囚われのライラは千一夜アルゴスに謳う

 千日目。
 反乱軍が王城を取り囲んでいました。
 王がまっさきに逃げ出し、ハレムの妻たちも逃げましたが、反乱軍に捕まったと聞きます。

 城に残ったのは王子と王妃、吟遊詩人、僅かな兵だけでした。
 王妃……王子の母は王国軍を指揮するため先陣を指揮しています。
 吟遊詩人の足には、はじめのころつけられていた鉄の足枷がはめられています。

「このような状況でも、逃げないのですか」
「其方もな。自分のしたことの責任だ。それよりも、ほら、うたえ」

 吟遊詩人は、なぜ今の状況でまた王子が足枷をはめたのか、察しました。
 察したけれど、口にはしません。
 王子が吟遊詩人の言葉を望まないであろうことも、察したからです。


 それは、遠い遠いむかしのこと。
 世界を作った神の夫婦がいました。
 夫は恋多き男で、妻がいるのに愛人を侍らせていました。妻以外の女との間にも子が複数います。

 妻は嫉妬のあまり愛人を牢屋に入れ、自分の配下である金目の魔物に監視を命じます。
 百の目を持つ眠らぬ怪物なので、眠る隙を見て逃げるなんて叶わぬ話。

 愛人を大切に思う夫は、藍の髪の息子に魔法のライラを託しました。
 このライラを奏でて魔物を眠らせ、少女を逃してほしい。

 息子は少女が囚われている経緯を知らないので、父に言われるまま魔物に近づき、ライラを奏でて魔物を眠らせました。
 夫は魔物が眠る間に、愛人を連れて逃げました。

 これに憤った妻は、監視の役目を果たせなかった魔物と、愛人を逃してしまった息子に呪いをかけました。

 女神がいいというまで、必ず巡り合い死ぬ呪いを。

 息子と魔物は不幸な死を遂げ、その後何度も何度も生まれ変わり、巡り合います。
 
 
 そして巡り合って死ぬこと、千回。
 この世に神も魔物もいなくなったのに、呪いは生き続けました。


 二人のいる部屋に、いくつもの足音が近づいてきました。
 反乱軍たちが、眠る王子と吟遊詩人を見つけました。

 ただの女の子が、足枷をはめられこんなところにいるのです。
 仔細を知らぬ者の目には、暴君に幽閉されている可哀想な被害者にしか見えませんでした。

 吟遊詩人は故郷に帰らせてもらえることとなり、
 王子は、兵たちに捕らわれることとなりました。
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