囚われのライラは千一夜アルゴスに謳う

 翌日、城の中にある話が出まわりました。
 王子がクビにした者の墓参りをしたと。
 その話は吟遊詩人の耳にも届きました。

「どういう心境の変化ですか」
「別に、いちいち言わなくてもいいだろう」

 吟遊詩人の問いかけにも素直に答えません。 
 言わないけれど、死を悼む気持ちが少しでも生まれたことは良きことと、吟遊詩人は微かに笑いました。




 ある孤児院に双子の兄妹がいました。
 兄は金色の瞳、妹は藍の髪が印象的です。
 双子が七歳になったとき、孤児院に里親希望の夫婦がきました。
 子どもができない体だから、子どもを引き取りたい。けれどあまり裕福ではないから、里子をとれるのは一人だけ。

 その夫婦は妹を気に入りましたが、双子であることを知るとためらいました。

 だから兄は夫婦に言います。
 俺は大人になったら国一の剣士になって一人で身を立てるから、妹を連れていってほしい。

 妹は夫婦に引き取られ、隣国へと引っ越していきました。
 成長して、兄が孤児院を出たあとでも手紙のやり取りだけは続きます。

 友だちのこと、仕事のこと、大人になったら再会したいねと手紙で話しました。

 やがて兄は同じ街で育った少女と結婚し、親になりました。
 妹も同じ頃結婚し、子を産んだと手紙がきます。

 子どもが旅できる年齢まで成長してから、兄は妻子を連れて妹がいる国に行きました。
 けれど妹は二年前に亡くなっていました。
 この二年、手紙を書いていたのは妹の夫だったのです。

 妹を案じる兄の気持ちを思うと、亡くなったこと伝えられなかったと夫は謝罪します。
 兄は妹の夫を責めることはしませんでした。
 どうかこれからも手紙を書いてほしいと頼みます。妹の名でなく、夫の名で。

 国をこえた文通は続きます。
 親のあとを継いで子同士が、孫が生まれたら孫同士が。

 互いを想う兄妹の絆は世代を越えて続いていきました。



 最後の一音を弾くときには、王子は眠りについています。
 吟遊詩人は今生の藍と金の二人のことを思います。
 仕合せでいるかどうか。光を持たない吟遊詩人は知る由もなく。
 侍女たちは王子が何も言わないので、吟遊詩人に二人の色を教えることはしませんでした。
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