが好むプレゼントやデートスポットだけでなく、“学長先生のカツラは馬の尻尾の毛で作られている”という役に立たなそうなことまで網羅している。
攻略対象のプロフィールや好感度を知りたいときは、学生寮で明日の支度をしているとき、オーちゃんに聞くと答えてくれる。
そして今、私はゲームのシナリオ通りに18歳になり、魔法学院に入学式を明日に控えている。
寮の部屋はオーちゃんと一緒。
入学するここまで出会ったキャラはゲームのシナリオ通りだったから、学院に入学すれば攻略キャラたちと出会うのだろう。
ティーブ国のネガ第三王子。
従兄弟のツン・デレス。
辺境伯の子息トッテ・モン・ノーキン。
子爵家次男坊のワン・コウケイ。
隣国からの留学生で王太子、デキア・イースルー。
みんな一癖も二癖もあるイケメン。
それなのに恋愛ルートに入ると絶対に浮気しない。
元プレイヤーとして攻略キャラに愛着はあるんだけども……………………。
私がマジまほをプレイしていて一番好きだったキャラは、いわゆる攻略できないバグ。
トランクに寮生活で必要になるであろうものを厳選して詰め込んでいると、私室の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
きれいな角度でお辞儀して入ってきたのは、執事のセバス・チャン。御年55。
コーナー家に仕えて40年の最古参だ。
オールバックの茶色い髪が素敵。白髪がまじり始めているのも良い。
モノクルなのも最高。落ち着いた物腰で穏やか。
「ご希望のお茶をお持ちしました」
「いただくわ」
寮に入れば2年間、長期休暇以外で屋敷に帰ってこれない。
だからセバスの淹れたお茶を飲んでおきたかった。
紅茶は私の好みに合わせてやや温め、添えられているのはドライフルーツ。ケーキのような菓子を好まないのもすっかり把握されている。
異世界といっても、ここも世界として存在しているのだから過去がある。
シュウとして生きた18年、セバスは生まれたときから私を見てきたのだ。
食の好みは熟知していても、きっと私の気持ちは知る由もないはず。
セバスが好きだ、なんて、一度も口に出したことはないのだから。
人生の荒波を何度もくぐり抜けてきたであろういぶし銀、イケオジ。
なぜセバスは攻略キャラに昇格しないの。
キャラデザも性格も声も、何もかも私のストライクなのに。
プレイした当時、ゲーム会社のプレイ感想アンケートには、文字数制限の1万文字までガッツリとセバスを攻略したい愛と熱意を書き込んだ。
セバスを攻略できるなら★5、攻略できないから★2。
セバスをこの世界に生み出してくれたことに感謝して★2。セバスを攻略できないからマイナス3。それくらいセバスの比重はでかい。
ダウンロードコンテンツ、外伝、続編でもいいからセバス攻略を!!!!!!!!
と切に願って、初詣の願掛けや七夕の短冊にまで書き込んだのに願い叶うこと能わず。
発売から10年経ってマジまほの会社が倒産したから、もう願いは叶わない。
せめてこの世界にいる間は目一杯セバスを堪能したる。
だから私は明日からの2年間、攻略対象キャラたちと関わらないと心に決めている。
目指すはノーマルエンド、何もない卒業だ。
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