囚われのライラは千一夜アルゴスに謳う
翌日、吟遊詩人は熱を出して医師の診察を受けることになりました。
枷の金具で足が傷つき、膿んでしまったのです。
薬湯の効果は微々たるもの。
医師が枷を外さないと命に関わると進言しました。
「外せばこいつは逃げてしまう。そうしたらおれはまた眠れなくなるではないか」
吟遊詩人がぐったりしているのに、王子は自分のことを心配しています。
「このまま悪化すればわたしは死ぬでしょう。それなのに傷を放置してうたえとおっしゃるのですね」
心無いと指摘されて、王子は唇をかみました。
「…………外してやれ」
まわりの人間も安堵します。
みんな王子を恐れて言えずにいただけで、子どもが囚人のような扱いを受けるのは心苦しかったのです。
吟遊詩人は熱が下がってから、夜語りに戻ります。
あるところに藍の髪をもつ老人がいました。
妻に先立たれてもう十年。
今は妻とかわいがっていた金目の猫と暮らしていました。
子のできない夫婦だったので、この猫が我が子のようなもの。
老人は少ない収入でも猫の好物を用意して、猫が怪我をすれば丁寧に手当します。
猫も老人のことが大好きで、名前を呼べばどこにいても応えるし、寝るときは老人の布団で一緒に寝ます。
老人が天寿を全うしたときも、猫はそばに寝ていました。
老人は真面目で、もしものときは猫のことを頼むと近所の青年に頼んでいました。
約束通り、青年が猫を引き取ります。
猫は青年に引き取られてからも毎日老人の家に通いました。
もう開かない扉の前に寝そべり、帰ってくるのを待ちます。
青年が、もう帰ってこないんだよと教えても、猫は老人の家に通いました。
猫の言葉で、老人を呼びます。
いつかまた抱きしめてくれると信じて、呼び続けました。
翌年、猫は老人の家の前で召されました。
本来なら獣は人と同じところには埋葬されませんが、青年は二人のことを考えて老夫婦の墓の隣に埋めてやりました。
金目の猫は、老人にとって最愛の我が子だから。親子を引き離すことなどできませんでした。
王子が眠り、吟遊詩人は部屋に戻りました。
吟遊詩人は寝ている間、夢を見ます。
夢の吟遊詩人は色のある世界にいます。
あるときは狼の娘に、またあるときは辺境の村の少年に。
夢から醒めるたびに、いつか夜語りから開放されて、藍と金のふたりに巡り会いたいと思うのでした。
枷の金具で足が傷つき、膿んでしまったのです。
薬湯の効果は微々たるもの。
医師が枷を外さないと命に関わると進言しました。
「外せばこいつは逃げてしまう。そうしたらおれはまた眠れなくなるではないか」
吟遊詩人がぐったりしているのに、王子は自分のことを心配しています。
「このまま悪化すればわたしは死ぬでしょう。それなのに傷を放置してうたえとおっしゃるのですね」
心無いと指摘されて、王子は唇をかみました。
「…………外してやれ」
まわりの人間も安堵します。
みんな王子を恐れて言えずにいただけで、子どもが囚人のような扱いを受けるのは心苦しかったのです。
吟遊詩人は熱が下がってから、夜語りに戻ります。
あるところに藍の髪をもつ老人がいました。
妻に先立たれてもう十年。
今は妻とかわいがっていた金目の猫と暮らしていました。
子のできない夫婦だったので、この猫が我が子のようなもの。
老人は少ない収入でも猫の好物を用意して、猫が怪我をすれば丁寧に手当します。
猫も老人のことが大好きで、名前を呼べばどこにいても応えるし、寝るときは老人の布団で一緒に寝ます。
老人が天寿を全うしたときも、猫はそばに寝ていました。
老人は真面目で、もしものときは猫のことを頼むと近所の青年に頼んでいました。
約束通り、青年が猫を引き取ります。
猫は青年に引き取られてからも毎日老人の家に通いました。
もう開かない扉の前に寝そべり、帰ってくるのを待ちます。
青年が、もう帰ってこないんだよと教えても、猫は老人の家に通いました。
猫の言葉で、老人を呼びます。
いつかまた抱きしめてくれると信じて、呼び続けました。
翌年、猫は老人の家の前で召されました。
本来なら獣は人と同じところには埋葬されませんが、青年は二人のことを考えて老夫婦の墓の隣に埋めてやりました。
金目の猫は、老人にとって最愛の我が子だから。親子を引き離すことなどできませんでした。
王子が眠り、吟遊詩人は部屋に戻りました。
吟遊詩人は寝ている間、夢を見ます。
夢の吟遊詩人は色のある世界にいます。
あるときは狼の娘に、またあるときは辺境の村の少年に。
夢から醒めるたびに、いつか夜語りから開放されて、藍と金のふたりに巡り会いたいと思うのでした。