囚われのライラは千一夜アルゴスに謳う

 吟遊詩人は、王宮での夜語りにもだいぶ慣れてきました。
 外に出してもらえない以外は不満はありません。

「王子も外を歩いてみたらいかがでしょう。せっかく目が見えるのですから」
「必要と思わない」
「……神様は、なぜわたしでなく貴方に光を与えたのでしょう」

 宝の持ち腐れとはこのこと。
 吟遊詩人は肩を落としました。




 あるところに、藍色の髪の海賊がいました。
 男は物心ついたときには海賊船に乗っていて、仲間たちと略奪をして生きてきました。
 二十歳になって最初の航海で、商船を襲いました。

 乗組員はほとんど海に飛び込んで逃げてしまいましたが、金目の船長だけは最後まで船に残り、剣を振るって抵抗します。

 有り金と積荷をすべて寄越すなら命だけは助けてやる。
 男が剣を突きつけて脅すと、船長は目を見開き、男の名を呼びました。

 海賊になるときに捨てた、過去の名前で。

 船長は、男の父親でした。
 男は幼いころ海賊に誘拐されてそれきりだったのです。
 自分の息子が、まさか誘拐犯である海賊のもとで育ちそのまま海賊になっているとは夢にも思っていませんでした。

 船長は、ずっと行方を探していたことを話し、どうか海賊をやめて帰ってくるよう説得します。

 仲間を取るか、父親を取るか。
 二択を迫られ、男は父の手を振り払いました。

 お前の息子はもうこの世にいない。名のある商船の船長に、いてはいけない。

 自分の悪行が父の名を汚すと理解し、海賊の仲間とともに商船を離れる道を選んだのです。
 



 
 吟遊詩人はライラを抱えて寝室をあとにしました。
 王子はもう寝ています。
 他人に興味がない王子ですから、このあと親子がどうなったか、あえてうたいませんでした。

 
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